中南米音楽を下地にした、クァンティックが放つ祝祭的なディスコ・アルバム

  • 文:山澤健治(エディター)

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【Penが選んだ、今月の音楽】
『ダンシング・ホワイル・フォーリング』

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1980年、イギリス・ウスターシャー州生まれのDJ・プロデューサー・マルチ演奏家、ウィル・ホランドのソロ・プロジェクト。2001年、『ザ・フィフス・エキゾチック』でデビュー。多彩な名義で幅広くファンクやジャズ、南米音楽の魅力を世に伝える“音の伝道師”。

K-POPやアフロビーツがチャートを賑わした2023年は、ポップ・ミュージックのグローバル化がさらに進んだ1年だった。とりわけ欧米では、ラテン系ポップ・ミュージックの勢いが加速。数々のヒット曲が世に放たれ、その存在感を高めていった。

ローカルな音楽をグローバルに聴かせる。そんな潮流を誰よりも早く意識し、ラテン音楽の魅力をモダンに発信してきたのがクァンティックことウィル・ホランドだった。ジャジーなブレイクビーツを操るDJやビートメイカー的なスタイルに始まり、生音を重視したソウルやファンクへと傾倒していった彼は、ラテンやレゲエなど中南米音楽の魅力に開眼。2007年にコロンビアのカリへ移住し、クンビアなどの伝統音楽に直に触れ、現地ミュージシャンと積極的にコラボレートしながら、世界的名声を彼にもたらす数々の傑作ラテン・プロジェクトをさまざまな名義で発表していった。

コロンビアで7年ほど過ごした後、拠点をニューヨークに移してからはしだいにラテン文化が香るニューヨークのDJカルチャーにも触発されたホランド。そんな彼が4年ぶりにクァンティック名義で発表した新作『ダンシング・ホワイル・フォーリング』は、ラテンとアフロ・カリビアンのリズムがフィリー・ソウルと結びつき、ニューヨークで大きく花開いたディスコに真っ向から挑んだ、祝祭的な色合いのダンス・アルバムである。

ディスコの歴史をなぞるように奏でられるシンフォニックで艶やかなサウンドは、ダンスフロア映えを意識したクラブ・サウンドとは一線を画す人間味あふれるもの。旧友アンドレア・トリアーナらのソウルフルな歌唱も加わり、高揚感と喜びに満ちた心躍る響きが全編を貫く。20年のキャリアでたどり着いた至福のディスコ作に脱帽だ。

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クァンティック ビッグ・ナッシング PIASR-1435CDJ ¥3,080

※この記事はPen 2024年3月号より再編集した記事です。