突然やってくる身近な人の“死”、葬儀に相続・お墓問題まで…膨大な手続きはどうする?

  • 文:横森理香

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写真はイメージ(ShutterStock)

身近な人に死が訪れたとき、葬儀から法事、遺産相続、家の整理、お墓問題など、やらなくてはならないことがたくさんある。作家・エッセイストの横森理香さんが自身の体験をもとにつづったエッセイ『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』では、親を見送る世代のために、いまからできる“喪のしごと”を紹介している。

本記事では同書から一部を抜粋。夫と死別したある女性のケースを取り上げる。

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子どもがいない夫婦の場合

旧知の編集者Nさんは、十年前夫君をがんで亡くされ、一人暮らし。七十五歳のいまでも現役でお仕事をされているベテラン女子だ。元広告代理店勤務で経営コンサルタントだった夫君の趣味がヨットで、Nさんも雑誌編集者を早期退職してからフリーランスとなり、逗子在住。

ジャガーに乗り、大型犬を飼い、ヨットでクルーズ。お酒と美味しいものが好きなご夫婦で、仲良く素敵に生きてきた。夫君が六十歳で喉頭がんの手術をしてからも、筆談でおしゃべりを続けた。

亡くなったのは六十六歳。この年、Nさんも大腸がんで手術、入院した。退院して帰ると、夫君がぐったりしていたという。

「慌てて病院に連れてって、点滴と再検査したんだけど、西洋医学的には見放されて、ホスピスを勧められたの」

そして、本人の希望で自宅療養することになった。

「地元の訪問医を契約して、緩和ケアをしてもらってね。痛みを取るモルヒネパッチもだんだん強いのになってって……」

看病するにも、自分もがんから生還したばかりだったので、夫君は要介護認定を受け、ケアワーカーさんを頼んだ。食事には苦労したが、最後まで普通に生活できた。

「喉がただれているからのど越しのいいものしか食べられないんだけど、スープとかなら外食もできたのね。一緒に映画も観に行けたし。寝たきりになったのは最後の一週間だけだったかな」

自宅看取りだったので、お世話になっていた地元クリニックの先生を呼び、死亡診断書を書いてもらった。

「大学病院の主治医は余命四か月と言ったけど、八か月生きられたの」

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Nさんがした「喪のしごと」

〇市役所で
・火葬費見舞金申請(五万円)
・夫君の印鑑証明破棄
・夫君の健康保険証の返却
・死亡届後、戸主証明書の申請(戸籍謄本、住民票、印鑑証明など)
※今後の名義変更に必要な証明書(医師の死亡診断書を含めて)は、数通ずつ用意

〇社会保険庁で
・夫君の厚生年金、国民年金の終了手続きと、遺族年金の申請

〇家庭裁判所で(弁護士に代行してもらうものもあり)
・相続手続き(動産、預貯金、不動産)

〇銀行で(相続確定後の手続き)
・夫君の預金通帳口座の解約
・夫君のクレジットカード解約

〇自宅で
・車の所有名義、自動車保険契約者の変更
・夫君の生命保険の解約、火災保険や地震保険の契約者変更
・公共料金契約者名義と引き落とし口座の変更(電気、ガス、水道、各種保険、NHK等)
・お世話になった方(主治医ほか)へのお礼状(葬儀の報告も含め)
・葬儀、お悔やみなどへのお礼(葬儀参列者のほか、香典、花、弔電、メール、自宅への焼香など)

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相続証明書

子がいないため、相続はまたややこしいことになったという。子どもがいない証明書も提出せねばならず、戸籍謄本は二十通も必要だった。

「子どもがいないから、私たちの住むマンションの三分の一は、義母に相続権が行っちゃうの。でもお義母さんは認知症でグループホームにいたから、相続権放棄の書類を作成するのに、お義姉さんに成年後見人になってもらって、代行してもらったの」

不思議な話だが、夫の死後、夫婦で住んでいたマンションの一部がお義母様のものとなり、もしお義母様が元気で守銭奴だったら、売却して遺産を分割せねばならないのだ。しかし、後見人となったお義姉様が遺産を放棄してくれたので、Nさんは住み続けることができた。

「このへんの手続きはもう素人では無理なので、司法書士さんにお願いして、相続証明書を作ってもらったの」

相続証明書には、夫君の自筆遺書もついている。財産は百パーセント妻に残すという文面だ。司法書士への謝礼は三十万円だったというが、法的効力のあるちゃんとした証明書を作ることで安心できた。

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亡き夫の置き土産

「最近になって、またひとつ相続があったの。ゆうちょの十年定期預金が満期になりましたって連絡があって」

それは三年前のこと。お義母様はすでに亡くなっていた。すると、この預金は二分の一をNさん、四分の一ずつをお義姉様二人と分割相続することになる。しかし、二人は辞退したという。

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自分の終活

一人暮らしのNさんは、いつ何があってもいいように、合鍵を妹さんと、長年の犬友であるお隣さんに渡してあるという。そして、

「延命措置は拒否、葬式はなし。遺骨は夫と同じ場所に散骨してほしいという要望書を書いて、冷蔵庫に貼ってあるの」

夫君の遺骨は、ヨット仲間によって海に撒かれた。

「散骨サービスをする業者に頼めば、ちゃんと遺骨粉砕して、海に溶ける紙で梱包してくれるの。ヨット仲間は十人だから十個作ってもらって。それにお花を添えて、みんなで散骨したの」

その同じ場所に、自分のお骨と、歴代の犬たちの遺骨も撒いてもらう約束をしているのだという。

マンションと財産は姪っ子さんに残すことを、遺言書に書いた。

「遺言書は手書きじゃなきゃダメだから、いまの私たちには大変よ。パソコン慣れしてるから、字がちゃんと書けないじゃない? 行書のような崩し字はダメ、楷書でしっかり、誰が読んでも読めるように書かなきゃいけないから」

あ、それ一番苦手、と私は思った。六十歳のいまでも、自分で書いたメモが読めない(笑)。終活用に、ペン字でも習おうか。

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『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』
横森理香 著
CCCメディアハウス
¥1,650

【著者】
横森理香(よこもり・りか)
作家、エッセイスト。「一般社団法人 日本大人女子協会」代表。1963 年生まれ。多摩美術大学卒業。現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代♥大人女子のための“お年頃”読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちん バブル純愛物語』はバブル時代を描いた唯一の小説と評され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブで翻訳出版されている。また、「ベリーダンス健康法」を発案、主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行う。2017年11月、「一般社団法人 日本大人女子協会」を設立、大人女子の「健康」「美」「幸せ感」を高める活動をしている。

【オフィシャルサイト】http://yokomori-rika.net/
【協会ホームページ】https://otonajoshi.or.jp/
【Ameba 公式ブログ】https://ameblo.jp/arafif-life55