服飾系大学に通う男子2名に先日会ったとき、「流行の服を買うのをやめて、長く着られるいいものだけを数少なく持つようになった」と最近の買い物傾向の話を聞いた。確かに2024年のいま服を新調するとき、「同じ買うなら意義のあるもの」「つくり手の顔が見えるもの」「未来につながるもの」を望む気持ちが頭をよぎる。社会的なSDGsの考え方や、コロナ禍以降の無駄をしない買い物の価値観が定着したのかもしれない。
そこで今回の「着る/知る」では、生産者の息遣いが漂う世界のニットとストールをクローズアップ。生産国はアイルランド、リトアニア、ネパール。編んだ人の名前が書かれたアイルランドのニット、自国の女性たちを職業支援するリトアニアのニット、フェアトレードに根づくネパールのストールだ。ローファイな服づくりのなかに、未来へと続く確かな道がある。
絶滅する技術!? アイルランドの手編みニット、ATHENA DESIGNS


アラン編みのフィッシャーマンズニット発祥の地はアイルランドのアラン諸島。同国にあるコーク州で手編みされているのがアテナ デザインだ。ドニゴール州産ウールを使った正真正銘のアイルランド製と呼べる服である。紙タグに編んだ人の名前が手書きされ、つくり手を大切にする心も感じられる。機械編みでは表現できない深い凹凸こそが手編みの持ち味である。ただ編み手の高齢化に伴い、近い将来に伝統技術が途絶える心配があるようだ。日本で手編みニットをつくるアパレル関係者も、編み手の数が減っていることをよく嘆く。若い職人不足の問題は世界で共通している。
歴史あるアイルランドのニットをまだ持っていないなら、万が一手に入らなくなる前に一着入手しておくのも損はないはず。老人になっても似合う、真に一生モノのセーターなのだから。
---fadeinPager---


---fadeinPager---
自国の女性たちを職業支援する、リトアニアのTHE NOTTY ONES

はじまりは3人の女性たち。東南アジアでファストファッションの製造現場を目にしてショックを受け、意義のある服づくりを行うべくザ ノッティワンズをスタート。彼女たちの出身国であるリトアニアとアメリカのニューヨークを拠点にして、自国で製造したニットを世界に発信している。編み作業を依頼するのは、仕事の少ない北部の地域で暮らす女性たち。職業支援にも結びついている。
編み手の写真つき紙タグには、「人の手でつくられたニットを大切に着てほしい」との思いも込められている。製品に使われる糸はエコテックス認証を受けたコットン、ミュールシングフリーのウールといった倫理面も考慮されたもの。編み機も活用された精密なニットは、モード服にも合わせられるほど都会的なスタイル。生産はローカルでもデザインがグローバルだからこそわたしたちの感性に響く。

---fadeinPager---

---fadeinPager---

---fadeinPager---
ネパール最高峰のラグジュアリーな手織りストール、cosi

布好きなら思わず前のめりになる、味わい深い織りで洗練された色彩のストール。触れると最上級の品質であることに気づき再び唸らされる。この出来栄えだけでも購入するに十分な理由だが、生産背景のストーリーを知るとさらにほしくなってしまう。
世界的ファッション誌での編集経験のあるイギリス人女性が2009年にはじめたテキスタイルブランド、コジ。彼女がミャンマーを訪れた体験をきっかけに、フェアトレード精神に根付くブランドの設立を決意。素材は内モンゴル産のカシミヤ、ヒマラヤ産アルパカ、チベット産ヤクなどの高級品ばかり。この素材をネパールに運び、現地の機織りアトリエと契約して手織りで仕立てている。
西洋的ラグジュアリーさと、アジアの手仕事のゆらぎ感とが一体になった布のニュアンスは唯一無二。家の中でも包まれていたいほど、身体と心を癒やす心地よさに満ちている。


---fadeinPager---


---fadeinPager---
【画像】手仕事を未来へつなぐ、美しきニット&ストール/アイルランド、リトアニア、ネパール【着る/知る Vol.171】
絶滅する技術!? アイルランドの手編みニット、ATHENA DESIGNS


---fadeinPager---


---fadeinPager---
自国の女性たちを職業支援する、リトアニアのTHE NOTTY ONES

---fadeinPager---

---fadeinPager---

---fadeinPager---

---fadeinPager---
ネパール最高峰のラグジュアリーな手織りストール、cosi

---fadeinPager---


---fadeinPager---



ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。