【小山薫堂の湯道百選】第八七回“湯は、人を生かす。”

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂

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〈熊本県阿蘇郡〉
地獄温泉 青風荘.

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阿蘇くまもと空港から、クルマで約40分の場所。

南阿蘇の秘湯「地獄温泉」は、かつて熊本藩の武士と僧侶のみが入浴できる特別な場所だった。明治期に一般開放されたことで、庶民の湯治場として栄える。しかし湯治文化の衰退により宿の数は減り、とうとう一軒だけに……。それが「青風荘.」である。かつては「清風荘」という屋号だったが、2016年に熊本地震と直後の豪雨により半壊。4年の歳月をかけて全面再開した際、水の被害が二度と起こらないことを祈念して清のさんずいを取り最後にピリオドをつけて「青風荘.」と改名した。

日帰り入浴も受け入れる露天風呂は、湯の湧く音がちゅんちゅんという鳴き声に似ていることから「すずめの湯」と呼ばれている。加温・加水をすることなく源泉のまま足元湧出している強酸性硫黄泉。しかも熱湯とぬる湯、それぞれの浴槽は、違う源泉からそれぞれ適温の湯が湧いているのだから、まさに奇跡というしかない。

温泉は、地球からの授かりものである。その恩恵と引き換えに、火山大国に暮らす我々は震災から逃れることはできない。必要なのは感謝と覚悟。復興した白濁の湯に浸かりながらそんなことを考えた。ここは人を生かす場所。湯治文化を次世代に繋いでいくためには、新しい挑戦が必要だ。デザイン、料理、そして着衣混浴というスタイル……。宿に200 年以上も伝わる巻物には、こんな入浴の掟が記されていた。

「湯は皆のもの」「自然からの贈り物」「自分のこと考える」「人のこと考える」「全てを見つめ直すいい機会」。

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三兄弟で経営しており、写真は次男で副社長の河津謙二さん。長男の誠さんはフレンチの料理人兼、湯守。三男の進さんは和食の料理人で料理長。三兄弟が力をあわせて守っている。

 

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建物の再建・改修によって湯治文化の発信地に生まれ変わった。

地獄温泉 青風荘.

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽2327 
TEL:0967-67-0005 
料金:一般¥2,000(日帰り湯)、¥24,200~(1名1泊朝食込み)
定休日:火曜日
http://jigoku-onsen.co.jp

※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。