映画『シャイニング』に隠された秘密が明らかに「観客が気づかないほどの一瞬…」

  • 文:青葉やまと
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Midday Reviews-YouTube

1980年のホラー映画『シャイニング』に隠された秘密が、43年越しに話題を呼んでいる。ジャック・ニコルソン演じる主人公のジャック・トランスが映画中、奇妙な行動を繰り返しているという。

問題の行動は、ニコルソンの目の演技だ。ストーリー上は本来そこに「ない」はずのカメラのレンズを、ニコルソンはあえて凝視している。見開いた目で明らかに観客を見つめるが、その時間は1秒の数分の1と非常に短い。

ソファに座っての会話中や、立ちながらの談笑中。また、追い詰められ憎しみの表情を浮かべながら、ひいては階段を駆け上がり格闘シーンを演じるさなかでさえ、カメラへの不気味な視線が止まらない。

不気味なイメージを増幅

見つめる時間はあまりに短時間だ。とりわけ意識していない観客の多くは、おそらくは違和感すら抱くことがない。それでいて無意識下に、不気味な印象を残す。名作『シャイニング』の根底に流れる、淀んだ不気味なイメージを増幅しているかのようだ。

英インディペンデント紙は今年10月、「これまで誰も気づくことがなかった、ジャック・ニコルソンの新たなディテールが明らかに」と題して本件を取り上げている。

記事によるとカメラを一瞬凝視する演技は、『シャイニング』の撮影でメガホンを取ったスタンリー・キューブリック監督が意図して実施させたようだ。

同紙は、撮影の舞台裏を明かした番組『Making 'The Shining'』において、ドアを斧で破壊する有名なシーンの撮影の舞台裏が収められていると指摘。破壊の直前のシーンで、キューブリック監督がニコルソンに対し、カメラを一瞬見るよう演技指導を施している様子を確認できる。

発見者のポストは600万回表示の話題に

本件はもともと、エッセイストのフィリッポ・ウリヴィエリ氏が発見し、今年5月にX(当時のTwitter)で明かした。投稿は600万回以上表示され、2.2万件の「いいね」を集めている。

ウリヴィエリ氏は、50個のポスト(ツイート)からなる長文を投稿。「スタンリー・キューブリックの『シャイニング』で、奇妙なことが起きていることに気づいた。確かに『シャイニング』には奇妙なことがたくさんあるが、これは本当に奇妙だ」と切り出し、多くのシーンの実例を動画で挙げている。

氏が取り上げた各カットでは、ニコルソン演じるジャックがカメラを見やる。短くて数コマ、長くても2秒に満たない程度だ。誰もいないはずの廊下を歩いている最中にカメラを直視したり、大勢での談笑中、誰もいないはずの方向にあるカメラを突然凝視したりと、不自然な行動が続く。

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隠されたメッセージ「観客さえ安全でない」

視線の意味についてウリヴィエリ氏は、「このカメラ目線が何かを意味するとすれば、怒れるジャックの前には<私たちさえも>安全でないということだ」と推測。

続けて、「彼は私たちの居場所を知っている。次は私たちを迎えに来るかもしれない」と述べ、ホラー感を高める意図での演出ではないかと分析している。いわば観客に対し、「次はお前かもしれない」と暗黙のメッセージを送っているということだろう。

ウリヴィエリ氏は2016年のドキュメンタリー映画『キューブリックに愛された男』で脚本を共同執筆し、『シャイニング』でキューブリック監督の人物像に迫っている。キューブリック作品を観続けたゆえに獲得できた、さすがの慧眼だ。

いままでにない第四の壁の壊し方

映画の登場人物がカメラや観客の存在を意識する手法は、『シャイニング』固有というわけではない。自身が物語世界の住人であることを理解したセリフは「メタ発言」などと呼ばれ、新旧の作品にみられる。

あるいは、セットに囲まれた3方向に続くスクリーンという4番目の境界を取り払うことから、「第四の壁を壊す」とも表現される。古くは1977年のロムコム映画『アニー・ホール』や、比較的新しい例では『デッドプール』シリーズが有名だろう。

こうした作品がメタ的な遊び心のひとつとして第四の壁を壊しているのに対し、『シャイニング』は観客の無意識の恐怖を呼び起こす手法として採用している。43年前の作品でありながら、現代の感覚からしても新鮮な印象を帯びる第四の壁の使い方だ。

監督の飽くなき才能を物語る

ウリヴィエリ氏による発見を受け、映像作品を取り上げる米サイト「コライダー」も、『シャイニング』のミステリアスな視線に言及。

キューブリック監督の意図は謎に包まれたままであるとしつつ、「初公開から40年以上経った今でも観客が新たなディテールを発見し続けているという事実は、『シャイニング』の素晴らしい心理的なパワー、そしてスタンリー・キューブリックの飽くなき才能を物語っている」と結んでいる。

上質なホラーを追求するキューブリック監督のこだわりが数十年越しに発見たことで、作品の奥深さが時を越えて話題となったようだ。

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隠し切れない狂気がにじみ出るジャック。視線のシーンをまとめて観ると、言語化できない緊迫感をにわかに帯びる。

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ウリヴィエリ氏のポスト。「確かに『シャイニング』には奇妙なことがたくさんあるが、これは本当に奇妙だ」。

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「怒れるジャックの前には<私たちさえも>安全ではない」。

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「ジャック・トランスはカメラを見るが、(その方向には)見るべき人物など誰もいない」

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ドア破壊のシーンより。「実際のところ、意図的であることが判明している」「キューブリックはニコルソンに、カメラに向かって下を向けないか訊ねている」。

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ウリヴィエリ氏は10分少々の動画版も公開。「ほとんどのケースでは、あまりに素早いため、(観客が)気づくことがない」。