大規模リニューアルした日本科学未来館で、最新ロボティクス研究から“老い”までを体験

  • 文:久保寺潤子
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トヨタ自動車が技術協力した未来館オリジナルパートナーロボット「ケパラン」。

職場や日常生活などのあらゆる場面において、AIやロボットが取り入れられているいま、科学の存在はより身近になっている。2001年に開館した日本科学未来館は、「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」を理念とし、先端科学や最新テクノロジーを体験できる場所だ。2023年11月22日より新たに4つの常設展示が加わり、近未来の社会課題を“自分ごと”として考えるきっかけの場として生まれ変わった。

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コミュニケーション促進から災害時レスキューまで、活躍の場を広げるロボット

3階の常設展示「ハロー! ロボット」は、最新ロボティクス研究の紹介を通して、未来のロボットとの暮らしを想像できるような空間となっている。展示ブースの中でひと際目をひくのが、未来館オリジナルのパートナーロボット「ケパラン」。水色のもふもふした外観はぬいぐるみのように愛らしく、話しかけると表情や身振りで応えてくれる。今後は来場者の意見をふまえながら、パートナーロボットとしての対応や振る舞い、歩行動作などを順次搭載していく予定だ。

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動物を飼うことが難しい場所や人のために開発されたコミュニケーションロボット「パロ」。つぶらな瞳が愛らしい。

 

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人が語りかけると3体の「トーキング・ボーンズ」が関心や共感を示しながら、会話を引き出してくれる。相手のロボットが複数になることで、リラックスした会話が可能に。

 

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熱心に話しかけると瞳孔が変化する瞳型のロボット「ピューピロイド」。目は人の心を動かす重要なコミュニケーション機能であることが実感できる。

このほかにも災害や戦争を体験した人などに楽しみや安らぎを与え、心をケアするセラピー用ロボット「パロ」、人に寄り添いながら成長していくエンタテインメントロボット「アイボ」、愛情を形成するための技術が凝縮された「ラボット」、3体のロボットが、なに気なく発した人の言葉に反応して共感を示しながら話を引き出してくれる「トーキング・ボーンズ」、人の会話の熱量を計測し、より熱心に話しかけると瞳孔が大きくなり会話を促進させる瞳型ロボット「ピューピロイド」など、展示ではコミュニケーションツールとしてのロボットと実際に触れ合うことができる。

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やわらかいものから硬いものまで自在につかむことができる「耐火性ソフトグリッパ機構」。災害時などの過酷な環境に活躍してくれそうだ。

 

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ウマの後肢1本に備わる5つの関節と6本の筋肉、腱の構造を再現した「ウマ後肢型ロボット」。生物の秘密をロボットで解明する。

一方、人に代わって働いたり、生物の秘密を解明したりとさまざまな働きをする最新ロボットにも注目だ。災害時などの過酷な環境において、やわらかいものから硬いものまで多様な物体をつかむことができる「耐火性ソフトグリッパ機構」、鏡に映った自分の動きから跳び方を学習することで、リズミカルでスムーズな片足跳びができる「けんけんロボット」、ウマの歩行メカニズム解明のためにつくられた「ウマ後肢型ロボット」など、ロボットに接することで人間や生物の可能性を客観的に見つめる機会にもなりそうだ。

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ロボットとの暮らしを見据えた、未来の街を探検

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専用タブレットを使ってロボットとの付き合い方や考え方に触れる「ナナイロクエスト」の体験型展示。

「ハロー! ロボット」の隣に設置された「ナナイロクエストーーロボットと生きる未来のものがたり」は、体験型の展示だ。人とロボットがともに暮らす未来の街「ナナイロシティ」に入り込み、専用タブレットを使ってトラブルを解決する。タブレットに現れるナビゲーターの導きに従ってミッションに挑戦していく中で、人とロボットとのさまざまな付き合い方に触れていくという構成。最後はナナイロシティのロボット町長、オサボットにミッションを報告して無事終了となる。

地球環境を“自分ごと”として体験

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大型シアターでは、実際にフィジーにいるかのような臨場感あふれる映像で地球環境を探る旅へと誘う。

 

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展示用の什器やテーブルには国産の木材や端材を使用するなど、環境に配慮したさまざまな工夫がなされている。

5階の「プラネタリー・クライシス ーこれからもこの地球でくらすために」では、地球環境を考えるための工夫を凝らした展示が展開される。ゾーン1では、気候変動の危機にさらされているフィジー共和国の暮らしを没入感のある大型映像シアターで再現。現地で撮影したリアルな映像に加え、振動や熱、風などをダイナミックに体感することで、“自分ごと”として捉えてもらう狙いだ。続くゾーン2では氷期まで遡った気温上昇のグラフや、世界10カ国の二酸化炭素排出量の違いがひと目で分かるようになっている。そしてゾーン3、4では私たちの日常の食卓が地球環境といかに関わっているか、解決に取り組む活動や具体的な実践例へと続く。

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テクノロジーが高齢社会を救う!?

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見守り介護ロボットや、老いを体験する展示などさまざまなアプローチで、“自分ごと”として老後の生活を考える場を提供。

前述のロボットの展示を目にして感じるのは、人間がもつさまざまな身体機能に加え、心や感情といった人間を人間たらしめている独自の働きがいかに高度で複雑であるかという点だ。そしてすべての人間にいずれ訪れるのが「老い」であり、誰もが自身の老化に直面することになる。3階奥の常設展示「老いパーク」では、身体に起こる変化やそれらを助ける技術など、科学技術の観点から老いをフォーカスした展示となっている。

具体的には多くの人が自覚しやすい目、耳、運動器、脳の老化現象を6つの体験型展示で擬似体験できる。現在わかっている老化のメカニズムや対処法、研究開発中のサポート技術など、老いとの付き合い方や対処法を紹介するとともに、「自分らしい老い」を考えるきっかけとなるようなインタビュー映像も紹介されている。

いまや科学は夢の世界の絵空事ではなく、私たちの生活を豊かにし、問題解決を手助けするのに欠かせないものとなっている。さまざまな局面で科学の力を上手に借りながら、未来の社会をより良くするヒントを見つけたい。

日本科学未来館

東京都江東区青海2-3-6
TEL:03-3570-9151(代表)
www.miraikan.jst.go.jp