【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『スヌーピーがいたアメリカ 「ピーナッツ」で読みとく現代史』
幼い頃から『ピーナッツ』のファンだった。もちろん当時は、スヌーピーを中心とするファミリーのかわいさと個性に魅了されていたにすぎない。だが日本の漫画に比べ、コミック・ストリップと呼ばれるそのアートフォームはどこかお洒落っぽくもあった。だから、そんな“特別感”に惹かれたのだ。しかし、「かわいい」だけでは表現し切れない“なにか”が『ピーナッツ』にはあることを知ることにもなった。たとえば、スヌーピーの独白が妙に哲学的でわかりにくいなど……。
作者のチャールズ・M・シュルツは、刺激的な言動や主張に決して偏らない。それどころか、女友達のルーシーから「あなたはこれからもずっと優柔不断なんだから」と指摘される主人公のチャーリー・ブラウンがそうであるように、どっちつかずで歯切れが悪く、まさしく優柔不断。だが、著者が言うように、それこそがシュルツのイデオロギーなのである。
そうした観点に基づき、『ピーナッツ』という“世界観”と、その土壌であるアメリカとの関係性を検証してみせたのが本書だ。まずはシュルツのバックグラウンドが明らかにされ、次いで『ピーナッツ』の起源であると著者が指摘する「冷戦」に焦点が当たる。そこからクリスチャンとしてのシュルツの宗教性、人種問題との距離感、ベトナム戦争についての思い、環境問題、フェミニズム、セクシャリティ、ジェンダー・アイデンティティなどについて詳細に論じられていく。それらについての解釈は非常に明晰で、大きな説得力がある。そのため、読み進めるほどに『ピーナッツ』の世界観の本質を理解できるようになるだろう。そしてさらには、それこそが子どもにとって難しかった“哲学的ななにか”の本質であったのだということを実感することにもなるのである。
※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。