スウェーデン人86歳、幸せな老いの秘訣。「何かのお世話を日課にする」理由とは?

  • 文:マルガレータ・マグヌセン
  • 訳:安藤貴子

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85歳で出版した終活本が世界的ベストセラーとなった、86歳のスウェーデン人イラストレーター、マルガレータ・マグヌセンが、老いを楽しむマインドや暮らしを快適にするハックを教える『スウェーデンの80代はありのまま現実的に老いを暮らす』(CCCメディアハウス刊)より一部抜粋。彼女が心がける幸せな老いの秘訣をお届けする。

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【スウェーデン流・幸せな老いの秘訣】「何かのお世話を日課にする」

高齢になり、とくにひとりで暮らすようになったら、自分以外の何かの世話をするといいでしょう。たとえ健康に問題がなくても、年を重ねれば自分のことをするのにも時間がかかるようになります。動きがスローになるからです。食事の支度などいつまでたっても終わりません。「フィーカ」―サンドイッチや甘いものを食べながらコーヒーを飲むスウェーデンの習慣―の用意をするだけでも延々と時間がかかるのです。着替えて髪の手入れをするのに午前中いっぱいかかるような気がするし、自分のことをやっているだけですから、人に感謝されることもありません。自分で自分にお礼を言えばいいのかな。

でも、ペットに餌をあげてかわいがれば、別の生き物とつながることができます。お礼は言わないでしょうけど、ペットは抱っこしてほしくて身体を寄せてくるでしょう。自分以外の何かに優しくするのは気持ちがいいものですし、成長を見守り、日々の変化を感じられるのも思いがけない喜びです。

だから、わたしはいつも、膝の上で丸くなる子猫と、その子のお世話をする生活を頭に思い描いています。夢の中では、重たいキャットフードの缶詰を買って帰らなければならないことも、トイレ砂を交換しなければならないことも、すっかり忘れていられます。

でも、実際に飼うとなれば、子猫といえども大きな責任を伴うことは決して忘れてはなりません。それに、自分で猫の面倒がみられなくなる日のことを、どうしても考えずにはいられないのです。そうなったときにわたしに代わって猫に餌と水をあげ、かわいがってくれる人を見つけておく必要があるでしょう。

あまりに長いあいだ想像を膨らませ、たくさんの子猫に名前をつけているうちに、 現実に子猫を迎えるには遅すぎる年になってしまいました。率直なところ、猫よりもわたしのほうが先に死んでしまうでしょう。そうならないまでも、入院する、子どもに会いに行くといった理由で、数日間留守にするときはどうすればいいのでしょう? 誰がキャタピラーのお世話をしてくれるのでしょうか?

冗談で、こんな生き物を飼ってみたいと家族に話をすることがあります。魚とかタコなんかどうかしら? けれど、水槽は手入れがたいへんだし、置くスペースもあり ません。それにタコはフーディーニ〔訳注/アメリカで人気を博したハンガリー出身のマジシャン。 鎖や手錠、あるいは錠のかかったコンテナから脱出する芸で有名〕のようだと聞きます。それほど脱出が得意なら、スローな 86歳の女性のもとから逃げ出すのなんてわけもないでしょうね。

ハムスターはどう?スナネズミは?オウム?それともインコ?なんてね。 子猫の世話もできないのに、ほかのペットを飼えるはずがありません。

では、何のお世話ならできるでしょう?

いつだったか、高齢者に小さな植物の世話を任せる介護施設の話を読んだことがあります。どうも、水やりなど、毎日植物の世話をしていた人のほうが長生きしたようなのです(この実験を考えた科学者たちは、植物を与えられなかったことで命を縮めた患者がいることに気がついていたかしらね)

自分の経験からすると、この調査結果は納得です。わたしは庭仕事が大好きで、マンションの小さなベランダから外の植物をながめることができる春を今も楽しみにしていますし、リビングの窓のそばには観葉植物をいくつか置いています。

毎日水をやる必要はありませんが、状態をチェックして、必要に応じて水を与えるのを日課にしています。ときどき枝を刈り、色艶の悪い弱々しい葉を切り落とします。話しかけることだってあります。朝のできごとを報告するのです。毎日見ているので、ちょっとした変化も見逃しません。

しばしば動きがえらくスローになるので、様子を見て必要なときに水やりをするだけでもまあまあ時間がかかります。かわいそうだなんて言わないでくださいね。どうということはないそんな日課を、わたしは心から愛しく思っているのですから。

わたしは生きていて、植物も生きている。すばらしい毎日です。

わたしが旅立ったあと、誰が植物の面倒をみるのでしょう? それはわかりませんが、かわいらしい植物ですから、きっと誰かが引き受けてくれると思います。

それまでは、植物のお世話を日々楽しむつもり。小さいながらも楽しみ、つまり自分以外にお世話をするものがあるのは、年齢に関係なく重要なことです。

子猫のカトマンズを飼うのは無理でも、アンニ=フリッドという名のシダがあれば、それでわたしは幸せなのです。

 

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『スウェーデンの80代はありのまま現実的に老いを暮らす』マルガレータ・マグヌセン 著 安藤貴子 訳 CCCメディアハウス ¥1,760

  
【執筆者】マルガレータ・マグヌセン (Margareta Magnusson)

彼女のことばを借りれば80歳と100歳のあいだ。 スウェーデンに生まれ、世界各地で暮らした。ベックマン · デザイン大学を卒業し、香港やシンガポールでも個展を開いた。5人の子どもを持ち、ストックホルム在住。著書に『人生は手放した数だけ豊かになる——100歳まで楽しく実践1日1つの “終いじたく”』(三笠書房、2018年刊)がある。