
散らかしたまま寝てしまったはずのガレージが、翌朝になると毎回きれいになっている——。部屋の掃除を手伝っていたのは、1匹の熱心なネズミだった。
イギリス南西部のウェールズに住む元郵便配達員のロドニー・ホルブルックさんはある時、自宅の作業小屋で起きる不思議な現象に気付いた。工具類を作業台の上に出しっぱなしにしておくと、次の日の朝にはかならずきれいに整頓されている。
「最初は、鳥のために出していた餌が、物置に保管していた古い靴の中に入っていることに気づいたんです」と語るホルブルックさん。ほかにも置きっぱなしにしていた道具が、ほぼ毎朝きちんと箱の中に戻されている日が続いた。
75歳の彼は、英BBCのインタビューで、100晩あれば99晩ほどは作業台がいつのまにか整頓されていると語る。
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カメラが捉えたネズミの奮闘
嬉しいハプニングは続き、いつしか数カ月間が経った。真相を突き止めたいと思ったホルブルックさんは、作業小屋にカメラを仕掛けて眠ることにした。暗視カメラが闇のなか捉えたのは、せっせと道具をくわえては小箱に戻す、1匹のネズミの姿だった。
映像では夜10時近く、誰もいなくなった作業場の机の上に、ネズミが現れる。自分の体ほどの大きさもあろうかというケースのフタや、ホースの継ぎ手、そして結束バンドなど、散乱した品々を集めては箱に入れてゆく。長い棒などは手こずるようだが、それでも中ほどを口にくわえて器用にバランスを取り、2本の後ろ脚で立って精一杯に箱まで運ぶ。
ネズミが回収していた品々は多岐にわたる。英ガーディアン紙は、「仕事熱心なネズミが、ナットやボルト、それに洗濯ばさみや結束バンドなどを拾い集め、箱に片付けていた」と伝えている。
まるでピクサー映画のよう
動物写真家としても活動するホルブルックさんだが、動物が自身の納屋を片付けてくれているとはまったくもって予想だにしなかったようだ。以来、「ウェリッシュ・タイディ・マウス(ウェールズの片付けネズミ)」と名付け、活動を見守っている。
BBCは、ネズミが一流レストランの厨房で活躍するピクサー映画になぞらえ、「ホルブルックさんは、まさか自分の小屋で『レミーのおいしいレストラン』のような光景が展開されるとは夢にも思わなかった」とこのめずらしい一件を取り上げた。
ネズミはなぜ工具を箱に戻したのだろうか? ウェールズで害獣駆除サービスを提供しているペスト・アンド・プロパティ・ソリューションズ社のガレス・デイヴィス氏は、米ワシントン・ポスト紙に、ものを溜め込む習性が関係しているのではないかと語る。
「マウス(ハツカネズミなど小型のネズミ)はとても好奇心が旺盛な生き物で、溜め込むのが好きなんです。食べ物やその他、あらゆるものを蓄えます。ラット(ドブネズミなど大型のネズミ)とはまったく違うんです」
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病気で弱っていた気持ちが前向きに
デイヴィス氏の指摘するように、片付けではなく習性で溜め込んでいるだけなのかもしれない。だが、ホルブルックさんは別の可能性を信じている。前立腺がんから回復したばかりの彼には、ネズミが力を貸してくれているように思えてならない。
「かわいそうな人間だ、すっかり疲れているようだから代わりにやってあげよう」と思っているかもしれませんね——と、ホルブルックさんは笑う。
ネズミが片付けを手伝ったのは、ホルブルックさんの小屋が初めてではない。2019年にはウェールズから海峡を挟んだ対岸のブリストルで、別の小屋が夜な夜な整理される“事件”が発生した。暗視カメラによって別のネズミが片付けをしている姿が明らかになり、イギリスだけでなく世界で話題となった。
小屋の持ち主が当時、イギリスのEU離脱に備えてネズミが物資を蓄えているのだと冗談を飛ばしたことで、「ブレグジット・マウス」として知られることになる。
この小屋の持ち主は、実はホルブルックさんの友人であり、暗視カメラの設置を手伝ったのは当時近所に住んでいた他ならぬホルブルックさん自身だった。BBCの取材にホルブルックさんは、「だから、ここビルス・ウェルスで同じことが起こったことが信じられないんです」と心境を明かした。
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