クリント・イーストウッドが『荒野の用心棒』で被ったカウボーイハットは"私物"だった?

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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モデル名は「VIN COWBOY HAT」。素材は高級帽子の素材として有名なラビットファー。わざと素材にダメージ加工を施し、独特の味わいに仕上げている。ハットバンディットには苧麻紐が使われているが、他にもレザーのコンチョを配したモデルもあり、それはイーストウッドが80年に主演した『ブロンコ・ビリー』で彼が被っていたウエスタンハットにそっくり。¥107,800/ビズビム

「大人の名品図鑑」クリント・イーストウッド編 #1

ハリウッド、いや世界を代表する俳優であり、映画監督として知られるクリント・イーストウッド。今年で93歳になるが、いまだに現役で精力的に活動を続けている映画界の“生きるレジェンド”だ。今回はそんなイーストウッドが出演した数々の映画に登場する名品について考える。

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クリント・イーストウッドがアメリカのサンフランシスコで生まれたのは1930年5月31日のことだ。本名はクリントン・イーストウッド・ジュニア。生まれた時すでに体重が5.16kgもあり、病院の看護師たちから「サムソン」とあだ名がつけられるほど身体の大きな赤ん坊だったという。彼が幼少だったころのアメリカはまだ不況の中にあり、父親のクリントン・シニアは安定した職業を求めてカリフォルニアで転職と転居を繰り返していた。

そんなカリフォルニアで青春時代を過ごした彼は高校を出た後、軍に入隊するが、そこで俳優志望の若者たちと知り合う。そのひとりに60年代のTVドラマ『逃亡者』で主役のリチャード・キンブルを演じるデビッド・ジャンセンもおり、そこで役者になる気持ちが芽生えたのかもしれない。除隊後、ロサンゼルス・シティ・カレッジに入学するが、ハンサムで背が高かった彼は54年にユニバーサル映画のスクリーンテストを受けて合格、俳優としての道を歩み始める。いまからちょうど70年前のことだ。

初めて役をもらったのは『半魚人の逆襲』(55年)で、役名は研究員ジェニングス。その後いろいろな映画に端役で出演を続けるが、大役をつかむのが59年から65年にかけて米CBSで制作・放送されたTVドラマ『ローハイド』だ。これは南北戦争後のアメリカ西部が舞台、テキサスからミズーリまで約3,000頭の牛を運ぶカウボーイたちの道中を描いた作品だ。

イーストウッドが演じたのは副隊長のロディ・イェーツで、隊長ギル・フェイバー役のエリック・フレミングとの2枚看板を務めた。フランキー・レインが歌うテーマ曲はいまも多くの人に知られている。このドラマは日本でも放送され、62年にはイーストウッドやフレミングなどの3人がキャンペーンを兼ねて来日し、東京や大阪、京都などを回り、多くのファンに歓迎された。

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4Kで復活する、イーストウッドのカウボーイスタイル

そんな彼のカウボーイスタイルに注目したのが、当時は無名に近かったイタリアの映画監督のセルジオ・レオーネだ。レオーネはイタリアでも公開された黒澤明監督の名作『用心棒』に深い感銘を受け、舞台をメキシコに移した西部劇である『荒野の用心棒』(64年)を監督することになり、その主役にイーストウッドを採用する。この作品は本国イタリアだけでなく世界的な大ヒットとなり、60年代後半のマカロニ・ウエスタンブームの火付け役となった。レオーネは65年には続編の『夕陽のガンマン』、66年には『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』を監督する。いずれもイーストウッドが主演、この3作品は「ドル3部作」と呼ばれ、今年の3月22日より、4K復刻版が劇場で公開される。

イーストウッドをスターの地位を導いたこの3作品で、彼が着用したウエスタンスタイルに注目してみた。実はイーストウッドは映画に使われた衣裳を自前で準備した。「褐色の帽子と、革のベスト、黒いジーンズに、大嫌いな葉巻(シガリロ)を小道具にしこたま買い込み、ガンベルトとブーツと拍車は『ローハイド』からちゃっかり借用して、撮影現場に乗り込む。スペインで現地調達したのは、安物のポンチョだけだった」と『クリント・イーストウッド 強くて寡黙な男の肖像』(ミンティー・クリンチ著 近代映画社)に書かれている。

そんなイーストウッドを彷彿させるのが、ビズビムがつくったウエスタンハットだ。ビスビムは2000年にフットウェア中心にスタートし、伝統的な手法やデザインを取り入れ、本質的なプロダクトづくりを標榜する日本のブランドとして、海外でも高い評価を得る。このハットは素材にラビットファーを用いた本格派で、少し使い込んだようなダメージ加工が施されている。ハットバンディットは苧麻紐を手撚りしたもので、素材からデザイン、付属品まで一切の手抜きは見られない。実はビズビムはイーストウッドが着用したようなポンチョも過去にリリースしている。2つ合わせれば、完璧なイーストウッドが演じたスタイルになるではないか。

以前、某雑誌で同ブランドのクリエティブディレクターを務める中村ヒロキの自宅が紹介されていたことがあるが、彼の自宅にはイーストウッドのポンチョ姿の大きな写真が掛かっていた。ディレクターの中村はもしかしたらイーストウッドのファンなのかもしれない。

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高級なラビットファーにわざとダメージ加工を施しているところも、ビズビムらしいアイデアだ。

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ハットバンディットに採用されているのは、手仕事の味わいが残る苧麻紐。ブリムの端にはブランドのタグが縫い付けられている。

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ビズビムはクリエイティブディレクターを務める中村ヒロキが2000年に創立したブランド。海外でも高い評価を得ており、服からアクセサリー、フレグランスまでトータルで展開する。

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2015年秋冬のコレクションで展開したポンチョ。ランダムでスラブ風のウール糸を天然の草木染料で枷染めし、ジャカード機で織ったブランケットが使われている。イーストウッドが映画で着用したポンチョの雰囲気に似ている、いやそれ以上の素材とデザインだ。『クリント・イーストウッド ハリウッド最後の伝説』(マーク・エリオット著 早川書房)によれば、「葉巻、ポンチョ、カウボーイハットという小道具は、みるみるうちに60年代大学のキャンパスの流行りのスタイルになっていった」とある。またこのポンチョがリリースされれば、人気を集めることは必至だ。¥294,800(参考商品)/ビズビム

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