ビル・ゲイツにザッカーバーグも! アメリカの富豪起業家が目指す、未来を見据えた教育改革

  • イラスト:黒木仁史
  • 文:竹村詠美

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事業で大成功を収めた4人の起業家による教育改革への惜しみなき資金供与は、その額もスケールも桁違いである。アメリカの教育行政に影響力をもつ起業家の取り組みから、民間支援の可能性を考える。

Pen最新号は『新しい学校』。正解のない時代を、一人ひとりがどう航海するのか? これからの子どもたちは、この未知なる難題をクリアしなくてはならない。そのプロセスは個人個人でまったく違う自由なもので、決まった道筋はない。だからこそ、学校も変わらなくてはいけないのだ。ここで紹介するのは、未来を見据えた26校の挑戦の姿でもある。

『新しい学校』
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アメリカでは富裕層が財団を通して教育支援する伝統がある。なかでもネット時代に生まれた新しいリーダーたちは「拡張する教育改革」を目指すのが特徴だ。政策提言やロビー活動に加え、エビデンスを集めるリサーチやチャータースクール(※)設立、運営支援、カリキュラム策定、教材やツールの開発、支援団体への補助金、メディアの運営といった幅広い活動に資金提供や投資を行う。

動機はさまざまであるが、日本以上に学歴社会の傾向が強いアメリカにおいて、大学卒業資格の有無による生涯年収の格差は大きい。貧困層や黒人・ラテン系移民・アメリカ先住民層などでは進学格差も大きく、公的教育の改革が必要とされている。

一方で学校教育という継続性や福祉機能をもった機関を民間企業のように扱うフィランソロピスト(社会貢献や慈善活動を積極的に行う人)たちへの批判もある。その理由は、実験的な教育アプローチが失敗した時のリカバリーの難しさ、大量資金提供によっていままでの取り組みが犠牲になる可能性があることなどである。

公教育の予算捻出を国民の固定資産税に依存するアメリカならではの構造的な事情もあるが、日本の公的教育も、教員不足や不登校など課題が山積み。民間リソースを活用した新しい学校の創設に、ますます着目すべきだ。

※公設民営による新しい学校の仕組み。各校が設定した憲章(チャーター)をもとに学校設立の認可を得る。州ごとに仕組みは異なるが、運営費用は公的資金でまかなわれる。

ビル・ゲイツ

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マイクロソフト共同創業者、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同創設者&共同会長/1975年にポール・アレンとマイクロソフトを創業。教育とヘルスケアがよりよい社会への鍵であるという信念のもと、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団を通じてK-12(幼稚園〜高3まで)の教育改革を長年支援している。最新テーマは「アメリカ数学教育の改革」。

テック企業起業家の先例ともなっている、財団を通じた教育改革への巨額支援

2000年に創設されたビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、チャータースクールを中心に公教育改革に資金提供を行っている。オバマ政権下に制定された全米教育指針「コモンコア・スタンダード(数学と英語について、学年ごとに到達すべきレベルを全米共通で定めたもの)」では3億ドル近くの拠出をした。22年からは、マイノリティや低所得者層で特に大きな課題となっている数学教育の教材、カリキュラム、チューターや教員の研修、リサーチといった分野に支援を行っている。統計学やデータサイエンスといった、実学的分野に優先的に投資を行う方針だ。

マーク・ザッカーバーグ

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メタ共同創業者&CEO、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ共同創業者/2004年にハーバード大学の寮からフェイスブック (現メタ)を創業、第一子が誕生した15年にメタ株式による利益の99%を社会福祉に還元することを公表し「チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ」を創設。「ホール・チャイルド・アプローチ(普遍的な人間力の向上)」を支援。

資金供与だけでなく学校や教員とともに、エビデンスに基づいたツールの開発を支援

ザッカーバーグ夫妻が創設した財団は、学習科学や発達理論をもとに、ホール・チャイルド教育への支援を掲げ、生徒と教員のウェルビーイングを高める教育の普及に注力をしている。リサーチ、ツール構築、パートナーシップを3つの柱にし、政策提言、関連団体や学校への資金提供、「サミットラーニング」というプラットフォームを通じた自律学習の提供、生徒と教員のつながりを深めるツール「アロング」への支援を行っている。2015〜23年に拠出された教育への補助金と投資は1019件にのぼり、総額10億ドルを超える。

リード・ヘイスティングス

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ネットフリックス共同創業者&会長/1997年にネットフリックスを共同創業。2023年にCEOを退き非常勤会長に。2000年から04年までカリフォルニア州の教育委員会に従事。公教育改革を推進するフィランソロピストとして、チャータースクールの校長や教育関連財団のトップなどさまざまな顔をもっている。

チャータースクールの拡大を中心に、豊富な資金で公教育改革に取り組む

平和部隊の派遣でアフリカにあるエスワティニ王国で数学教員を務めた経験をもつリード・ヘイスティングス。Netflix初期の頃から常に教育改革に関心をもち、行政、財団、学校ネットワークの理事など、さまざまなかたちで公教育改革に力を注いでいる。特に低所得者層児童に向けたチャータースクールの拡大には精力的で数々のチャータースクールネットワークへの支援や理事に携わっている。ロビー活動や寄付、教育ベンチャーキャピタルへの出資など、資金力による政策アジェンダへの影響力や、教員を軽視したテクノロジー偏重型の視点に批判の声もある。

ジョージ・ルーカス

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ルーカスフィルム創業者、ジョージ・ルーカス教育財団共同創業者/映画『スター・ウォーズ』などの大ヒットシリーズの製作者。公教育に対して満足できなかった経験から、教育現場における優れた戦略や指導法・教材などを幅広く世に広めることを目的にジョージ・ルーカス教育財団を設立。現在はLucas Museum of Narrative Art を建設中。

ストーリーテリングの力を活かした、教育メディアによる先端教授法を普及

1991年にジョージ・ルーカス教育財団を設立。全米K-12教育の実践方法などを動画や記事で幅広く紹介する教育メディア「Edutopia(エデュトピア)」を運営している。テクノロジー偏重ではなく「プロジェクト型学習」「社会性と情動の学び」など先端的教授法を積極的に紹介。2012年にはルーカスフィルム売却益の多くを教育支援に充当することを宣言。13年からは教育リサーチ部門もスタートさせ、プロジェクト型学習カリキュラムや教員研修プログラムも開発している。今後はテクノロジーを活用したシミュレーションにも注力をする予定だ。

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