日本で国際的なウイスキーのイベントが開催!「秩父ウイスキー祭」と「World Whisky Forum」をレポート

  • 文:馬越ありさ

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「World Whisky Forum」では、17か国から訪れた100人で小諸蒸留所を見学した。

サザビーズで「山崎55年」が約8,100万円で落札、ボナムスでは「イチローズモルト・カードシリーズ」計54本が、約9,750万円で落札ーー。そうしたニュースを通じ、ジャパニーズウイスキーがブームだと感じている方も多いのではないだろうか。ジャパニーズウイスキーはオークションを賑わすだけでなく、世界中の愛好家が、蒸留所がある日本の地方都市を訪れる原動力にもなっている。

2月18日に埼玉県秩父市の秩父神社で行われた秩父ウイスキー祭には18か国から、続く2月19日から2月21日に長野県小諸市の小諸蒸留所で開催されたワールド・ウイスキー・フォーラムには17か国から、ウイスキーを愛する人々が集った。

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過去最大!4,000人の動員数を誇った、秩父ウイスキー祭

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右:秩父ウイスキー祭の実行委員長・横田武志(BAR Te・Airighオーナーバーテンダー)、左:出展者代表・肥土伊知郎(株式会社ベンチャーウイスキー代表取締役社長)。

2月18日に行われた秩父ウイスキー祭は、実行委員長の横田武志が、2011年にベンチャーウイスキーの秩父蒸溜所が「秩父 THE FIRST」を発売した際、「ウイスキーは、時間と、その土地の風土が育むお酒。ウイスキーの本場のスコットランドと同じように、蒸留所のある町でウイスキーのイベントを開催したい。」との想いをいだいたことが発端となっている。会場の一つでもある秩父神社には神事として認められており、開始前には本殿で祭の成功祈願を行っている。

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今年は英語でのチケットの販売システムも構築し、18か国から400人が秩父市を訪れた。

初開催の2014年は800枚のチケットを数カ月かけて販売していたが、11回目を迎えた今年は4,000枚が即完売したという盛況ぶり。なかでも目立っていたのが、参加者の1割を占めたという外国人の姿だ。秩父ウイスキー祭の実行委員を務めるバーテンダーたちが、日本のウイスキーを世界に広めたいとの想いからドイツやオランダのウイスキーのイベントに赴き、ウイスキーを介して世界各国のウイスキー愛好家と親交を深めた結果、自然と海外からの参加者が増えていったという。

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秩父蒸溜所のブースでは、樽から出したままのウイスキーの試飲も!非売品なので、行列ができた。

11時の開始を待たず、国内外の蒸留所をはじめとした約90のブースには長蛇の列が。中でも、秩父蒸溜所のブースは、入手困難な「イチローズモルト」だけでなく、樽から出したままのウイスキーも無料試飲できるとあって、30分以上の待ち時間ができた。ウイスキーが熟成された秩父の風情を感じながら飲むのは、愛好家にとっても特別な体験。職人と会い、憧れのスポーツ選手と会ったような興奮を見せたり、我が子の成長を見守るような眼差しを向ける愛好家の姿も印象的だった。

ウイスキーファン垂涎! 最も注目を集めたボトルたち

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毎年、秩父ウイスキー祭の参加者の抽選販売で完売してしまう「祭ボトル」と呼ばれるウイスキー。今年は全11種類がリリースされた。(株式会社RUDDER販売分)

17時の終了間際まで賑わいをみせたのは、2か所設けられた「祭ボトル」の抽選会場だ。「祭ボトル」とは、秩父ウイスキー祭の開催を記念したオリジナルボトルで、2015年から毎年、数種類のボトルがリリースされている。ウイスキー好きの実行委員たちがテイスティングして選んだ味は世界でも評価され、2017年の「祭ボトル」のひとつ「イチローズモルト 秩父ウイスキー祭2017」は、英国のウイスキー品評会ワールド・ウイスキー・アワードで世界一に輝いた。

このウイスキーファン垂涎のシリーズは、秩父ウイスキー祭のHPに掲載されている全国にある秩父ウイスキー祭実行委員のバー、21店舗を中心に味わうことができる。その土地の風土と、ウイスキーを愛する職人と、愛好家の情熱が育んだ味を、ぜひ一度楽しんでみて欲しい。 

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アジアで初開催! 小諸蒸留所で行われたワールド・ウイスキー・フォーラム 

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小諸蒸留所を見学する、世界的に有名なウイスキーライターのDave Broom(手前右)。

秩父ウイスキー祭の翌日、2月19日から2月21日の3日間で開催されたワールド・ウイスキー・フォーラム(WWF)。世界的に有名なウイスキーライターのDave Broomらが主催している国際的なフォーラムで、2017年から1年半に1回のペースで開催されており、ウイスキー業界の関係者が品質向上のために意見交換を行っている。5回目を迎える今回は「アジア太平洋:ウイスキーの新たな原動力」と題し、WWF史上初のアジアでの開催地として小諸蒸留所が選ばれた。フォーラムは全て英語。参加費は約20万円と高額ながら80人の業界関係者が集い、登壇者と合わせて17か国100人でのフォーラムとなった。

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小諸蒸留所の副社長兼マスターブレンダーIan Chang(写真右)。

小諸蒸留所は、「蒸留所が観光資源になり、小諸市の魅力を発信できれば」という想いもあり、セミナールームや試飲スペースが広く設けられている。台湾のKavalanを世界的なブランドに育てたIan Changが副社長兼マスターブレンダーとして参画しており、「浅間山麓の清らかな水でのウイスキー造りと、台湾とは異なる自然環境での熟成が楽しみだ」とフォーラムの冒頭で語った。

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ガイアフロー静岡蒸溜所の中村大航(写真右)。英語で会場を沸かせる場面もあった。

最初のセッションのテーマは「創業」。アジアにおける注目の蒸留所として、ガイアフロー静岡蒸溜所から中村大航が登壇した。2016年に蒸留開始をした若い蒸留所ながら、ウイスキーの原材料に地元・静岡産の大麦を用いる試みを行っており、その比率は20%にものぼるという。最近ではウイスキーの製造にもテロワールの概念を取り入れる蒸留所が世界的に増えており、その先駆けと言えるだろう。各国の参加者も中村の挑戦に感嘆していた。

17か国の参加者が注目! ジャパニーズウイスキーのセッション

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ジャパニーズウイスキーのセッションの様子。セッションは5つ行われた。

続く、ジャパニーズウイスキーのセッションでは、サントリーの福與伸二、ニッカウヰスキーの尾崎裕美、楫恵美子より、日本のウイスキーの特徴として、奇しくも同じ見解が述べられた。日本は、スコッチと違い、蒸留所同士でウイスキーを交換しブレンドして商品化する習慣がないため、1社で多彩な味のウイスキーを作り分ける必要があり、それが品質の向上に繋がったのだという。

各セッションでは質疑応答の時間も設けられ、「競合やベンチマークにしている蒸留所はあるか?」といった際どい質問に、尾崎が「我々は、切磋琢磨し品質を向上する仲間」と即答。他の登壇者の4名が深く頷く姿が印象的だった。

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嘉之助蒸溜所の特徴である3基のポットスチルの説明をする石原達也(写真左)と中村俊一 蒸溜所長(写真右)。

3日間を通じて一番盛り上がったのは、登壇者・参加者が持ち寄ったウイスキーのテイスティング。サントリーのボトルは1時間で空になるほどの人気だった。世界的な賞を多数受賞している各国のブレンダーたちが、新興蒸留所のウイスキーを熱心にテイスティングするだけでなく、会社の垣根を越えて意見交換している姿も目立った。

秩父ウイスキー祭からWWFへと続く4日間、ウイスキーに情熱を傾ける職人同士、職人と愛好家の交流が、ジャパニーズウイスキーを育み、世界での評価に繋がったのかもしれないーーそう思わせる熱気にあふれていた。

秩父ウイスキー祭

https://www.chichibuwhiskymatsuri.jp

World Whisky Forum

https://worldwhiskyforum.org