アメリカ初の大陸横断道路をたどる、少年たちの人生を変えた旅

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『リンカーン・ハイウェイ』

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エイモア・トールズ 著 宇佐川晶子 訳 早川書房 ¥4,070

アメリカで最も有名な大陸横断道路といえば、ルート66だろう。1926年に開通したこの旧国道は、ジョン・スタインベックが『怒りの葡萄』で描いた通り、困窮した東部の農民が新天地を求めてカリフォルニアを目指した、アメリカン・ドリームを象徴する道だった。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』の帰路であり、数多くのロードソングの源泉にもなっている。

リンカーン・ハイウェイは、それよりもさらに古い1912年に開通したアメリカ初の大陸横断道路だという。1954年、更生施設を出所した18歳のエメットが故郷のネブラスカに戻ると、父親が遺した借金で家を出なくてはならなくなる。唯一の財産である愛車のスチュードベーカーに乗り、8歳の弟のビリーとカリフォルニアを目指すことにしたのは、8年前に家を出た母親が送ってくれた絵葉書の消印をつなぐと、母親がリンカーン・ハイウェイをたどりカリフォルニアにいるらしいとわかったからだった。

ところが更生施設を脱走したダチェスとウーリーに車を奪われ、彼らを追ってニューヨークに行く羽目に。アメリカン・ドリームと呼ぶにはあまりにも波乱めいた旅の始まりだ。エメットはなぜ更生施設に入ることになったのか。売れないシェイクスピア俳優の父親と国内を転々としながら生きてきたダチェスも、マンハッタンの裕福な名家の生まれのウーリーも、帰るべき家を持たない。最年少で抜群の観察眼をもつビリーが、ときに不穏な影が差すこの物語の希望になっている。50年代のアメリカ、心に傷を負った少年たちの旅は思いがけない結末にたどり着く。思えば、映画『スタンド・バイ・ミー』で少年たちが旅をしたのも1959年の夏だった。700ページ近いのに一気に読ませる、ロードノベルの新たな傑作。

※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。