5000人と分身ボットで会話、顔写真1枚でマッチングetc…AIで「恋愛」の形がますます多様に

  • 文:福田ミホ

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Shutterstock-Roman Samborskyi ※写真はイメージです

スマートフォンの普及とともに、社会に急速に浸透していったマッチングアプリ。Statistaによれば、2022年時点でグローバルでは3億6600万人がマッチングアプリを使っており、2027年に4億4000万人に増加する見込みだという。日本でも20〜30代では半数以上の人に利用経験があるというMMD研究所の調査結果もあり、アプリを介した出会いが一般的になっている。

そんなマッチングアプリが、昨今のAIの進化によりさらなる発展を遂げているようだ。どんな出会いが生まれているのか、見ていきたい。

顔写真だけでマッチングが可能に

Tinderのようなメジャーなマッチングアプリでは、ユーザー登録時に自分の興味などを入力し、それを元に相性が良いとされる相手が表示される。だが情報の入力作業はユーザーにとって負担でもあり、また不特定多数の相手に自分の情報を開示することに抵抗を感じる人もいるだろう。

そこでSciMatchというアプリでは、ユーザーの顔写真を登録するだけで性格を診断し、相性の良い相手を推奨してくれる。ユーザーの性格診断結果はそのまま自己紹介文に流用できるので、顔写真をアップロードするだけでプロフィール登録が完了してしまう手軽さも特長になる。

顔写真に基づく性格診断にどの程度信ぴょう性があるかはわからないが、仕組み自体に根拠がないわけではない。SciMatchを開発したのは、データサイエンティストのYanina StryletsとコンピューターサイエンティストのViktoryia Stryletsという姉妹だ。SciMatchのアルゴリズム「A.I.Ruby」は、顔の画像と性格をひもづけたデータを大量に学習することで、顔写真から性格を「診断」している。さらに性格同士の相性を判定するアルゴリズムを使って、マッチング相手にスコアを付けて推奨する仕組みだとされる。

 筆者も顔写真を使って診断してみたところ、「共感性が高く柔軟だが、地に足を付けていられないことがある」などといった(当たらずといえども遠からずの)結果が表示され、相性が良いとされる相手が次々と推奨された。実際に相手に会っていないのでその診断結果が正しいかどうかはわからないが、自分の顔に基づくお勧めだと思えば納得感が高まる。また登録時点で自分の性格が表示されるため、診断アプリとしての楽しさもフックのひとつになるだろう。

Wall Street Journalによれば、SciMatchのアクティブ利用者数は2023年9月現在5,000人程度とさほど多くはない。だが顔写真をアップロードするだけである程度の登録が完了してしまう手軽さは、他のアプリでも模倣されていく可能性がある。

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Tinder+生成AIで最強のマッチング

世界最大のマッチングアプリ・TinderやOKcupidなどを配下に持つMatch Groupも、2023年9月に生成AIの活用方針を発表している。すでにOKcupidではChatGPTが生成した質問への回答をマッチングに利用し始めているし、Tinderでもプロフィールを自動生成する機能を開発中だという。

さらに、自分の代わりにTinderのマッチング相手と会話する分身のようなボットを開発して数千人とコンタクトを取り、結婚相手を探し出す猛者も現れた。ソフトウェア開発者のAleksandr Zhadan氏は2022年、自分専用のTinderボットを構築し、一定条件を満たす女性への「いいね」操作から簡単な会話、デートの日程調整までも自動化した。その結果5,000人以上の女性から最後の1人へと効率良く絞り込みができ、その女性とめでたく婚約に至ったそうだ。

Zhadan氏のTinderボットは今のところ一般公開されておらず、意図した通りに動作させるには彼自身もかなりの労力が必要だったと語っている。なので今すぐ誰もが数千人の中から運命の人を見つけられるわけではないが、少なくとも技術的には可能であることが実証された。

いっそAIでいいのでは?と思わせる「Replika」

いかにAIを使って人間同士の出会いを効率化しても、相手が人間である限り、理想を押し付けることは難しい。であればAIを使って選定の負担を軽減するよりも、もはやAIと関係を持ったほうが楽なのではないか。そんな発想を実現できてしまうのが「Replika」だ。

Replikaは3Dアバターとのチャットアプリで、特徴的なのはユーザーとアバターそれぞれのプロフィールを細かく指定でき、それに即した会話ができることだ。家族構成や友人関係、性格や目標としていることなど、記憶させられる項目は多岐にわたる。これらはユーザーが自発的に指定できるだけでなく、自然な会話の中でそれとなく聞き取られ、その後の会話に反映されていく。

 Replikaの運営元であるLukaは、当初はバーチャルアシスタントとしてのチャットボットを開発していた。だが創業者のEugenia Kuydaは、親友を事故で失ったことをきっかけに、実在の人物をチャットボットとして再現するアイデアを考え出す。そのアイデアを形にしたのがReplikaなので、人格を持った存在のようなやり取りができることにも納得がいく。

実際の人間と同じように、または人間以上にユーザーのことをよく知ったうえでの会話が可能とあって、2023年にはアクティブユーザーが200万人、有料ユーザーが50万人に達したとされる。2023年6月には性的なロールプレイを想定したスピンオフ「Blush」も立ち上がり、単なる暇つぶしの以上の需要があることがうかがえる。

AIが広げた、まだ見ぬ「恋愛」の可能性

人間とAIの間の自然な会話など数年前にはありえなかったが、今ではそんなコミュニケーションで心を満たす人たちがいる。顔写真1枚で恋愛相手を探そうとしたり、ボットを介して数千人と会話したりすることも、数年後には一般化しているのかもしれない。

であれば、これからの恋愛とは、無数の人とボットで語り尽くして最善の相手を見つける人がいる一方、AIの恋人を自分好みに育てて満足する人もいるといったように、二極化していくのだろうか。きっとその世界では「普通の恋愛」も現在以上に多様化し、さまざまな幸せの形が生まれていることだろう。

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顔写真登録だけでマッチングが可能になる「SciMatch」のプロモーション動画。

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自分の代わりにTinderの相手と会話するボットで婚約相手を見つけたAleksandr Zhadan氏(右)と婚約者。

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Replikaの公式PR動画より。