
米南部・テネシー州にある小さなエスリッジの町で、大雪にタイヤを取られたドライバー男性が立ち往生した。極寒のなか長時間身動きが取れない窮地を救ったのは、付近に住む男性の親切心と、彼が連れていた2頭の馬だった。
近隣住民が救出劇の一部始終を映像に捉え、心温まるエピソードとしてアメリカで報じられている。伝統的な移動手段として活躍してきた馬たちが流行のSUVを救った、ユニークな逸話として話題だ。
観測史上最大の積雪で起きた悲劇
テネシー州の広い範囲が大雪に見舞われた、1月15日の早朝。米フォックス・ニュースによると当時、北へ1時間ほど車を走らせた州都・ナッシュビルでは、この日付の24時間積雪量としては観測史上最大となる7.6インチ(約19.3センチ)が観測された。
特異な気象条件のなか、エスリッジの町を走行中だった白のSUVが不運に見舞われる。雪に覆われた道にハンドルを取られ、道路脇の深さ1mほどの溝に前方から突っ込んでしまった。
突っ込んだ先では溝の側面がなだらかに傾斜し、さらにぶ厚い積雪で覆われている。脱出しようにも、溝にはまった前輪は雪でスリップし、空転するばかりだ。SUVの大きな重量も足かせになり、寒さのなかドライバー男性は途方に暮れた。
そこへ、騒ぎを聞きつけたアーミッシュの男性が救出に向かう。アーミッシュはテクノロジーと距離を置き、極めて伝統的生活な生活を重んじる人々の集団だ。通常、車を所有することはない。彼が一路現地へ連れ立ったのは、2頭の立派な馬だった。
空を掴むばかりの車を馬たちが救う
近隣住民が、現場を映像に収めている。問題のSUVは、完全に前方2輪を深い溝につっこんおり、車体は目算で20ºほど前掲している。車の腹だけが溝の脇の土手に接地したまま、後輪もほぼ浮き上がっているようだ。
通りがかりの車の窮地を救うべく、アーミッシュの男性と2頭の馬たちが現場に到着。車体から少し離れた位置に、車に対して尻を向ける形で馬たちを並べた。馬を前進させ、車体を後進させる算段だ。
車体後部にワイヤーを結びつけると、もう一方を馬たちから後ろへ延びる牽引用の綱(胴引き)と結び、救助を開始する。アーミッシュ男性の号令のもと、馬たちは数度いななき、たくましく車を牽引。声にあわせ、たるんでいたワイヤーがピンと宙に張られる。
苦戦のなか訪れた、一瞬のチャンス
だが、さすがの馬とはいえ、SUVの牽引は大仕事だ。2頭は車を引きながら前へ進もうとするも、重い重量に阻まれずるずると後退してしまう。車側も、かろうじて接地した後輪を猛回転させるが、むなしく雪煙を巻き上げるばかりだ。
馬と力を合わせた脱出作戦は続き、救助に駆けつけた数人もフロントを押し続けるが、それでも状況は変わらない。
しかし次の瞬間、突如として事態は好転した。馬による懸命な牽引が功を奏し、数度強く引かれたことで車体のバランスが変化。4輪が接地した瞬間を逃さず、運転手が激しくタイヤを回すと、車は完全に雪の大地を掴んだ。
撮影者や集まった人々の歓声とともに、車はそのまま慎重に平地へと脱出。運転手も無事で車体にも目立った損傷はなく、救助作戦は見事成功を収めた。
動画に添えられた短い映像によると、馬たちは通常、雪道でソリを引き、アーミッシュの人々ないしは観光客らの足となっているようだ。雪慣れした地元の馬たちがSUVの窮地を救った、めずらしい一件となった。
極寒のなか沁み渡る善意
アーミッシュの男性の行動は、多くの人々から賞賛されている。テクノロジー全盛の現代にあって、少しの親切心と昔ながらの馬の力強さを物語る事例となった。
全米紙のUSAトゥデイは、「特にこの天候では、善行ほど瞬く間に心を温めるものはない」と述べ、極寒のなか援助を惜しまなかった人々の善意を強調。
米大手自動車メディアのジャロプニクは、「このような仕事をする馬たちに感動しないわけがない」「馬とバギーは、100年前にほとんどの国から見放されたかもしれないが、特定の状況において、今でも車やトラックと並ぶ能力を発揮することができる」と述べ、馬の健闘を称えている。
ソーシャルメディアに驚きが広がる
この様子を収めた動画を米NBC系列のWKYC局が公開すると、コメント欄にはアーミッシュの男性と馬たちへの賛辞が寄せられた。
「2馬力と少しの力で何ができるか、驚かされた」
「2馬力が350馬力を救った」
「馬たちは本当に働き者だ」
「(助けようという)スピリットが大好きだ」
「これぞアメリカ!活用できるものは活用するんだ」
「すごくいい話。助け合いのコミュニティがある」
寒波が襲うアメリカでは、Teslaなど電気自動車でバッテリーの出力が上がらずに立ち往生する例も多く報じられている。不便も伴う伝統的生活だが、緊急時に強みを発揮する形となった。
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