ポッドキャスト部門の最終課題は"ゲスト回"、「NEXT by Pen クリエイター・アワード」のワークショップの模様をレポート

  • 文:岡野孝次
  • 写真:齋藤誠一
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「NEXT by Pen クリエイター・アワード」ポッドキャスト部門のメンターを務める音声プロデューサーの野村高文さんと5組の参加者。東京・渋谷Amazon Music Studio Tokyoのポッドキャストスタジオにて。

※記事末尾で最優秀賞者の発表があります。

その年に活躍したクリエイターをたたえようと、2017年に始まった「Pen クリエイター・アワード」。今年から新たにクリエイターを志す人を対象とした作品公募制のワークショップ「NEXT by Pen クリエイター・アワード」(以下、NEXT)が始動、その〝ポッドキャスト部門〟が音声プロデューサーで編集者である野村高文さんをメンターとして行われた。

10月7日(土)には多数の応募者から選ばれた5組が参加して、第1回のワークショップを開催。参加者によるディスカッションや野村さんによる講評を通じて、おのおのが新作ポッドキャストづくりへのフィードバックを得た。

第2回のワークショップは10月28日(土)、東京・渋谷にある「Amazon Music Studio Tokyo」で実施。音楽やポッドキャストの配信プラットフォーム、Amazon Musicが運営する、クリエイターのためのスタジオだ。音楽制作やイベント配信、ポッドキャスト収録など、さまざまな目的で使用できる設備が備えられている。

ワークショップではそれぞれの新作に対しての参加者の意見交換と、野村さんの総評が行われた。そしてこの日のメインイベントが、「Amazon Music Studio Tokyo」が誇るポッドキャスト用スタジオでの番組収録。参加したのは、以下の5組精鋭(番組名/個人名)たちである。このうち「日々、駐妻。」のかやこさんはアメリカ・テキサス州在住につき、リモートでのワークショップへの参加となった。

終末サンデーナイトの秘密基地」/上野窓さん
シンの木工家ラジオ」/花太郎さんとこーぐちさん
「楽しく広告人学を学ぶ【アドバタラヂオ】」/トミナガマコトさんとスナケンさん
「日々、駐妻。」/かやこさん
「道草を食む 〜雑草を暮らしに活かすRadio〜」/Michikusaさん
※各番組のリンク先は第1回ワークショップ後に提出されたブラッシュアップ版

スタジオで野村高文さんを迎えた"ゲスト回"を収録

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5組の参加者が収録する番組には、野村さんがゲストとして登場。

収録に先立って、野村さんから留意すべき点が参加者たちに告げられる。まずは、マイクと顔の距離について。「拳ひとつ分の間隔を開けるようにしましょう。また緊張で呼吸の回数が多くなる場合などは、マイクに対して斜めから話せば、吐く息もあまり拾われません」。他にもなるべくゆっくり話すこと、また話者が男性の場合は声音を低めにした方が聞き手に安心感や説得力をもたらすことなどがレクチャーされる。

「いいポッドキャストの制作のためには、いい空間を構成することがまず大切。そのためにはここ『Amazon Music Studio Tokyo』は最高の環境です。あとは出演者の個性をうまく音声にのせること。言い間違えや会話のテンポ、音量のバランスなどは後で編集作業にて直せますから、まずはみなさん、この環境をめいっぱい楽しんで収録に臨んでください」

ちなみに今回の参加者5組はワークショップへの参加が決まって以来、ライブやスタジオ用マイクロホン業界のリーディングカンパニー・SHUREのポッドキャスト用マイクロホン「MV7」を貸与されて番組づくりに励んできた。その努力の成果が今日、試されるのだ。

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まずはゲストの野村さんのキャリアについて、いろんな視点で質問をする「楽しく広告人学を学ぶ【アドバタラヂオ】」のふたり。

スタジオ収録の順番は、くじ引きで決定された。1番と書かれた紙を引いて、「マジかよ〜」と苦笑する「楽しく広告人学を学ぶ【アドバタラヂオ】」のトミナガマコトさんとスナケンさん。まとめてきた台本を片手に、スタジオに入っていく。

1組に与えられた時間は15分。ちなみに収録にはひとつだけ決まりがあって、どの番組にもメンターの野村さんがゲストとして登場する。

広告業界で働くふたりが掲げたテーマは、「1億総クリエイター時代から、1億総広告人時代へ 〜自分を広告することを語ろう〜」。番組内で野村さんの経歴をひも解き、彼にキャッチコピーを付けようという試みだ。

「YouTubeの分かりやすさに比べて、ポッドキャストはまだ〝入りにくいセレクトショップ〟〝こだわりの強いレコード店〟みたいなイメージが強いんですよね」。

ポッドキャストのつくり手、聞き手を増やすための啓蒙活動をしながら、自らの番組も手がける野村さん。そんな彼にニックネームを付けるなら、「ポッドキャストの第一人者」「ポッドキャストおじさん」、それとも「新しいコンテンツづくりの旗手」? トークを繰り広げているうちに、あっという間に持ち時間の15分は過ぎてしまう。

(他の参加者に向かって)「みんな、まったく時間が足りないよ(笑)。ペース配分、気をつけて」。自分たちのポッドキャストでの野村さんとの再演を誓いつつ、トミナガマコトさんとスナケンさんは収録ブースを後にする。

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『シンの木工家ラジオ』の花太郎さん(左)とこーぐちさん(右)。第1回ワークショップに続き、長野より参加

次にスタジオに入ったのが、「シンの木工家ラジオ」を主宰する木工家の花太郎さんとアルバイトのこーぐちさん。ポッドキャストでは仕事の話から、休憩中の雑談まで幅広くトークを繰り広げるふたりは、「野村さんが自宅を購入した際にDIYに挑戦した」との話を聞き、その過程を細かく聞いていった。

壁紙を剥がして貼り替えたり、畳を撤去して新たにフローリングにしたり。これらの作業を夫婦でおこなったという野村さん。結果、満足のいくリノベーションになったというが、そのあまりの大変さに「やっぱり家づくりは、プロに任せた方がいい」との結論に達したという。

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12月の寒風が吹き荒ぶなかでのDIY作業となったそうだが……。楽しそうに当時を振り返る野村さん。

今回はどちらかというと話し手よりも聞き役に徹した、花太郎さんとこーぐちさん。

「『Pinterest』で好みの壁紙や床材を見つけたら、妻と何度も意見のすり合わせをして、どれを使うかを決めていくんです」。この発言に「お客さんにいくつもサンプルを提示して方向性を決めていく、僕たちプロみたいな仕事ぶりですね」と花太郎さんは褒める。

巧みな合いの手が入ることで、トークのボルテージが上がる野村さん。ゲストのDIY経験をきっちりと聞き取って話もまとまったところで、所定の15分となった。

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海外からのリモートや「食レポ」まで、収録は五組五様

続いて野村さんをゲストに迎えたのが、「終末サンデーナイトの秘密基地」の上野窓さん。

「とある日曜日の夜、あなたの元に一通の手紙が届きます。『あと1週間でこの星は爆発する』――。このことはあなたにしか知らされていない。そして決して他の人に話してはいけない」

このテーマに則って、残り1週間の過ごし方をリスナーに問うのが、「終末サンデーナイトの秘密基地」。ゆえに上野さんがゲストに率直に問う――。「野村さんなら、どう1週間を過ごしますか?」

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「終末サンデーナイトの秘密基地」の上野窓さんは、最近ポッドキャストデビューしたばかり。まだ収録したポッドキャストが2番組だけということもあって、野村さんからのコメント全てが新鮮な上野さん。

「1年間なら海外に行きたいとか、いまやっていない仕事にチャレンジするとか、長いスパンで考えられますが、1週間という時間が絶妙ですよね。僕はなるべく、普段と変わらない生活を送ると思います。いままでは仕事が8割だったけど、ポッドキャスト制作は午前中だけにして、午後は家族と過ごす。僕は自然が好きだから、子どもに綺麗な景色をたくさん見せてあげたい。あとは好きなラーメンと寿司を食べ尽くすことですかね(笑)」

1週間という秀逸な時間設定が、自ずと聞き手の地の部分を引き出してしまうと感心する野村さん。その期待に応えられるように、今後もリスナーの素の部分に迫っていきたいと笑顔で話す上野さんだった。

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第1回ワークショップはリモートでの参加だったが、今回は岡山から「Amazon Music Studio Tokyo」へ足を運んだMichikusaさん。

次に香ばしい香りとともにスタジオに登場したのが、「道草を食む 〜雑草を暮らしに活かすRadio〜」のMichikusaさん。グッドフレーバーの主はススキの葉と茎と穂をフライパンで焙煎して自家製したという、ススキ茶だ。

Michikusaさんはポッドキャストの他、書籍『道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室』(CCCメディアハウス)を刊行するなど、さまざまなツールを用いておいしくて健康的な雑草食の提案をしている。今回はゲストの野村さんをおもてなしして知らない世界を体験してほしいとの思いから、秋〜冬が旬のお手製の雑草料理を携えて収録へ臨んだのだ。

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奥がススキ茶。右の皿の料理は奥から「ドライトマトとカキドオシのカナッペ」「鶏ハムとスイバの梅肉風」。左の皿の雑草は、奥からカキドオシとスイバ。
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マイクの前で初めての食レポも難なくこなしてしまう野村さん。

「長年、ポッドキャストを制作していますが、マイクの前で食レポするのは初めてです」と野村さん。初めての雑草料理にも恐れることはなく、パクパク、モグモグといってしまう。

「あっ、おいしい。とくにこの鶏ハムにのせたスイバは爽やかな酸味があって、まるで梅肉のような風味ですね」。

一度食べてみると、そのおいしさに気づく。ゲストを通してその体験を音声にのせるという試みは、リスナーの先入観を打ち砕くうえでとても有効であると話す野村さん。 Michikusaさんにとって、大きな実りのある収録となったようだ。

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アメリカ・テキサス州のヒューストン在住のかやこさんとはzoomを介しての収録。

最後に日本と15時間の時差があるアメリカ・テキサス州よりZoomをつないで「日々、駐妻。」のかやこさんがスタジオ入り。駐在員の夫に帯同してアメリカで暮らすなかで遭遇する言語の壁、文化の違い、子育てなどについてポッドキャストで発信する彼女は、まず野村さんが今年行なった〝80日間 世界五ヵ国の旅〟について質問する。

「仕事の都合で、妻と生後6ヶ月の子どもと一緒にタイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ドバイに渡航したんです。海外の方は子連れ旅にも寛容で、親切にしていただくことも多かったです」 と野村さん。

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多民族国家アメリカでの生活と、野村さんの旅とのあいだに共通点を見出しながら、ふたりの会話が進んでいく。

話題はそこから、多言語社会のをめぐるものに。マレーシアの小学生にマレー語、英語、中国語のトリリンガルが多いことに衝撃を覚えたという野村さん。かやこさんいわく、テキサスにはヒスパニック系住民も多いため、たとえばスーパーマーケットの商品名も英語とスペイン語の併記が当たり前なのだそうだ。そこから日本の現状を鑑みて、日本の人たちまるでスマホを使うように多言語を操れるようになれば、日本の未来も明るいという共通認識を得て、かやこさんとの収録を終えた。

最新の設備を揃えた東京・渋谷「Amazon Music Studio Tokyo」での収録は〝五組五様〟で、それぞれ非常に充実した内容となった。つくり手のキャラクターやヴィジョンがユニークで、情熱や努力を惜しまなければ、最新鋭の機器がそれより面白いものにしてくれる。第2回のワークショップは、ポッドキャスト制作の醍醐味を体感できる回となった。

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ポッドキャスト部門の最優秀賞に輝いたのは?

第1回ワークショップ後に提出した「ブラッシュアップ版」と「今回の野村さんゲスト回」の2つを最終作品とし、野村さんと編集部の協議によって「最優秀賞」が選定された。

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見事と最優秀賞となった、『シンの木工家ラジオ』の花太郎さん(左)とこーぐちさん(右)。

最終賞に見事輝いたのは「シンの木工家ラジオ」。メンター・野村さんの講評を以下に記載する。

最優秀賞の講評

「本作は「木工家」という専門的な職業に従事する2名が、マニアックな「業界あるある」を語るのが持ち味です。そうした構成の場合、えてしてマニアックすぎてリスナーを置いてけぼりにするか、易しくしすぎて深みがなくなることが多々あります。一方で本作は、プロとしての専門性はしっかりと示しつつも、一般リスナーの興味にも沿うトークをうまく実現させていました。またワークショップ中に行ったゲストトークでも、専門性を垣間見せつつも、ゲストの話をうまく引き出しながら、時間内でまとめ切る構成が優れていました。他の作品もとてもクオリティが高かったのですが、紙一重の差で本作を最優秀賞に選定しました」

総評

「多数の応募をいただき、誠にありがとうございました。応募段階からかなりのクオリティの作品が多く、Podcastの層が確実に厚くなっていることを実感しました。Podcastの良さは、話者にとっては当たり前、リスナーにとっては新鮮味のある情報を、楽しく伝えられる点にあります。その意味で、新しい世界の扉を開いてくれた5作品を選定しました。ワークショップ当日は、トークの構成や編集のポイントをレクチャーするとともに、参加者間でのフィードバックや、ゲストトークの実習を行いました。特に参加者間のフィードバックでは、配信者同士の視点が交換できて、多くの示唆が得られたのではないかと思います」

野村さんにして「紙一重の差」と言わしめるほど、レベルの高いが揃った今回のワークショップ。ぜひ各番組の今後の更新を楽しみにしてほしい。