【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『ハーレム・シャッフル』
犯罪小説の醍醐味は、登場人物が自分のルールで生きているところだろう。善悪では測れない危ない橋を渡って来たから、なにをよしとしてなにを許せないのかは自分で決める。
『ハーレム・シャッフル』の1行目はこんな風に始まる。
「六月初旬の暑い夜、レイ・カーニーは従弟のフレディによって強盗の一味に仲間入りさせられた」
ニューヨークのハーレムで生まれ育ったレイの父親は犯罪者で、家には怪しげな男たちが出入りしていた。しかし、だからこそ自分は真っ当な生き方をしようと努力してきたのだ。いまではハーレムで家具屋を経営し、愛する妻子もいる。フレディが持ち込む中古の家具を盗品と薄々気づきつつ売ったのだって生活のためだ。ところがそのせいでギャングのマイアミ・ジョーに目をつけられてしまう。
お調子者のフレディは言う。
「現ナマが手に入る。それから、かなりの数の宝石も処分することになる。それを任せられるやつを知ってるかって聞かれて、心当たりありますって言った」
レイは言う。「誰のことだ?」
レイ・カーニーはグレーゾーンを生きてきた男だ。清廉潔白じゃない。きな臭い匂いだって嗅いできた。その上でまた試される、お前はなに者かと。
著者のコルソン・ホワイトヘッドは『地下鉄道』と『ニッケル・ボーイズ』で2度、ピュリツァー賞を受賞している。2度受賞した作家は歴代で4人しかいない。前者では奴隷少女の脱出劇を描き、後者では無実の罪で少年院送りになった少年を描いた。1950年代末のハーレムを舞台にした本作も「突破者の物語」だ。自身もアフリカ系アメリカ人であり、「ハーレム三部作」として続編を執筆予定。本作への思い入れは深い。2024年の1冊目として文句なしの傑作。
※この記事はPen 2024年3月号より再編集した記事です。