東京ビッグサイト周辺を、世界最速のEVレーシングカーが走った記念すべき日

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Jaguar

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クルマの電動化が進むなか、フォーミュラレースという”格式”の高いレースの分野でも、バッテリー駆動のマシンによる「フォーミュラE」がある。レースのおもしろさとともに人気が高まってきている。ついに東京でも、2024年3月30日に、公道を使ったワールドシリーズ第5戦が開催された。

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鋭い加速による競り合いがフォーミュラEの見どころ。

関係者はグランプリならぬイープリ(E-Prix)と呼ぶABB・FIAフォーミュラE。現代的なレースで、EVのおもしろさが堪能できる。参加チームは11で、ジャガーをはじめ、日産、マセラティ、マクラーレン、ポルシェ、DSといった自動車メーカーも積極的に参加している。

どこがおもしろいかというと、EVには、乗ったひとはご存知のように、アクセルペダルを踏み込んだとたんに最大トルクが出て、ウルトラスムーズといいたくなるぐらいの加速性がある。それを活かしたレースなのだ。

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東京ビッグサイト内の駐車場や公道がコースとして使われたのはおもしろかったが、狭くてコーナーが多いとチームからはやや不満も。photo FIA

目がまわるぐらい速い。よくぶつからないものだと、感心させられるぐらいで、ある種の芸術的なサーカスを観ている気分にすらなる。加えて、レースをおもしろくする工夫もあって、食わず嫌いというか、観ないままでいると損をするとまで言える。

フォーミュラEが初めて開催された2014−15年シーズンから、東京でも開催したかったようだ。ようやく、温暖化ガスを出さないレースならいいんじゃないの、と公道をコースの一部に使う許可も下りたのだった。

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チームランキング1位をキープするジャガーTCSレーシング。

今回のシーズン10(2023−24年)第5戦では、ジャガーTCSレーシングが1位を保ったまま臨み、じっさいのレースでは、日産フォーミュラEチームと、マセラティMSGレーシングとの一騎打ちが、観ている私(たち)を興奮させてくれた。

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パドックではドライバーたちがヒーロー。

フォーミュラEの特徴は、基本的なスペックス(諸元性能)が各チーム共通であること。いわゆるワンメイクだ。F1のように車体設計もチームごとにまかせず、シャシー、バッテリー回生用フロントモーター、フロントブレーキ、フロントサスペンションシステム、バッテリー、それにボディは共通。

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ボディ後半のモーター、インバーター、サスペンションシステムなどは各チームが独自に開発。

いまの第3世代のマシンでは、リアの駆動用モーター、そこに装着されているインバーター、ソフトウェア、ギアボックス、リアサスペンションは各チームにゆだねられれている。出力の上限は350kWなど、いわゆる諸元の管理はけっこうきびしいもよう。

イコールコンディションに近くしているのは、開発費を抑えられるので参戦しやすくなるいっぽう、わずかな差ゆえチームの力が均衡して、シーズンを通してのレースがおもしろくなるという意図もあるだろう。

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EMOTION CLUBなるラウンジでインタビューに応じるジャガーTCSレーシングのバークリー氏(マイク)、ドライバーのエバンス(その左隣)とキャシディ(右端)。

じっさい、東京にいたるまで、1月のメキシコシティにはじまり、サウジアラビアのディルイーア(ここで第2戦と第3戦)、サンパウロと、1位を2回獲ったチームもドライバーもない。東京でも、5番目の勝者が誕生した。

私は、ジャガーTCSレーシングのちかくで東京ビッグサイト周辺で開催されたレースを観戦した。ジャガーは有力チームで、2022−23年はぎりぎりのところでシーズン優勝を逃し、今季も、第3戦で、チームもドライバーのニック・キャシディも優勝を果たし、チームもドライバーもポイントでトップにつけて、東京Eプリに臨んできたのだった。

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ジャガーは2016年に早くもピュアEVコンセプト「I-PACE」(発売は18年)を発表している。

「電気自動車による唯一のチャンピオンシップであるフォーミュラE 世界選手権を通して、ジャガーはハイパフォーマンスが求められる環境で新たな電気自動車テクノロジーをテストし、開発しています」

ジャガーは、世界初のネットゼロカーボン(CO2排出量実質ゼロ)レースカーの開発を通じて、モータースポーツの専門家のサポートやトレーニングを手がけるとともに、次世代のエンジニアを育てる活動を行っているとする。これをジャガーでは「Race To Road」と呼び、今回はフォーミュラEと次世代のEVとの関連性を強調する。そこもおもしろいところ。

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ジャガーTCSレーシングのプリンパルを務めるバークリー氏。

たとえば、ジャガーTCSレーシングのプリンパル(いってみれば総責任者)を務めるジェイムズ・バークリー氏は、現在、2025年に発表が予定されている新世代ジャガーの電動プレミアムモデルの開発に関与しているんだそう。

そんな裏(?)の事情を聞きながら臨んだEプリ。ジャガーのドライバーふたりは準決勝までは絶好調という成績だったが、前出のキャシディはテクニカル違反で19位スタート。チームメイトのミッチ・エバンスも他車の走行を妨害したと訴えられ、グリッド順位が下げられてしまった。

こういうペナルティはジャガーのドライバーに限ったことでなく、レースにつきもの。他チームでも入賞順位が取り消されたりと、最後に泣いたところがある。

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東京で優勝したマセラティMSGレーシング(ドライバーはギュンター)。Photo FIA

レースは、日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランドと、マセラティMSGレーシングのマキシミリアン・ギュンターとの一騎打ちの様相を呈し、観客をかなり興奮させた。さきに触れたように、加速力はエンジンの比ではないので、目の回るようなスピードでの競い合いなのだ。

はたして、性能(効率とエネルギー密度)でまさるマセラティのマシンは日産のオーバーテイクを許さず、ギュンターが優勝を手中に収めたのだった。マセラティも「将来のEVモデルのためにフォーミュラEの成績は重要」と、マセラティコルセ(レース部門)のヘッドであるジョバンニ・トンマーゾ・スグロ氏が、レース前のインタビューで語ってくれていた。ご同慶のいたりだ。

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優勝ドライバーのマキシミリアン・ギュンター。 Photo:FIA

第5戦が終わって、チームポイント1位はそれでもドライバーのがんばりでジャガーのまま揺るがず、ドライバーズポイントは、ニック・キャシディが2ポイント差で2位に甘んじる結果に。

「でも次回(4月13日と14日)のイタリア・ミサノでの第6戦と第7戦では、ぜったいにいい線いくと思います」。私のとなりでレースを観ていたジャガーTCSレーシングのスタッフはつぶやいていた(ただし大きな声で)。

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フォーミュラEはイコールコンディションなのでシーズン後半まで勝者が予想しづらいのもおもしろい点。

第5戦の順位を10位まであげておくと下記のとおりとなる。

1位ギュンター(マセラティ)、2位ローランド(日産)、3位デニス(アンドレッティ)、4位ダ・コスタ(ポルシェ)、5位ウェーレイン(ポルシェ)、6位ナト(アンドレッティ)、7位ミュラー(ABTクプラ)、8位キャシディ(ジャガーTCSレーシング)、9位フラインス(エンビジョン)、10位カマラ(ERT)。