【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第193回まるで伝説的なバンドの解散みたい。ホットロッド御用達モデルのラストダンス

  • 写真 & 文:青木雄介

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ホットロッド定番のセンターストライプを纏ったファイナルエディションは国内限定50台が販売される。

シボレーの2ドアクーペ、カマロがこのファイナルエディションをもって生産中止になる。復活はすでに予言されていて、おそらくEVとなってシボレーのラインアップに加わると思うけど、ため息が出たよね。生産中止はこれで二度目だし、進化し続ける一家の長男、コルベットの手のかけられ方とは雲泥の差(笑) 

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グローブボックスに貼り付けられた限定プレート。

1967年にフォード・マスタングの対抗馬として販売され、4代にわたるロングモデルとなるも2002年に生産中止。2009年には、原点回帰のデザインで輝かしい復活を果たしたマスタングに対抗して、こちらも初代を思わせるレトロな顔つきで市場に戻ってきた。映画『トランスフォーマー』のバンブルビーとなり一躍子どもの人気を博した時期もあったけど、根底に流れる血はヴィラン(悪役)であり、そのキャラクターがホットロッド・コミュニティに愛される理由でもある。そう、「食われるより食ってしまえ」の精神ですよ。

とはいえ、このファイナルエディションとなる第6世代カマロは、ホットロッド・カルチャーの遺産を受け継ぐ歴代最高傑作なのね。まず走る、曲がる、止まるという基本性能がしっかりしている上に乗り心地も素晴らしい。なによりホットロッド視点でいくと、現行カマロ以上にマナーに則ったモデルはないはず。

例えば、チョップドルーフよろしく視界の狭いフロントウィンドウは、前方の一点を見つめるためだけにあれば良い、とかね。座ればまるで走る棺桶、もといバスタブですよ(笑)。最高にクールだね。

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ジェットブラックの室内には、レザーとスウェードをあしらったレカロシートが組み合せてある。

代名詞でもある巨大なドアを開ければ、ペダル類のある足元がえぐられるように凹んでいて、めいっぱい足を伸ばしたまま着座できる。ハンドルを伸ばすと、理想のクルージングポジションが完成。30年以上前のカマロへ乗り換えたのかと錯覚するぐらい、感覚が一緒なんだ。

エンジンをかければ6.2リッターのV8 OHVエンジンが目を覚ますんだけど、かつてのようにデロデロとは鳴らず、時折思いついたようにデロっとくる。そういう演出なのに大排気量エンジンの存在感がより際立っていて、押さえるところを押さえた“わかってる感”がハンパない。

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第7世代コルベットと共用される6.2リッターV8 (LT1)OHV自然吸気エンジン。

アクセルを踏みつければ強力なフレームの剛性感とあいまって、エンジンがドルンと震えるのがわかる。そして8本のシリンダーで爆発する怒りの交響楽とともに、猛烈に加速していく。直噴エンジンらしいトルクのつきを存分に味わいつつ、車窓の景色を一気に置き去りにして、前方一点だけをひたすら見つめながら加速。ほとばしるような大排気量の熱い心臓の鼓動を全身で感じながら、記憶や日常がスピードの彼方で薄れていく。

大排気量のフロントエンジン後輪駆動の走りとは、究極のところ、ロックバンド「ブランキー・ジェット・シティ」的なスリルに行き着くんですよ。ヴォーカルの浅井健一(元1stカマロオーナー)に重ねるなら、限界まで声を上げていくような、全身で生きていることを感じられる狂おしい走り。「嗚呼、いっそジェットエンジンにしてくれ」みたいなエンジンそのものを感じるための構造をもったクルマなんだ。

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ローンチコントロールのみならず、後輪だけを回転させてバーンアウトさせる「ラインロック」も装備。

さて、このホットロッド村にはダッジ・チャレンジャーという最高のライバルが存在する。なかでも最上位グレードの「SRT デーモン170」は、カマロと同じく6.2リッターのV8 HEMIエンジンにスーパーチャージャーを付け、市販車最高となる1025馬力を叩き出す。このライバルに触発されたのがテキサスのチューニングメーカーであるヘネシー社で、スーパーチャージャー付のカマロ高性能モデル「ZL1」を1000馬力に引き上げ、「エクソシスト(デーモンに対抗する悪魔祓い)と名付けた。おらが村の力自慢大会みたいで最高でしょ(笑)。

でも、もうおしまい。チャレンジャーもまた、カマロと同じく生産中止を決定したんだ。

今回カマロの最終機に乗って、つくづく「伝説的なバンドの解散みたいだな」と思った。カマロはやるべきことをやり尽くしたんですよ。ホットロッドのみならず、大排気量エンジンの2ドアクーペとしても最高のラストダンスをみせた。進化するホットロッドは長男(コルベット)に任せて、次男は伝説の彼方へってね。そう、引き際はとても大事と思ったんだ。

 

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カマロらしいデュアルエレメントのリアテールと胸のすくようなサウンドを奏でる「クァッドステンレスエキゾースト」。

シボレー カマロ ファイナルエディション

全長×全幅×全高: 4785×1900×1345mm
エンジン: V型8気筒OHV
排気量: 6168cc
最高出力: 453hp/5700rpm
最大トルク:617Nm/4600rpm
駆動方式:RWD(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格: ¥9,400,000
問い合わせ先/GMフリーダイヤル
TEL:0120-711-276
www.chevroletjapan.com