いつまでも作り続けてほしいスポーツカーの筆頭、マツダ・ロードスターはなぜこんなにも魅力的か

  • 文、写真:小川フミオ

Share:

IMG_0177.jpg

スポーツカーのデザインはむずかしいのか簡単なのか。私個人的にはけっこう考えさせられるテーマだと思っている。少なくともマツダ・ロードスターのデザインは古びてみえない。

---fadeinPager---

IMG_0208.jpeg
前後の灯火類がLED化されて意匠も変更を受けた。

 

現行ND型のデビューは2015年。いまの量産車のなかではかなり長寿だ(マツダ車はけっこう長寿)。2023年10月にマイナーチェンジを受けた最新モデルが、24年1月に発売された。

スポーツカーのデザインに公式はないけれど、概して言われているのは、2人乗りで、オープンで(かつソフトトップで)、地面に張り付くように車高が低くて、タイヤの存在感が大きい、ってことだろうか。

---fadeinPager---

IMG_0162.jpeg
もっともベーシックなロードスターSには軽快さという魅力がある。

 

エンジンがフロントならフードが長く見えたほうがカッコいいし、乗員がいるキャビン背後にエンジンが搭載されるなら、さらにノーズは低くて、前後に圧縮感があったほうがいい。駆動方式は後輪駆動がベスト、というひとも多い。

マツダ・ロードスターは、上記の条件をかなり高得点でクリアしている。2人乗りで、車高は低めで、ノーズが長く見え、乗ればエンジンの存在感が大きいし、マニュアル変速機がちゃんと用意されている。

ソフトトップで、しかも黒色が標準、というのも私が気に入っている点だ。ちょっと私見が入るけれど、ロードスターと呼ばれるクルマは本来無蓋(屋根なし)だった。幌が黒色なのは、英国の紳士傘と同じで、本来あってはいけないもの、だからだ。英国紳士は雨に濡れるのも厭わない。そこで幌も傘も、歌舞伎の黒子と同じ。

ロードスターをドライブした印象は、ここでも、スポーツカーの楽しさが凝縮されている、というもの。よけいな引き算も足し算もない、シンプルなドライビング感覚が変わらず気持ちよい。

---fadeinPager---

IMG_0014.jpeg
電動格納トップをそなえた「ロードスターRF RS」のインテリア(タイトで快適)。

 

今回どこが変わったかというと、レーダークルーズコントロールと後退時検知機能のスマートブレーキサポートが新採用されたことや、インフォテイメントシステムのディスプレイが8.8インチとすこし大型化したこと。マツダコネクトも最新のOS(マツダ車のなかで最新)になった。

デザイン上は、前後の灯火類がすべてのモデルでLEDとなり意匠も変更。「目元にスポーティな軽快さを与えた」とマツダではしている。さらに、Penの読者向けには、スポーツタン(ベージュ系)内装と同系色のソフトトップを持つ「SレザーパッケージVセレクション」が設定されたこともニュースでは。

なぜこんなふうな変更が、というと、背景にはサイバーセキュリティ基本法(サイバーセキュリティ法規UN-R155)なる新法規がある。WiFiによるOTA(Over The Air=通信によるシステムのアップグレード機能)搭載車が対象で、車載コンピューターのハッキングを防止するべく、国連欧州経済委員会が導入したものだ。日本もそれにならっている。

ロードスターも、発表いらいコンピューターシステムは継続使用だったので、新規制に準じる必要があり、それならばこのタイミングで、と手を入れることになったそう。

---fadeinPager---

IMG_0220.jpeg
ブラックが人気というがレッドも魅力的なロードスターSレザーパッケージVセレクション。

 

変更点は、走りに関する部分にも及ぶ。ステアリングシステムの構造変更でドライバーとクルマの「高い一体感を目指し」たというのが一つ。2リッターエンジン(電動格納トップのRF)は駆動力制御に最新の制御ロジック導入で、アクセルペダルの微妙なオンオフに対するエンジンレスポンスがよくなっている。

1.5リッターエンジン(オープンのロードスター)は、日本国内のハイオクガソリンに合わせたセッティングが、今回初めて施された。おかげで「加速の伸び感が強化され」たとマツダ。

これまでロードスターは98RONというオクタン価のハイオク使用が前提だったが、いまの日本ではほぼRON100。なにも低いほうに合わせる必要ない、と判断したと開発者は言う。最高出力は3kW上がっている。

---fadeinPager---

IMG_0190.jpeg
Vセレクションにはベージュ系のソフトトップが組み合わされる。

 

さきに、ロードスターは黒幌でなくちゃ、と書いたものの、今回新設定された「ロードスターSレザーパッケージVセレクション」といって、ベージュ系のレザーシートに、ベージュ幌の仕様は、発売直後から高い人気を呼んでいるそうだ。初代に設定されていたVスペシャルの再来ともいえるモデルだ。

今回のVセレクションではブラックの外板色とベージュのシートや幌との組み合わせがウケていると聞くけれど、試乗したレッドもよい。とくにドアの内張りのパネルまでボディ同色で、ベージュ内装との組合せがたいへん美しい。

---fadeinPager---

IMG_0212.jpeg
レザーパッケージVセレクションにはベージュタンのナッパレザー張りシートで、センタートンネルもベージュ系のソフトパッドで覆われる。

 

私が乗ったのは、1.5リッターも2リッターも、マニュアル変速機モデル。2リッターは、マツダの開発者の狙いどおり、市街地での中間加速の領域がさらに扱いやすくなっているのと、加速時の音がきれいにチューニングされたのが印象的だ。

2リッターエンジンのばあい、電動格納式トップのボディとなるけれど、日本では逆にそのほうが使いやすい、とあえて選ぶひとも少なくないだろう。

---fadeinPager---

IMG_9983.jpeg
電動格納式ハードトップをそなえたロードスターRFはエンジンのフィールもサウンドもおとなっぽくなった。

 

いっぽう、1.5リッターは高回転まで気持ちよく回るエンジンで、手首だけで操作できるシフトレバーを操って走ると、MT最高!と思わず声が出そうになる。

ベースモデルのロードスターSも軽快で、個人的にはたいへん好ましいクルマだけれど、それより上のモデル(つまりほぼすべて)には、「アシンメトリックLSD」なる新しい差動装置が備わり、とくに下り坂のカーブを走りぬけていくとき、後輪にしっかり駆動力がかかるようになっている。

各種規制によって、いつまで現行モデルの生産が続けられるかわからないが、今回のサイバーセキュリティ法を”逆手”にとったようなマイナーチェンジを好例として、これからも期待したい。マツダでも「出来るだけ作り続けたい!」と大きな声(比喩)で言っている。がんばれ。

---fadeinPager---

IMG_0089.jpeg
大きな開口部がスポーツカーっぽいルックスを強調する。