ドリフトもお手のもの! こんなEVいままでになかったと感心した、 ヒョンデ「IONIQ 5 N」

  • 文:小川フミオ
  • 写真:ヒョンデ・モビリティ・ジャパン

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BEV(バッテリー駆動のピュアEV)って、おもしろい。そう思わせてくれるモデルが、このところ、いくつも登場している。

ヒョンデが2023年7月に発表(本国では9月から発売)した「IONIQ 5 N(アイオニック・ファイブ・エヌ)」は、ある意味、最右翼。

BEVの持つドライバビリティを極限まで推し進めたようなスポーツモデルだ。

 

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車体下部のブラックとオレンジの挿し色が「N」のイメージカラー。

 

ベースは、日本でも22年2月に発売された、ちょっと背の高い4ドアハッチバックの「IONIQ5」。

シャシーを補強して、出力の高いモーターを載せて、車体に空力付加物をつけて、そしてさまざまな電子デバイスを付加したのが、今回のIONIQ 5 N(以下5N)なのだ。

大きな目的は、サーキットで楽しめること、とヒョンデ。それだけの内容のある仕上がりだ。

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深いフロントエアダムと21インチホイールと組み合わせた大径タイヤで凄みがある。

 

私は、欧米や中国(もちろん日本も)の発売にさきがけて、23年11月に、試乗するチャンスがあった。舞台は、チョルラナムト(全羅南道)のヨンアムにある韓国インターナショナルサーキット。

ひとことでいって、ものすごい、とつけたくなるほど、ドライブが楽しいBEVだった。ヒョンデ、やりよる。

 

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ステアリングスポーツ右上のブーストボタンは一時的に出力をマックスに上げ、下の「N」ボタンでは設定していた機能を呼び出せる

 

そもそも、車名にある「N」は、ヒョンデが、ラインナップ中最もスポーティなモデルにつける名称。もちろん名前だけでなく、BMWのMやアウディのRSのように、チューニングがばっちり施されている。

Nとは、ヒョンデがR&Dセンターを置く韓国のナムヤンと、テクニカルセンターがあるニュルブルクリングの頭文字。ともにNで始まる。

「Born In Namyang, Honed At Nurburgring」(ナムヤンで生まれて、ニュルブルクリングで育った)が、Nブランドのホームページで掲げられたNのスローガンだ。

「Nのマークもニュルブルクリングのシケインをアイコン化したもの」と、ヒョンデでヘッド・オブ・Nブランド&モータースポーツの肩書きをもつティル・ワルテンバーグ氏は、私にそう説明してくれた。

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ヘッド・オブ・Nブランド&モータースポーツの肩書きをもつティル・ワルテンバーグ氏はメルセデスAMGから移籍。

 

じっさい、「N」モデルの説得力は、WRC(FIA世界ラリー選手権)やTCR(FIAツーリングカーカップ)におけるヒョンデの活躍ぶりからきている。2019年と20年はWRCで総合優勝。TCRでは、18年、19年、22年で優勝している。

BMWにMスポーツがあるように、ヒョンデもちょいスポーティに仕上げた「Nライン」を持つ。しかし、IONIQ 5 Nの「N」はピュアなN。

「私たちは電動車の高性能化における新しい基準を打ち立てたい、と考えて開発に着手しました」

開発に携わったエグゼクティブテクノロジカルアドバイザーのアルベルト・ビアマン氏は、私が参加した試乗会で、開発の意義について、そう説明してくれた。

 

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端正な造型だが、パフォーマンスの高さは抜きんでている。

 

内容はすごい。

「Nバッテリー・プリコンディショニング」「Nレース」「Nペダル」「Nブレーキ・リジェン(エネルギー再生)」「Nドリフト・オプティマイザー」「Nトルクディストリビューション」「Nローンチコントロール」「Nグリンブースト」「Nアクティブサウンド+N eシフト」「Nロードセンス&トラックSOC」

なかには、聞き慣れないものはある。たとえば、「N eシフト」。IONIQ 5 Nは有段変速機をもたないが、ガソリンエンジンのNモデルのツインクラッチ変速機の変速フィールを模したもの。

「Nロードセンス&トラックSOC」は、2つの機能からなる。ロードセンスは、ナビとドライブモードを連動させている。片側2車線のワインディングロードに入ると、スポーティな「N」というドライブモードが作動する。

トラックSOC(State-Of-Change)はサーキット走行用。周回ごとにバッテリー消費を計算しつつ、冷却などを含めて常にバッテリーが高性能を発揮できるような状態を保つ機能だ。

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テストドライバーが「ドリフトオプティマイザー」の説明をしてくれているところ(右のモニター画面でさまざまな”走り”のためのモード設定がわかる)。(写真:筆者)

 

よくぞここまで、と言いたいぐらい、機能満載で、これが新しい時代のBEV、と感心するばかりだ。

実際のドライビングでも、IONIQ 5 Nは、速い。ただしスピードだけでない。驚くのは、キャラクターだ。こんなBEV、乗ったことない。そう思ったのは、私だけではないだろう。ガソリン車の操縦感覚をじつにうまく採り入れたBEVなのだ。

とりわけ、コーナリング性能は、開発陣が力を入れたところで、大小のカーブが組み合わされたサーキットを、くいくいと走り抜けていく。

 

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ガソリンエンジン車のようなドライブフィールを擬似的に再現しているのもなかなか楽しい。

 

小さなコーナーはブレーキペダル操作なしでも、アクセルペダルの加減で減速までして走り抜けられる。

その気になれば、「慣れていないひとでもドリフト走行を楽しめる」(前出のビアマン氏)という「ドリフト・オプティマイザー」のおかげで、リアがすーっと外に膨らんでいく走りも味わえるのだ。

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人工スエードを使ったシート表皮とステアリングホイールのリムなどかなりレーシー。(写真:筆者)

もちろん、サーキットだけでなく、日常使いで楽しめるスポーツモデルも、IONIQ 5 Nの重要な開発目標だったため、おそらく、そのとおりだろう。今回は公道に出なかったので、あくまで期待値。

価格は本国では税込み7600万ウォン(約880万円)。この価格設定も大きな武器、と前出のアルバート・ビアマン氏。たしかに、と私。日本にお目見えするのは、24年上半期とのことだ。

Hyundai Ioniq 5 N
全長×全幅×全高 4715×1940×1585mm
ホイールベース 3000mm
車重 2310kg
電気モーター2基   全輪駆動
最高出力 478kW
最大トルク 740Nm
駆動用バッテリー リチウムイオン 84kWh
一充電走行距離 450km(WLTP)
0-100kph加速 3.4秒