生徒による学校運営で世界のリーダーを育む! “定期テストなし”の高校が掲げる教育目標とは

  • 文:竹村詠美
  • 写真:ONE STONE

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いままでの学校にない環境づくりで未来のイノベーターを育てる学校がある。そのひとつ、アメリカ・アイダホにあるワンストーン ラボ51は学校運営理事メンバーの2/3が在校生で構成され、「生徒の個別ニーズを最大化する体験型学習や、テストではなく「BLOB」による総合的評価など、斬新な取り組みを行なっている。

Pen最新号は『新しい学校』。正解のない時代を、一人ひとりがどう航海するのか? これからの子どもたちは、この未知なる難題をクリアしなくてはならない。そのプロセスは個人個人でまったく違う自由なもので、決まった道筋はない。だからこそ、学校も変わらなくてはいけないのだ。ここで紹介するのは、未来を見据えた26校の挑戦の姿でもある。

『新しい学校』
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ワンストーン ラボ51

アイダホ/アメリカ

種類:私立 高等学校
住所:1151 W. Miller St, Boise
設立年:2016年
生徒数:94人
男女比:女性57%、男性26% 、非公開17% 
コーチ数:27人
学費(年間):150〜16,000ドル
おもな進路:全米の大学、起業など

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毎年開催される「One」というイベントの様子。母体NPO法人の運営に生徒が関わるワンストーンでは、活動のための資金集めも自ら行う。学びの物語や音楽の発表だけでなく、対談や夕食も楽しむ機会となっている。今年度も既にこのイベントで25万ドル近くを集めている。

アイダホの州都ボイシーの中心にある倉庫サイズの大きな建物。ここが全米で注目されている高校、「One Stone(ワンストーン)」の校舎だ。運営するNPO法人の理事会メンバーは2/3が在校生で、彼らが経営幹部という全米でも珍しい組織である。始まりは2008年、ジョエル&テレサ·ポピンズ夫妻により設立され、地域の高校生たちの放課後プロジェクトとして「プロジェクト・フォー・グッド」という社会貢献活動を行っていたが、やがて参加する生徒たちがまったく新しい学校を自分たちの手でつくろうと立ち上がり、16年には全日制の私立高校「ラボ51」が設立された。

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医療試験場だった建物を改装した校舎の入り口。中に入るとコワーキングスペースのような雰囲気が広がる。ドアのサインからも従来の学校とは違うイメージが伝わってくる。

「私たちが学校を始めたかったわけではなく、生徒が高校をつくりたいと要望したから実現したんです」とテレサ・ポピンズは語る。

取材で訪れた際も生徒3人だけで出迎えてくれ、先生の姿は見えない。だが大人とのやり取りもなれたもので、どんな質問にも躊躇せずに自分の意見を述べていた。生徒の学びを導く大人は「コーチ」と呼ばれ、学びを支援する役割。「コーチと私たちはお互いに学び合うんです」と高校3年生のモス・ウィングローブは語る。生徒が大人から一方的に教えられるのではなく、大人も生徒とともに学び成長する。学舎はオープンスペース。小グループのディスカッションやセミナー、ロボット大会に向けて準備をするチームなどが、グループ単位で活動している。その雰囲気は学校というよりコワーキングスペースに近い。

授業はすべて「学習体験」で行われ、コーチやメンターのアドバイスを受けながら生徒が自ら目標を設定。グループワーク時も、各自の成長課題を明確にした目標設定を重視している。デザイン思考を活用したプロジェクトを実践する三段階のラボ、関心のあるテーマを深く探究する「ディープ・ダイブ」や「インターンシップ」など、学習体験のすべてにおいて、生徒主導の目標設定、振り返りと形成的評価のフィードバックを受けることを徹底している。4年間の高校生活で生徒は大きな変化を遂げる。入学時にはまだ大人を信頼できず、積極的に取り組めなかった生徒も卒業までには情熱を見出し、自らの進路を描き卒業していく。学習の成果ではなくていねいなプロセスこそが成長のカギであるという。

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学びを評価し、ホールパーソンを育てる「BLOB」
ラボ51では定期テストがなく、ABCといった成績はつかない。生徒一人ひとりが“ボイス”を放つ大人になることを支援する同校では、継続的なフィードバックによる形成的評価を大切にしている。生徒は多くの発表や対話の機会をもち、常に他の生徒やコーチからフィードバックを受けている。この話し合いの土台となるのが4つの分野にわたる24項目で構成された「大胆な教育目標(BLOB)」である。
© COPYRIGHT ONE STONE ALL RIGHTS RESERVED
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左:2023年の活動資金を集める「One」イベントにて、ラボ51での自らの成長について生徒が発表する様子。スタートアップ企業のパネルトークさながらの熱弁。 右:「コモンウェル」というボイシー市のアート拠点での展覧会。10週間かけて作成したのぼりを、高校生が展示。こののぼりは、高校2年生ソフィア・ブロナーの作品で、青写真の技法や茜染の技法を使って仕上げた。

ワンストーンが独自に開発した 「BLOB(Bold Learning Objectives=大胆な学びの目標)」において“知識”は4つの評価カテゴリのひとつでしかない。このBLOBは、卒業までに生徒に身につけてほしい知識やスキルを網羅した学びの羅針盤で、4分野に24のスキルが分類されている。従来の教育で重視される「知識」にとどまらず「社会をよくするために考え行動できる人」「生涯学び続けるマインドセット」「スキルを身につけ自分らしく自信をもって人生を歩める人」などのホールパーソン(全人格)を育てることこそが、学校の役割であるという考え方で、生徒主導の「学習体験」を積み重ねて構築されていく。

BLOBを活用したこの学びのプロセスによって、教科の知識とこれからの時代の社会人として必要な能力を、安心安全な環境で、挑戦を続けながら4年間かけて身につけることができる。

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上:「ディスラプション・デイ」と呼ばれる、保護者やコミュニティパートナー向けの発表会。中学校でLGBTQ生徒が抱える偏見や汚名を払拭するためのプロジェクトの説明。 下:近隣高校の生徒たちと、おたがいのプロジェクトのフィードバックを共有するイベントの様子。近隣にあるレストランにおける食料廃棄を減らす方法についてボードなどを使って発表した。

創設時からワンストーンに勤めるチャド·カールソンは「ラボ51は学びのプロセスを重視するので、最終評価にもみな納得感があるはずだ」と語る。BLOBにある24の言葉についても議論を重ね、共通理解できるように、それぞれの言葉を表現する具体的な問いをコーチと生徒が共有している。

できないことを無理やり克服するのではなく、生徒自身が自分の状態を把握(メタ認知)し、身につけたことと目標を大人と共有し、成長をたたえ合う。こうした場があることで、学びへの手応えや自信を身につけ、次の学びへの情熱を自ら見出していけるのだ。 

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プログラミングだけでなく、サイバーセキュリティや電子工学、動画、マシンラーニングなどに特化した生徒たちが話し合う。こうしたミーティングから新しいアイデアが生まれる。
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左:地域のシェフと協働し、校内の食堂やメンターのレストランにて調理準備やナイフの使い方について学ぶ。 右:既存のものを壊すイノベーティブなものを発表する「ディスラプション・デイ」が毎学期末に実施される。このグループは自分たちが考案した新しいクルマの駐車アプリについて説明した。

生徒が情熱をもって学びに取り組むことを支援するカリキュラムは、生徒のリズムに合わせたダイナミックな年間スケジュールから生まれている。

ウィンターブレイク明けにあたる1月は、集中して学ぶリズムを取り戻すために、コーチが設定したテーマ探究を行う。

2月の春学期からは、数学セミナー、デザインラボを中心にインターンシップなど、個人で設定した活動に取り組む「フレックスデイ」やキャリア教育プログラムの「リビング・イン・ベータ」といったプログラムが組み合わされたカリキュラムに移行する。

ワンストーン独自のプロジェクト学習である「デザインラボ」は「Xラボ」「Dラボ」「Yラボ」の三段階で活動。短期的なXラボから、1年間かけて自らの情熱を軸としたひとりだけのプロジェクトに取り組むYラボを経て、生徒は大きな成長を遂げる。

夏休みという長期休暇がない代わりに夏学期があるのも特徴だ。この学期ではインターンシップや、地域の小学生向けに実施するサマープログラムのコーチとして活動するなど、実社会と接続した学びに取り組んでいる。

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左: 毎年ワンストーンでは、地域の小学生向けに無償のサマーキャンプを実施。企画運営は高校生が中心になる。これはキャンプの一環として読書に興味をもってもらうため、読み聞かせをしている様子。 右:どんな生徒もコミュニティに受け入れることを大切にするワンストーンでは、毎年新入生のウェルカムキャンプを実施している。これは信頼やチームビルディングにつながる。

従来型の教育では定期テストや期末試験の成績への比重が高く、テストの点数を取ることが目標になりがちだが、ワンストーン ラボ51では、生徒が目指す高い目標を実現するために自ら考え行動することを重視する。

自らの情熱と連動するプロジェクトに没頭する体験は、大学や社会に出てからも学び続ける意欲やスキルの開発につながる。この学校を卒業すると「目標設定」「時間管理」「リソースへのアウトリーチ」といった点であまり苦労をしないという。まさに「Future Ready(未来に備えた)」な力を育む学校なのである。

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