福井の歴史と美食の魅力を再発見。「オーベルジュほまち」で、古民家暮らしを楽しむ

  • 文:山下美咲

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北陸新幹線が2024年3月に延伸し、首都圏からのアクセスが格段に便利になった福井県。かつて賑わいを見せた日本海に面する港町の三国(みくに)エリアに、この土地に色濃く残る歴史や文化を体感しながら美食に興じることのできる新たな宿泊施設、「オーベルジュほまち 三國湊」がオープンした。

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福井県の北西部沿岸に位置する、歴史情緒豊かな漁業の町である三国。県内有数の観光地、東尋坊からもほど近い

越前三国といえば、平安時代から龍の伝説が残る九頭竜川の河口に、古くより栄えた港町だ。この地域の物資を河川で輸送する際の拠点として繁栄し、そのピークは江戸中期から後期頃。北海道より持ち出した貴重な品々を大坂へ運ぶ北前船が発着する日本海側有数の寄港地として、豪商たちが軒を連ね、華麗な文化が花開いた。三国の花街が賑わう雅やかな様子は、江戸時代末期の遊郭番付表でも最上段に格付けされ、江戸の品川や四ツ谷新宿に並んで記載されるほどだったという。

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三国町随一の豪商が興した旧森田銀行本店は、国の登録有形文化財に指定されている

ただし、その発展が栄華を極めたのも江戸末期頃まで。明治期以降の主な物流を担っている鉄道が内陸部に設けられることが決まってから、この近辺の港町の存在感は次第に薄まっていき、貴重な建築や懐かしい街並みを数多く残しながらも、かつてのような活気は影を潜めてしまった。そんな、虚しくも美しい歴史ロマンを感じさせる場所への再注目を促すきっかけとなったのが、北陸新幹線の延伸開業。新幹線の新たな停車駅のひとつとなった芦原温泉(あわらおんせん)駅から車で約20分というこのエリアに点在する古民家を改装し、街の中に分散する宿泊施設としてローンチしたのが、「オーベルジュほまち 三國湊」というわけだ。

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一棟貸しで広々とした「工の字」のエントランス。中庭とウッドデッキがついている

フロント棟を中心に半径800m圏内に点在するのは、現状全部で11棟。宿泊棟のどれもが江戸から昭和にかけて建てられた町家で、港町の古民家ならではのめずらしい造りを残したものや、かつての蔵であったスペースを浴室としてリノベーションした客室もある。それぞれの家が持つ伝統を感じる風情や建築物としての個性を最大限に生かしながら、ラグジュアリーな和モダン様式のヴィラへと生まれ変わらせたのだ。

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雪見障子がこの地ならではの趣を添える「矢羽根」のリビングルーム

いずれの客室棟も広いキッチンを備え、短期宿泊から長期滞在まで、さまざまな形のステイを受け入れる。各部屋の至るところに日本画などの美しい古美術品が飾られているが、これらは古民家の改装の際に家や蔵の中で見つかったものたち。同じ地で再び息を吹き返し良好な環境下で飾られることで、これからは世界中から訪れる未来の滞在者たちへ、かつてこの地で愛でられた日本伝統の美的観念を伝えていくというわけだ。

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三国ならではの伝統工法や飾られている美術品に主眼を置いて鑑賞するのも楽しい。写真は「矢羽根」のベッドルームに飾られた掛け軸
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檜風呂を採用した「千鳥」の浴室。部屋によって雰囲気が違うので、人数やオケージョンに合わせて再訪しても

宿泊棟はそれぞれ、建物オリジナルのピースを残した大胆な造りを有するものをはじめ、個性に富んだデザインばかり。中には、天井の梁部分に江戸期の棟梁の書き付けが残されている客室などもあり、歴史好きにはたまらない滞在となるはずだ。また、滞在時には宿泊者限定の文化体験アクティビティも。経験豊富な地元のガイドによる「まち歩き体験ツアー」で、テーマに応じた三国湊の歴史を体感できる散策コースを案内してもらえるほか、「三國の調理体験」ではこの土地の食文化に詳しい講師とのクッキングを通して福井ならではの食文化を学ぶこともできる。これらは英語にも対応しているので、海外からのゲストをもてなす際に喜んでもらえそうだ。

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「タテルヨシノ 三國湊」の店内。奥にあるのはかつての蔵部分を改装した個室で、10名まで着席可能だ

このように、三国という土地に残る豊富な歴史資源を存分に堪能できる当施設。ただ、その名に冠する「オーベルジュ」という特徴も、ここを語る際に忘れてはならない大きな魅力のひとつといえる。宿泊棟と同じく古民家を改装したレストラン棟に店を構えるのが「タテルヨシノ 三國湊」だ。日本各地で複数店舗を経営する吉野建シェフが監修するメニューにより、和食のイメージが強かった福井ならではの食材を、絶品のフランス料理という形で味わうことができるように。

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あっさりとした福井産の甘エビの味わいにエディブルフラワーの芳しさが豊かな芳香を加えるテリーヌ。爽快感のある印象に、キャビアがまったりと濃厚な余韻をのせる

その味わいはもちろん、彩り豊かなデザイン性の高さにもファンが多いという吉野シェフの料理たち。食材によって福井の旬を感じられるのはもちろん、地元産の食材たちが吉野シェフの出身地である鹿児島県喜界島の素材やフレンチらしい世界基準の材料と合わさり、どのようなハーモニーを描きだすのか、ぜひご賞味を。

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福井の蛤と若狭牛を合わせた春らしい一品。ナイフの重みで切れてしまいそうなほど柔らかな肉に、蛤が弾力と塩味、コクを添えて。つけ合わせの野菜が食感をより多彩に

絶品の料理の数々は、美しい皿やカトラリー、また歴史ある建物を改装した店内空間とも相まって、かつてのこの地にはなかった新たな至福の体験を創出。ちなみに、店内に飾られたアートは多くが吉野シェフの自宅からこの店のために選んで持ってこられたものだといい、ここでも美術品の鑑賞が叶いそうだ。

古くから脈々と土地を彩ってきた時の流れに想いを馳せる歴史探訪と、今ならではの旬を思いきり味わう美食探求と。ふたつのベクトルで三国を堪能したなら、福井県というデスティネーションそのものに対する愛着が、信じられないくらいに高まるはずだ。

オーベルジュほまち 三國湊

福井県坂井市三国町南本町3-4-39

www.homachi.jp