「大人の名品図鑑」帽子編 #1
かつて帽子は日除けや防寒などの実用的な目的、あるいは社会における身分や階級の象徴として進化したが、いまやファッションアイテムとして、老若男女に愛用される装身具=アクセサリーだ。今回の「大人の名品図鑑」では、いま注目を集めるカジュアルな帽子について考察する。
カジュアルな帽子の中で多くの人に愛用されてきたのが、野球帽(キャップ)だろう。そもそもは野球場での日除け用として使われ始めた帽子だが、いまではフィールドを離れ、チームを応援する、あるいは個性を表現するヘッドウェアとして完全にファッションの一部になっている。
野球というスポーツが確立したのは19世紀のアメリカだ。19世紀半ばには報酬をもらって野球をする、いわゆる「プロ野球選手」も登場し、1869年にはプロ選手だけで構成されたチーム、シンシナティ・レッドストッキングスが誕生する。76年には現在まで続くナショナルリーグが発足し、これが最初のメジャーリーグと言われている。
では野球帽が生まれたのはいつ頃からだろうか? 当初、被りものに関する公式なルールがなかったため、選手たちは麦わらのカンカン帽やキャスケットなど、さまざまなスタイルの帽子を被ったり、もしくは無帽でプレイする選手もいたと言う。1860年前後、全米野球選手協会に所属するブルックリン・エクセルシオールが現在の野球帽の原型となる丸い形状の頭頂部とバイザーをもつ帽子を導入、20世紀の初頭までには「ブルックリン・スタイル」と呼ばれるこの帽子が主流を占めるようになった。
メジャーリーグで初めてキャップ正面にロゴを配したのは、デトロイト・タイガースだ。それは1901年のことで、正面にオレンジ色の虎のマークが入っていた。1903年にはバイザーにステッチが入れられるようになり、帽子前部の傾斜がより垂直になるなど、さまざまな改良が加えられ、40年代にはほぼ現在のキャップスタイルが出来上がったと聞く。
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100年以上の歴史をもつニューエラ
ニューエラは、世界的なベースボールキャップブランドとして知られ、日本でも圧倒的な人気を誇る。その創業は古く、いまから100年以上前の1920年に、ドイツ移民のエルハルド・クックが立ち上げた帽子会社が始まりで、2年後の22年に正式社名を「ニューエラ・キャップ」とした。創業当初は紳士用の帽子を製作していたが、32年に創業者の息子であるハロルド・クックが、当時全米で人気を集めていた野球に着目し、スポーツ用キャップのビジネスに参入することを決意する。その2年後には早くもクリーブランド・インディアンス(現在のガーディアンズ)の公式選手用キャップに採用され、やがてさまざまなスポーツの地方リーグやマイナーリーグ、大学チームへと提供し始め、70年代にはMLBの24チームのうち、20チームとの契約に成功する。90年代にはMLBより公式選手用オンフィールドキャップを独占的に製造する会社の一つに選ばれるまでになった。
今回取り上げた「59FIFTY®️」は、MLBの公式選手用キャップとして54年に誕生して以来、そのフォルムはほとんど変更なく製作されているニューエラのアイコンとも言える人気のモデルだ。型崩れしにくい丈夫なつくりは、熟練の職人により、手作業を中心とした22もの工程でつくり上げられている。このモデルは1/8(約1cm)刻みで展開される「フィッテドサイズ」を採用しているので、さまざまな頭囲に対応できる。ちなみに2017年より、MLB公式オンフィールドキャップはすべて左サイドに同ブランドの「フラッグロゴ」が刺繍されている。90年代にはニューヨーク・ヤンキースの大ファンだった映画監督のスパイク・リーがニューエラに赤の「59FIFTY®️」を特注、この帽子を被って観戦する彼の姿が全米に中継され、ファッションやカルチャー的にもニューエラの野球帽が注目される発端となった。単なる野球帽という枠組みを超えるきっかけまでつくった、まさに記念碑的なモデルだ。
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ニューエラ
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