全米大ヒット中の『ゴジラ−1.0』監督の山崎貴と、養老孟司が初対談! 70周年を迎えるゴジラは、なぜつくられ続けるのか?

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:幕田けいた

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左:『ゴジラ-1.0』を監督した山崎貴 右:『GODZILLA THE ART』ゼネラルプロデューサーを務める養老孟司

ゴジラ70周年を迎える2024年に向け、二つのプロジェクトが始動している。一つは大ヒット中の映画『ゴジラ-1.0』、もう一つはアート・イベント『GODZILLA THE ART』だ。

今年4月から5月にかけて「GALLERY X BY PARCO」(東京・渋谷)で開催された『GODZILLA THE ART』は、アーティストの我喜屋位瑳務、NOH Sanghoら国内外の表現者たちを迎え、それぞれの手法でゴジラを表現して高い評価を得た。勢いをそのままに『ゴジラ-1.0』は11月に日本公開、その後アメリカでも公開され、公開17日間で全米興行収入3441万ドル(約49億円)を突破。アメリカにおける歴代邦画実写作品の中で1位となった。そして、12月28日から『GODZILLA THE ART』の第2弾開催も決定している。

果たして、国内外のファンを70年にもわたって魅了する「ゴジラ」とはなんなのか。『GODZILLA THE ART』ゼネラルプロデューサーの解剖学者・養老孟司と海外でも高い評価を得た山崎貴監督に、ゴジラの魅力と正体について、さまざまな角度で語っていただいた。

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©2023 TOHO CO., LTD.

時代の描写は「その人がどう受け取ったか」に尽きる

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養老 孟司(ようろう たけし)●1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。 日本の医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。 2003年に発売された新潮新書『バカの壁』がベストセラー第1位となる。 また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞。 他に『唯脳論』『遺言。』『ヒトの壁』『なるようになる。』など著書多数。怪獣好きで、映画『ガメラ2 レギオン襲来』には、群体レギオンを解剖する大学教授役で出演したこともある。 大の虫好きとしても知られ、2015年鎌倉の建長寺に虫塚を建立した。

――養老先生は『ゴジラ-1.0』をご覧になっていかがでしたか。 

養老 一生懸命に観ました(笑)。細かいディテールも気になるし、とにかく一生懸命に観てしまう映画でしたね。とてもよくできてるんじゃないでしょうか。

山崎 ああ、よかった! 先生は、あの時代の東京や神奈川をご存じですよね。東京の風景などはいかがでしたか。

養老 非常に懐かしかったですね。 

山崎 当時の銀座は、空襲で焼け残ったところは、しっかりとしたいい建物ですが、焼けちゃったところはベニヤのにわかづくりの建物になっていたんです。歩道には日用雑貨が売ってる露店が並んでいて――という街並みは、47年のある時期だけにあった特殊な風景なのですが、当時の写真を助監督が見つけてきちゃった(笑)。写真を見つけたからには、映画でも再現しなきゃいけないんで苦労しました。こうした風景も、ご存じですか。

養老 うん、知ってますよ。あの映画の通り、露店が並んでました。露店の古本屋で本を探していましたから。 

山崎 そうですか! 本物の風景を見てらした先生の証言がいただけてよかったです。時代の描き方はいかがでしたか。

養老 昭和20年代の日本が最初の舞台になっていますが、僕の周りの大人が登場人物と同じくらいの世代でした。実の兄貴は予科練(海軍飛行予科練習生)で終戦を迎えて帰ってきたとか、同級生はあの場所で逝っちゃったとか、いろいろなことを思い出しました。いまの人がもっている特攻に対するイメージも、『ゴジラ-1.0』に描かれているような形で、解釈が落ち着いてきたのかなと感じましたね。

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『ゴジラ-1.0』の劇中で、ゴジラによって破壊される銀座の街。©2023 TOHO CO., LTD.

山崎 僕らの世代はあの時代を体験していないので、映画で描いたことが本当はどうだったのかはわからないですけれども、本で調べただけでなく、特攻隊に入りながら終戦を迎えた方の話なども脚本には入っているんです。僕らは戦争を経験している方たちの話を直接聞くことができるギリギリの世代かもしれないので、間違いがなければいいなと気にしながらつくっていました。

養老 いやいや、気にしなくても、根源的にはそういうことに正しいとか、間違いとかないんじゃないかと思います。その人がどう受け取ったかに尽きます。学問をやると正しいか間違いかにうるさくなるんですが、僕はそういうの嫌いなんですよ。

――山崎監督は『続・三丁目の夕日』でゴジラを登場させました。また養老先生は『ガメラ2』にもご出演されています。お二人は怪獣映画がお好きなんですか。

養老 僕は子どものころから恐竜が大好きでね。いまでも、しょっちゅう図鑑などの絵を見ているんですが、それが映画になって立体で動き出すと実に楽しい。でも恐竜ファン寄りの立場で、怪獣を生き物として観るから、あそこが悪い、ここが違うと思ってしまうんです。

山崎 先生は、ゴジラのソフビ・フィギュアを見て、もう少し頭が大きい方がいいな、とおっしゃってましたね (笑)

養老 この目つきがなあって、文句言ってたんです(笑)。 

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二人の真ん中にあるのは、『ゴジラ-1.0』に登場するゴジラを再現したフィギュア。

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ゴジラは神様とも獣ともつかない、両方を兼ねた存在

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山崎 貴(やまざき たかし)●1964年、長野県生まれ。幼少期に『スターウォーズ』や『未知との遭遇』と出会い、強く影響を受け、特撮の道に進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、1986年に株式会社白組に入社。『大病人』(93)、『静かな生活』(95)など、伊丹十三監督作品にてSFXやデジタル合成などを担当。2000年『ジュブナイル』で監督デビュー。CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)では、心温まる人情や活気、空気感をもつ昭和の街並みをVFXで表現し話題になり、第29回アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など12部門を受賞。『永遠の0』(13)、『STAND BY ME ドラえもん』(14)は、それぞれ第38回アカデミー賞最優秀作品賞ほか8部門、最優秀アニメーション作品賞を受賞。日本を代表する映画監督の一人として数えられる。

――養老先生は1954年の初代『ゴジラ』もご覧になっているんですか。

養老 映画館で観たかどうかは覚えていないけれど、そういうの大好きですから観ているに違いないと思います。

――監督がご覧になった最初のゴジラ映画は?

山崎 僕は小さいころ『キングコング対ゴジラ』(1962年)をTVの雨傘番組で見たのが最初だったと思います。雨傘とは、野球が雨天中止になるとTV中継を別の番組に差し替える編成なんですが、怪獣映画が多かったんですね。そこで見た『キングコング対ゴジラ』が最初だったと思います。でも自分的にもっと衝撃だったのは、幼稚園か小学生の低学年のころ、神社に落ちていた少年雑誌。見てたら特撮の裏側を見せる特集が組まれてて、怪獣の中に人が入ってミニチュアの建物を壊して撮影しているという図解が載っていたんです! 怪獣という仕事があるんだと!

養老 それは衝撃的だ(笑)。

山崎 凄いうらやましかったですね。怪獣ゴッコをして暮らしている人がいるんだと(笑)。うちの父親はサラリーマンで真面目な仕事をしていたんで、なぜ怪獣ゴッコで遊んでいるだけなのに給料がもらえるんだ!?と。それで監督になりたいと思ったんです。

――そんな怪獣ファンのお二人が考える、70周年を迎えるゴジラの魅力とは? なぜつくり続けられているんでしょうか。

山崎 『ゴジラ-1.0』をつくり終わったとき、ゴジラは神様とも獣ともつかない、両方を兼ねた存在なんじゃないかなと感じました。ただのエンタメだと、70年も残っていないような気がします。これだけの時間を乗り越えてきたのは、日本人特有の宗教観とどこかでつながっていて、ゴジラ映画をつくる行為は、海から祟り神が出てきちゃったから、みんなでお祀りして鎮める神事なんじゃないかなと。

――海外のモンスター映画とは違いますか。                                            

山崎 アメリカのシナリオのシステムでいうと、怪獣がなぜ襲ってくるかを説明しないといけないんです。アメリカの核実験で焼かれて怪物になった生物が、なぜ日本にくるのか。それを説明するのがハリウッド的脚本なんですが、日本の怪獣映画は「来てしまいました」と素直に受け入れる。

養老 まったく、その通りだと思います。宗教そのものじゃなくて、宗教的なものですね。宗教だと、なにについても定義するところがあるんだけれど、そうじゃなくて、怪獣には日本人が心情としてもっている視点が込められている。形がハッキリしていて目に見えるものじゃなくて、災害の爪痕や歴史的に日本にある空気のような、うまくいえない形にならないものがゴジラになった。そんななんとも言えないボンヤリしたものがゴジラです。

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山崎 ああ、ボンヤリした存在ですね。

養老 それでも、みんな素直に受け入れている。それでいいんじゃないですか。現代って物事をボンヤリさせないという悪い癖がある。なんでもキチンと説明しようとするから、疲れちゃうんです。ゴジラは、「ゴジラみたいなもの」という漠然とした説明でいいんじゃないですか。

山崎 たしかに説明できないのは大事かもしれませんね。 

養老 「ゴジラをつくり続けているのはなぜ?」 と聞くとしたら、「なんでお祭りをやってるんですか」と質問するようなものです。やらなくてもいいんだけれど、やっぱりやろうという人が一定数いるし、参加する人もいる。だからお祭りをやる。お祭りをして、怒る人はあんまりいないと思います。

山崎 『ゴジラ-1.0』の製作を始めたら、コロナ禍があったりウクライナの戦争が起きたり、祟り神が憑いている感じがしたんですよ。ですから僕には、撮影は祟り神を祀って鎮めているような思いもあったんです。いま、お話を聞いていて、日本人にはそういう感覚が備わっているのだなと思いました。

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勢いでつくっているから純粋なものができた初代『ゴジラ』

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――ゴジラには、海外に発信する日本文化としての側面もあると思うのですが。

山崎 「GODZILLA THE ART」には確かにそういう側面があって、海外の人はゴジラをアートとして捉えている感じがあるんです。今回、映画に関する海外メディアの取材をいくつか受けたんですが、「日本人は気づいていないかもしれないが、ゴジラはアートなんです」と言われました。 

養老 他の文化圏の人がどう見ているかは、当事者には分からないんですよ。それを先回りして説明することができない。日本人がゴジラをさんざんつくってきて、気がついたら、外側から、こんなもの他にはないよって言われたという話ですね。

山崎 それは初代『ゴジラ』にも当てはまる話ですね。『ゴジラ』は世界に認めてもらおうとかじゃなくて、気がついたら、こんなものできちゃったという作品です。もともとは当時、海外との合作映画をつくろうとしていたんですが、政治的な理由でお蔵入りしてしまった。それで急遽、埋め合わせる映画をつくらないといけなくなって、アイディア段階から公開まで8か月しかない中で、勢いでつくったのが初代『ゴジラ』です。

養老 ああ、そうなんですね。 

山崎 戦争が終わって間もないときに、東西冷戦や第五福竜丸の事件など嫌な雰囲気の世相の中ででき上った映画で、いま観ると反戦のメッセージが感じられるんですけども、いろいろメッセージを考えて「込めよう」としたのではなくて、当時の「水爆なんて、いい加減にしてくれ」という厭戦のリアルな気持ちが、自然に「込もっちゃった」作品だと思います。

勢いでつくっているから、逆に純粋なものができたのでしょう。だから海外でも評価された。『ゴジラ-1.0』はアメリカでも公開されるのですが、どう受け取られるか楽しみでもあり、恐ろしくもありますね。アメリカ人にゴジラをどう説明すればいいのか……(注:取材時は全米公開前)。

養老 僕なら説明しないです。現代社会は説明過剰です。説明してわかっているつもりになるのも嘘だし、説明しきれるかといえば嘘かもしれない。言う方も聞く方も、両方で嘘をつくクセがついている。初代『ゴジラ』の成り立ちには、そういうからくりが一切ない。正直につくっているわけで、そういう工程が一番、いい作品ができるんじゃないですか。それが日本流といえるのかもしれない。

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「やってみないとわからない」が大事

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左:沖縄県出身のアーティスト・イラストレーター、我喜屋位瑳務の作品。 右:韓国のアーティスト、ノ・サンホの作品。

――「GODZILLA THE ART」にも日本流のゴジラが現れそうですか。

養老 「GODZILLA THE ART」の参加者が、それぞれの思う「ゴジラ」を描き出すことが、その意義で面白みです。「アート」っていろいろな面があるから、思いが結びつくところ、表現の接地点があればやりやすい。ゴジラは日本人の神性に深く結びついているものだから、その接地点からアート作品が出てくれば、いいんじゃないかなと思っています。 

山崎 自分たちのもっているメンタリティでつくっていけば、まったく違う価値観の人が見ると不思議な「ゴジラ」が見えてくるのかなと。初代『ゴジラ』は、狙わずに当時のスタッフの思いが怪獣になっちゃった。それが「アート」なのかもしれないですね。

養老 そうですね。そこがゴジラの一番面白いところです。「同じ」世界を言葉によって生む文明社会と、世界の違いを感覚で呼び戻すアートがある。「りんご」という言葉でくくって、りんごの概念を共有する一方で、自分の脳裏に映るりんごの色や形を表現するのがアートでしょう。「GODZILLA THE ART」では説明なし、解釈なし。言葉にしないでゴジラを引き合いにした作品をつくるのがいいんじゃないですか。「こんなもんができちゃった」という出し方ですね。

山崎 そのまんまのゴジラを描く人もいるし、エネルギーの流れみたいなものを描く人もいるだろうし。ゴジラをどう捉えるか、その人の精神性が表れるでしょう。 

養老 僕は子どもが絵を描いてくれれば面白いと思うんだけどな。子どもが自分で考えたゴジラでも、ゴジラがいる風景でもいいからね。子どもはホントにいい絵を描きますよ。全国の学校でぜひやっていただきたい(笑)。

山崎 キャーキャー喜んで書いてくれそうですね(笑)。

――「GODZILLA THE ART」は今後、どうなっていくんでしょうか?

養老 そういうことは「やってみないとわからない」んです。先が読めるような企画は、面白くもおかしくもない。やってみてどうなるかというのがゴジラなんです。

山崎 それでハプニングが起きても……。

養老 うん、それでいい。銀座がぶっ壊れてもいい(笑)。最近「やってみないとわからない」って、誰も言わないですよね。若い人が怒るんだ。「先生、これやったらどうなります?」「やってみないとわからないだろ」「そんな無責任な!」って(笑)。若いんだから、やってみてわかることしかやらないなんてもったいない。なんでも「やってみること」が大事です。

山崎 初代『ゴジラ』もそうですよね。監督を決めるに当たって、東宝のいろんな方に「そんなゲテモノ!」と断られたらしいんです。でも「やってみなきゃわからない」という本多猪四郎監督がいらっしゃったから面白い映画になった。 

養老 よくわかります。

山崎 それがマスターピースになって、70年もつくり続けられる基礎になったわけです。本当に「やってみなきゃわからない」と思います。

養老 ゴジラは、日本人が忘れがちななにかを教えてくれるんですね。やってみないとわからないのが、ゴジラなんです。

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『ゴジラ-1.0』

監督・脚本・VFX/山崎貴
出演/神木隆之介、浜辺美波ほか 2023年 日本映画
2時間5分 TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中。
godzilla-movie2023.toho.co.jp

『GODZILLA THE ART by PARCO vol.2』


開催期間:2023年12月28日〜 2024年1月9日
会場:GALLERY X BY PARCO(東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷PARCO B1F)
参加アーティスト:COIN PARKING DELIVERY(コインパーキングデリバリー)
営業時間:11時〜21時 ※入場は閉場時間の30分前まで 
※12月31日、1月9日18:00閉場、1月1日休業、1月2日〜1月3日10:00開場
料金:¥500円 ※未就学児無料
※イベント内容は予告なく変更となる場合がございます。
godzillatheart.com