“第二の小澤征爾”となる、可能性を感じさせるデビュー盤

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『シベリウス:交響曲第2番』

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1987年、青森県生まれ。ドイツ・ベルリン在住。東京藝術大学で高関健や尾高忠明に師事。2019年にはハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでクリスティアン・エーヴァルトとハンス・ディーター・バウムのもと修士号を取得。23年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任。 Ⓒ Felix Broede

クラシック音楽ファン以外からの知名度はまだ高くないかもしれないが、絶対に彼女の名前を覚えておいて損はない。沖澤のどかは、これから日本が世界に誇る指揮者として知られるようになり、あわよくば第二の小澤征爾と見なされる可能性を秘めた指揮者だからだ。

生まれは1987年。東京藝術大学と大学院を経て、ドイツへ留学。2019年に小澤をはじめ優れた指揮者の登竜門となっているブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した際には大手メディアもニュースを報じている。その翌年からは世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルの首席指揮者キリル・ペトレンコのアシスタントを務めた。これは小澤が若い頃に指揮者の帝王カラヤンに認められたことに匹敵する、すごいことなのである。輝かしいキャリア通り、実際にライブで鳴り響く音楽がいつも素晴らしい。奇をてらったことはしないのだが、それでいて予想の範疇に収まるような音楽にもならないのが沖澤の魅力だ。その特長は初のCDとなった読響との録音でも発揮されている。

シベリウスの交響曲第2番は演奏頻度の高い人気作だが、往々にしてチャイコフスキー的なロマン派の王道をいく解釈になりがちだ。ところが沖澤は20世紀のモダンな音楽として組み立てていく。たとえば第1楽章の終盤で、それまで並列の関係にあった複数の旋律が重ねられるのだが、それらをよくあるように一本の太い音楽にまとめない。沖澤はそれぞれを独立させたまま絡ませ合うので、聴き慣れたはずの作品なのに実に新鮮。メロメロな音楽になってしまいがちな第4楽章も、感情に任せて前に進むのではなく、着実に歩んでいくからこそ最終的に構築された巨大な音楽が立ち昇る。作品そのものを語らせることができる逸材なのだ。

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沖澤のどか 日本コロムビア COCQ-85619 ¥3,300

※この記事はPen 2024年4月号より再編集した記事です。