トランプ選挙集会で英バンド、ザ・スミスの楽曲が使われる…ファン層の変化が影響?

  • 文:山川真智子
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Ralf Liebhold-Shutterstock

辛辣な社会批判や自虐的な歌詞で、1980年代に熱狂的なファンを獲得したイギリスのロックバンド、ザ・スミスの楽曲が、ドナルド・トランプ氏の選挙集会で流されている。バンドとトランプ氏との共通点は全くなさそうに思えるが、実は古いファンには分からない、驚きの親和性を指摘する声がある。

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ソーシャルメディアで明らかに メンバーの1人も憤慨

トランプ集会で流されているのは、1984年にリリースされた、ザ・スミスの「プリーズ・プリーズ・プリーズ・レット・ミー・ゲット・ホワット・アイ・ウォント」だ。あるジャーナリストが、X(旧ツイッター)で報告したところ、別のユーザーが、昨年9月にサウスダコタ州の集会で使用された際の映像を投稿。これが大きく拡散し、1月30日時点でインプレッション数は950万回近くとなっている。

古参のファン同様、ショックを受けたのはザ・スミスのギタリストだったジョニー・マーだ。マーは長らく左翼的な主張を支持しており、「こんなことは絶対あり得ないと思っていた。今すぐやめてくれ」とXに投稿した。

ガーディアン紙によれば、これまでにもアデル、エルトン・ジョン、ローリング・ストーンズ、クイーンなどが公のイベントでのトランプ陣営による楽曲使用に抗議。トランプ氏側に法的措置を講じることを警告する、停止通告書を送るケースもあった。

アンダーグラウンドだったのに…古いファンは困惑

ヴァニティ・フェア誌のライター、ジェームス・S・マーフィー氏は、1980年代から1990年代にかけてのファンは、ザ・スミスが表現した、“愛にあこがれる孤独なティーンエージャーの気持ち”にひかれたと解説する。

ボーカルのモリッシーの、孤独と怒りにウィットとユーモアを混ぜた歌詞は、クールであるよりもずる賢いほうがいいこと、そして体育会系や肉食系のほうが、真の負け犬であると思わせてくれた。バンドは1987年に解散したが、その後もまだアウトサイダーや変人のものだとファンが感じるのに十分なほど、アンダーグラウンドであり続けた。

そんなザ・スミスの象徴的な曲の一つで、「どうか今度は欲しいものを手に入れさせて」と懇願する「プリーズ・プリーズ・プリーズ…」が、なぜトランプ集会で使われることになったのかと、多くの人々が首をかしげているという。トランプ氏に不満な選挙スタッフのいたずらという見方もあるが、それなら何度も集会で流れるはずはない。さらに、欲しいものはなんでも手に入れるトランプ氏は、お願いなどしないだろうとマーフィー氏は述べている。

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非モテから絶大な支持?トランプ氏と親和性あり

マーフィー氏は、最近モリッシーが右翼ナショナリズムと移民排斥に傾斜していることが、理由の一つではないかとしている。しかしそれ以外にも、ザ・スミスが今や「インセル」と呼ばれる人々のコミュニティから支持されていることが、トランプ氏とバンドの親和性を高めていると見ている。

インセルとは、自らを“望んでいるのに恋愛や性的パートナーを得ることに縁遠い者”と定義する人々で、「不本意の禁欲主義者」とも訳される。白人のヘテロ男性に多く、エンタメ・ライフスタイル系サイト、ピンクヴィラによれば、自分の問題を女性嫌悪や怒りへの燃料投下に利用する彼らが、ザ・スミスの楽曲のテーマに共鳴し、バンドの再評価に貢献しているのだという。

マーフィー氏は、ザ・スミスとモリッシーは憤りや自己憐憫の表明には長けていたが、同情を他者に広げる能力に欠けており、このあたりがトランプ氏を思い出させるとしている。楽曲使用の理由は推測の域を出ないが、どうかトランプ陣営が欲しいものを得ませんように、とマーフィー氏は願っている。

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楽曲が使われた集会の投稿。

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ギタリストのジョニー・マーも反応。

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 トランプ氏を組み込んだコラ映像も出回っている。

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「プリーズ・プリーズ・プリーズ…」のオフィシャル・オーディオ。