アメカジの象徴である「バッファロー・チェック」の生みの親は、ウールリッチだった

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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モデル名は「ロングスリーブ オーセンティック フランネルシャツ」。通常は2本の糸を撚り合わせるところを3本の糸を撚り合わせ、尾州に残るシャトル織機を使って織り上げた素材を採用。「バッファロー・チェック」は正方形ではなく、アーカイブに残る長方形のデザイン。ボタンは1950年頃、同社が使用していた2穴ラウンド状を再現したもので、素材もデザインも、パーツも徹底してこだわった逸品だ。¥28,600/ウールリッチ

「大人の名品図鑑」チェック編 #3

秋冬の季節になると俄然見る機会が増える「チェック柄」。着こなしのアクセントになり、カジュアルな雰囲気を醸し出せるのが強みだ。今季のファッションはクラシック回帰の傾向もあり、柄のバリエーションも豊富に揃う。今回は代表的なチェック柄のアイテムを取り上げ、その歴史や逸話を探ってみる。

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アメリカンカジュアル、通称アメカジの定番シャツと言われているのがチェックシャツだ。「タータン・チェック」や「ギンガム・チェック」、フランス語で陰影、あるいは濃淡を意味する「オンブレ・チェック」など、さまざまなチェック柄が着られているが、いちばんアメカジを感じられるチェック柄が「バッファロー・チェック」だろう。

この柄が日本で広く知られるようになったのは、70年代後半のヘビーデューティーファッションがブームとなった頃だが、当時はアメリカ流に「バッファロー・プレイド(プラッド)」と呼ばれることが多かった。

まずはその意味を解説しておこう。「ふつう黒と赤をはじめ、黒・緑、緑・赤、黒・白などコントラストの強い配色による、約5センチ四方の大格子柄となっており、メルトン調の肉厚のウール地にしばしば採用されている。この派手な配色は一説によれば、その昔、草原や森林での野牛狩りの際に、他のハンターから誤射されないようにとの配慮から考えられたものといわれる」と91年発行の『男の服飾事典』(婦人画報社)に解説されている。

イラストレーター小林泰彦が77年に書いた『ヘビーデューティーの本』(婦人画報社)には、「ウール85%、ナイロン15%の生地を使ったバッファロー・プレイド・シャツはヘビアイ(筆者注:ヘビーデューティー・アイビーの略)のマストである」とある。確かに70年代のこのチェック柄を使ったアウトドア向けのシャツやジャケットは、厚手のウール素材が主流を占めていた。

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200年近い歴史をもつ、アメリカのアウトドア・ブランド

実はこの「バッファロー・チェック」というチェック柄を生み出したのは、アメリカのウールリッチというアウトドアの老舗ブランドだ。英国・リバプール出身のジョン・リッチがアメリカに渡り、ペンシルバニア州に毛織物工場を設立したのが1830年。『ウールリッチと私』(久安邦明著 幻冬社)によれば、ジョンは創業当時、工場で生産した毛織物や毛糸、毛布や靴下などをロバの背中に積んで行商していたという。

当時のアメリカは鉄道の建設ラッシュや西部開拓ブームで経済は右肩上がり、ジョンの商いも着実に拡大。「バッファロー・チェック」が生まれたのは創業から20年を経過した1850年。ウールリッチ本社周辺はアウトドアスポーツの宝庫で、さまざまなスポーツが行われていた。冬場はハンティングが盛んで、前述の用語集の解説にもあったように、このハンティングで狩猟者たちが誤射しないように赤と黒を使ったチェック柄が考案された。実はこの周辺では七面鳥や鹿の狩りがよく行われていたが、獲物となる鹿は色盲で、赤と黒の識別はできない。一方、人間にとってはこの柄は判別でき、しかも自然の中でも目立つ。それでこの赤と黒の配色が選ばれたと、同書に書かれている。

今回紹介するのが、「ロングスリーブ オーセンティック フランネルシャツ」と呼ばれるシャツだ。このシャツに採用されているのは、「Rich’s Original Buffalo Plaid」と呼ばれる特別な柄。同社に保存されている資料からを発見されたもので、1949年頃からシャツ用のウール地に使われていた柄らしい。一般的な2インチ正方形ではなく、長方形に織られたウールリッチ独自の「バッファロー・チェック」が再現されている。

今回のシャツではウールではなく、より汎用性の高いコットンネルに素材を置き換え、優秀な生地づくりで知られる尾州の旧式のシャトル織機でゆっくりと織り上げている。洗い込むほどに心地良い肌触りをもち、風合いも増していく。アメリカの老舗アウトドアブランドの歴史を体現するかのようなシャツが日本の技術とこだわりによって再現されたと聞けば、誰しもが欲しくなるではないか。

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1830年創業と、アメリカのアウトドアブランドとしては最古の歴史を誇るウールリッチ。首元に付いた織りネームのデザインは、1950年代の製品から再現されたものだ。

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右が「バッファロー・チェック」のオリジナルの配色である赤×黒の「RED BUFFALO」。中央は白×黒の「WHITE BUFFALO」。左が茶×黒の「BROWN BUFFALO」。配色によってイメージも変わる。各¥28,600/ウールリッチ

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モデル名は「No.13ハンティングベスト」。「バッファロー・チェック」に続いて考案された「ハンティング・チェック」を採用している。これもウールリッチを象徴するチェック柄で、その昔、ハンターたちは上下でこの柄のアイテムを着用、「ペンシルバニア・タキシード」とも呼ばれ、その姿でパーティに出席することも許されていたほど普及していた。30オンスのヘビーな素材はシャツ同様に世界3大毛織物の産地、日本の尾州で完全復刻させた希少な素材が使われている。ウール100%。¥49,500/ウールリッチ

ウールリッチ 二子玉川店

TEL:03-6431-0150

www.woolrich.jp

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