【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第195回不適切にもほどがある!? 本格SUVに搭載された典雅なV8エンジンの魅力

  • 写真&文:青木雄介

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V8エンジン搭載により、SUVで最も強固な剛性をもっていたフレームや足回りがさらに強化された。

600年続く英国貴族の広大な敷地。大邸宅の背後にはうっそうとした森があり、前方には湖を望める壮大な風景が広がっている。その湖畔を愛犬のラブラドールと散歩する主人公のもとに、漆黒のディフェンダーが乗りつけられる……

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水平基調のデザインにタンのヴィンテージ風レザーが組み合わされた瀟洒(しょうしゃ)なインテリア。

これはガイ・リッチー原作のNetflix版クライムサスペンスドラマ『ジェントルメン』のワンシーンなんだけど、このディフェンダーはV8モデルで、カヤ・スコデラリオ演じるスージー・グラスの愛車という設定なのね。イギリスの貴族社会とマフィア社会を行き来する彼女は主人公の重要なパートナーになるんだけど、このディフェンダーは「絶対V8モデルでなければいけない」と思ったんだな。

主人公はもとより英国貴族はレンジローバー一択の世界観のなかで、スージーのディフェンダーだけが、それとなく溶け込みつつも絶妙に不穏な空気を醸し出すんだ(笑)。そもそもディフェンダーのV8モデルは高級化を図るランドローバー車種の最右翼で、値段は驚異の1500万円越えですよ。エントリーモデルが800万円強だからほぼ倍。でもその価値は間違いなくあるのね。搭載された5リッターの自社製スーパーチャージャー付V8エンジンが、英国貴族社会ならぬ、めくるめく高級車世界へのパスポートになっているからなんだ。

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開放感が高く、3人がしっかり座れるリアシート。

このエンジンは先代レンジローバースポーツSVRと同じエンジン(AJ8型)なんだけど、1997年につくられて第3世代目。グループの歴史がしっかりと刻まれているんですよ。その魅力とは極められた熟成に他ならない。このエンジンには何度となく乗っているけど、ディフェンダーでの演出がいちばん唸らされたね。

アクセルを踏むと、クラシックにゴロゴロ喉を鳴らすV8エンジンらしさが前面に出てきて、スーパーチャージャーの骨太なトルクが大排気量エンジンのような地力をもたらす。過吸系の動作音も控えめながら存在感があって、エンジンとしてものすごく品があるんですよ。

この出力をモノコックの剛性感あるボディが泰然と受けとめる。すると速度の高まりとともに、野性的で典雅な振舞いも心得たエンジンの魅力がさらに引き出されてくるんだ。嗚呼、高笑いとともに「不適切にもほどがある!」って言葉が漏れそうになる (笑)。そうそう、このエンジンを指して「まるで1960年代のマスタングのようだ」と評している北米のジャーナリストもいるのね。

なるほど。個人的には、手をかけたオーバーホールを終えたばかりのヴィンテージカーのエンジンに似ていると思ったね。リフレッシュした機械的な精緻さがあって、人の手によるアナログな感覚が導き出した奇跡的なバランスを感じさせる。このエンジンがあるからこそ、インテリアのヴィンテージ風レザーも決まるし、硬めのエアサスもしっくりくるんですよ。

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電子制御アクティブディファレンシャルをアップグレードし、全地形で快適な走行が可能になった。

今回ランドローバーは、ディフェンダーにV8エンジンを搭載するにあたってエアサスを再調整し、スプリングレートを再設定。さらにリアデフをアップグレードし、アンチロールバーをより太くした。

この甲斐あってか、オフロード車がオンロードを走るときの居心地の悪さみたいな、独特のランドローバー味が一掃されているんだ。高速道路でもワインディングでもハンドリングがスムーズで、もはやグループ最高峰である新型レンジローバーの領域に達している。

じゃあオフロード性能が犠牲になっているかといえば、もちろんそんなことはないんですよ。今回オールシーズンタイヤを履いていたこともあって豪雪地帯の秘湯に行ってみたんだけど、温泉地手前の圧雪されたツルツルの急坂を、一度もタイヤを滑らすことなく難なく登っていけた。

走行モードを変えることもなく、四輪に柔らかなトルクをかけて事もなげに登る。その間、ステアリングがぐぐっと細かく震えるから、デフでグリップできるホイールにトルクをかけているのがわかる。「これぐらいは余裕ですから」って感じでね。オフロードにおいては能力値が高すぎて、貴族の嗜みかってぐらいに落ち着いた振る舞いなんだ。個人的にめちゃくちゃ欲しくなったね(笑)。

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汚れにくいサテンダークグレイの20インチホイール。

最大のライバルはメルセデスのGクラスだけど、お互いに無い物をもったクルマ同士であり、ガンダムかシャア専用ザクのどちらを選ぶかぐらいの明快さなので(笑)、この選択は容易ですよ。やっかいなのは、このディフェンダーV8モデルは、確実に新型レンジローバーのライバルにもなるだろうってこと。

つまりレンジローバーが当然の選択の英国貴族でいえば、公爵とはいえまだ僕は若いし、ヒップホップも好きだし(たとえばね)、「もうちょっと角度のついた英国製SUVに乗りたいな」なんて血気盛んな若公爵にぴったり(笑)。それと『ジェントルメン』のスージー然り、パートナーにもステアリングを握って欲しいSUV。運転しやすいし、車体のスーパーブラックがキャラに映えること請け合いなんだ。

6_W_W.jpg標準装備のクアッドアウトボードマウントエキゾーストパイプに、グロスブラックのブレーキキャリパーが精悍なリアビュー。

ランドローバー ディフェンダー 110 V8

全長×全幅×全高:4945×1995×1970mm
エンジン:V型8気筒スーパーチャージド
排気量:4999cc
最高出力:525ps/6500rpm
最大トルク:625Nm/2500~5500rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン四輪駆動)
車両価格:¥15,880,000(税込)
問い合わせ先/ランドローバーコール
TEL:0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/defender/index.html