イッセイ ミヤケのシャツに取り入れられた、京都の伝統的染色技法“板締め”の現場へ

  • 写真:竹之内祐幸

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日本のブランドが手掛ける洋服にも、さまざまな職人の技が取り入れられている。「板締め」「真綿の手引き」「エアブラシ」、それぞれの仕事が行われる現場を訪れ、職人たちの美しい手捌きを目撃した。本記事では、アイム メンが採用する京都の伝統的な染色技法「板締め」を紹介。

Pen最新号は『テーラードで行こう』。第2特集『手仕事のある服』では、今季新作の中から手仕事が施された“いいもの”を厳選し、工芸品のような趣のアイテムや、海外や国内のアトリエで目にした職人技も公開。ものづくりの背景を知ることで、それがどれほどの価値を持っているのか実感するはず。

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「板締め」

生地の一部を木の板に挟み、糸で強く縛って染色する伝統技法。木の板で挟まれている部分は圧迫により防染され、露出した部分だけが染まる仕組みだ。古くは奈良の正倉院に残る布にも確認されている。板に模様を彫ることで生地にその柄を反映させることもあり、生地の畳み方や染色の濃淡により、さまざまなパターンが生まれる。板に用いる木材の種類は、強度の観点からヒノキやスギが多い。 

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京都の工房にて、ポリエステルのシャツを挟んだ板ごと糸で強く縛っている様子。素早い手つきであっという間に巻き終えてしまったが、このように板締めを成せるようになるまでに10年はかかるという。取材時に作業していた職人は、この道42年のベテラン。

ニュアンスあふれる、ブロックカラーのにじみ

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完成した「イタジメ シャツ」。シワになりにくく水洗いもできる。カラーは写真のライトグレーの他にベージュとブルーが揃う。¥46,200/アイム メン(イッセイ ミヤケ TEL:03-5454-1705) 

「一枚の布」という三宅一生の思想を基盤に、徹底したものづくりを追求するメンズブランド、アイム メン。この「イタジメ シャツ」は、京都の伝統的な染色技法「板締め」を採用したもの。ベースにしたのは、表面に見える折り線に沿ってハンカチのようにコンパクトに折り畳むことのできる人気商品「コンパクト シャツ」だ。

板締めは、2枚の板で生地を挟んだ状態で染め上げる。挟まれた箇所とそうでない箇所の、染まり方の違いを活かしたものだ。まずは、コンパクト シャツを折り畳んだ状態で、染めたくない箇所だけを木の板に挟む。そして、挟んだ状態の板にぐるぐると糸を巻いて締めていく。力強く締める瞬間には「ギュー」と大きな音が響き、巻き終えた板を見ると、糸がめり込んでいるのがわかるほどだ。これで、染色時に染料が入る隙間がなくなった。

その後、1時間半ほど窯に入れて染色や洗いを行う。板の素材にはプラスチックではなく重くて扱いにくい木を選んでいる。ここには、木が染色時に水を吸って膨張することで2枚の板がより締まることや、しなる性質を持つので中の生地を傷つけないなど、合理的な理由が存在する。

染色を終えて板からシャツを取り出すと、挟んだ箇所は見事に染まっておらず、ブロックカラーが生まれている。色みの境界部分は微かなにじみがあり、手仕事の有機的な味わいを感じさせる。板締めが成立する条件は、挟んだ時に隙間ができないこと。そもそもコンパクト シャツ自体が平面的に畳める特性を持っていたからこそ成立する。イッセイ ミヤケのテキスタイル技術と板締め、両者の特性がマッチした、美しい邂逅ゆえの仕上がりだ。

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畳んだ状態のコンパクト シャツを挟んでいく。シャツが傷つくのを防ぐため、下に白い布を敷いている。
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左:金属を曲げた自作の機器に糸をひっかけながら巻いていく。「ギュー」と非常に大きな音が鳴るが、職人が腕に力を込めて締めるのは、ほんの一瞬だけだという。 右:糸の強度を増すため、糸巻きを水に浸しておく。乾燥した糸だと切れやすいそうだ。
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左:染色のため窯に投入。窯の口が小さいこともあり、小さく畳んだものしか入らない。 右:染色後、よく見るとブロックカラーの境界が微かににじんでいる。

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