自然ゆたかなスウェーデンが生むものは、多様性に富んでいるようだ。日本では家具が有名だけれど、工業がさかんな国で、一般にもっともよく知られているのはボルボだろう(言いきり)。
ボルボといえば、日本でもピュアEV「EX30」が路上を走り出したばかり。大きく電動化に舵を切っている背景には、自然に恵まれた土地だけに環境問題に意識的という社会を背景にした企業姿勢が大きく影響しているようだ。
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私は2024年3月に「EX30 The Big Winter Drive」という同社のイベントに参加した。ストックホルムから飛行機で約90分の、スウェーデンのかなり北のほうにあるルレオを起点にしたドライブツアーだ。
雪深い土地をEVで走り、自然をうまく活かした、ちょっと日本じゃお目にかかれないようなラグジュアリーホテルに泊まる、というユニークな内容である。
「スカンジナビアンカルチャー、サステナビリティ、ウェルビーイング、ミニマリズム、デザイン」といったキーワードをあげて、「ボルボの価値観」を体験するのが目的と説明された。
内容は、スウェーデンの魅力を堪能させられるものだった。今回のホテルは、凍結した河沿いだったり、深い森のなかだったり。自然を乱開発してゴルフリゾートにしたりするのは日本の十八番かもしれないけれど、スウェーデンのラグジュアリーホテルには教えられるところ大だと私は思った。
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3月なので日本だとそろそろ春めく頃だけれど、北緯65度と、たとえば44度の網走よりはるかに北極に近いルレオでの体験は、ボルボのピュアEVは雪や氷の上でどんなふうに走るかを知るいいチャンスだった。
私がいたとき、ルレオの日中の最高気温が0度C。寒いけれど、ガマンできない気温じゃない。でも、たとえば1月のルレオの平均気温はマイナス13度C。こういう土地でもボルボは走り回っているのである。
私が乗ったのは2台のEX30。「シングルモーター・エクテンデッドレンジ」と、「ツインモーター・パフォーマンス」。ともに、日本で展開するモデルである。
「シングルモーター・エクテンデッドレンジ」は、モーター1基をリアに搭載して後輪を駆動。2023年に日本導入が発表され、24年3月には路上を走り出した。後者は、前後にモーター搭載で全輪駆動。パワフルなモデルで、こちらは24年中に日本で販売開始されるとのこと。
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これまで、EX30にはバルセロナで試乗したことがあった。でももちろん、雪道では初めて。
「どんな路面状況でも同じようなハンドリングを持つことが重要。なにかあっても、車両の動きが唐突でなく予測可能であることが、ドライバーに自信と安心感を与えるのです」
現地で話をした、ビークルダイナミクス(動力性能)を担当するプリンシパルエンジニアのケネス・エクストロム氏による説明だ。
はたして、エクストロム氏の言葉どおりだった。雪と氷と水が複雑な模様を描くようなスウェーデンの道での走行体験は、じつにスムーズ。200km以上、いっさいトラブルとか不安とか感じることなく、快適に走ることが出来た。
ツインモーターモデルは、静止から時速100kmまで加速するのに3.6秒と、スーパースポーツカーなみの加速性能をもち、薄く雪が積もった氷上でも、アクセルペダルを強めに踏み込むとほとんどタイヤの空転なしに、どんっといきおいよく加速していく。
こんな性能をして、自然を克服したというのか、自然とうまく共存しているというのか。ちょっと迷うところだけれど、冬のスウェーデンを走るのに、新世代のピュアEVはみごとな性能ぶりを見せてくれたのだった。
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ところで、ボルボは、この旅のために、ユニークなラグジュアリーホテルを用意してくれた。一軒は「アークティックバス Arctic Bath」。ルーレ Lule河ぎりぎりの河畔に建てられた「フローティングサウナ」がコンセプト。サウナ浴はスウェーデン名物なのだ。
レセプション棟は、外壁に材木が貼り付けられている。見方によっては大きな鳥の巣だけれど、ホテルによると、河に流れてきた枝や集まっているイメージなんだそうだ。ここでサウナとコールドバスの”お作法”が体験できる。
私が泊まったのは「Water」というキャビンで、外観は四角いキューブ状なのだけど、それが斜めになっている。これも伝統的なモチーフで、川沿いの建物が、冬のあいだはまっすぐ建っているけれど、春に下の氷が溶けると往々にして傾いたんだそうだ。ホテルのキャビンの床は傾いていません。
木肌を活かした内装で、大きなベッドを中心に、快適な装備はすべて揃っている。大きなストーブが据えつけられていて、零下10度Cの夜に、レストランから外を歩いて部屋に戻ったあと、焔を眺めてからだを温めているときのほっこりした気分は、日本ではなかなか味わえないもの。
もう一軒は、やはり日本でも知るひとぞ知る「ツリーホテル Tree Hotel」。スウェーデンの国土を広く覆う針葉樹林帯という自然環境のイメージどおり、ハラッズという森の中に8つのキャビンが点在する。
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そのキャビンのユニークさが、ツリーホテルを世界的に高い人気を集めるディスティネーションホテルにしている。なにしろ多くのキャビンは地面から離れている。私が止まった「7th Room」はベッドルームが2つとラウンジのあるキャビンで、地上10mのところに、まさにツリーハウスのように設置されているのだ。
ここから私は、トナカイの群れが走っていくのと、さらに太陽が姿を消してからオーロラが展開する”ショー”を、幸運にも楽しむことが出来た。「テラスが高いところにあるから背の高い松の樹のさらの上の空が広い視野で見えるせいですね!」とうらやましがられました!
興味ぶかかったのは、電気焼却式のトイレ。最後は灰になって処分されるため、土壌汚染の負荷が極端に少ないそうだ(電気は使うけれど)。部屋によっては、トイレもシャワーもなく、外部のブースにいって使う。場合によっては、むだを省くという意味で、自分がちょっといいことをしている気になれるのでは。
レストランでの食事はどちらのホテルも、レベルが高かった。スウェーデンの伝統料理がベース。たとえば魚(ホッキョクイワナ)料理に感心した。火入れ、ソース、つけ合わせ、どの部分のレベルをみても、私の経験からいうと、1980年代のストックホルムのいなかくささから百光年ぐらい離れた印象だ。
さいきんのストックホルムのレストランを巡っていると、日本のレストラン界(ビストロぐらい)はうかうかしていられないかんじがする。「アークティックバス」にしても「ツリーホテル」にしても、地元の食材もしっかり活かしている。つまりここでも、環境との調和をめざしているということだ。
ようするに、コンセプトがしっかりしていれば、レストランもホテルも、強いアピールを持つ。もちろん、クルマしかりである。この「EX30 The Big Winter Drive」を通してボルボが主張したかったことは、このように、しっかり私に伝わった。願わくば、この物語を通して、みなさんにも伝わらんことを。