ボーイング子会社の米ウィスク・エアロ社が、「空飛ぶタクシー(EV飛行タクシー)」の公開デモ飛行に、ロサンゼルス地域として初めて成功した。ロサンゼルスはEV飛行タクシーのベンチャーが集積し、業界でも注目のエリアとなっている。
飛行の様子は同社の動画を通じ、世界に公開されている。動画では、ビーチまで車で10分足らずのロングビーチ空港が夕暮れの光に染まる中、イエローの機体に軽快な「wisk」のロゴが踊る同社の自律飛行eVTOL(電動垂直離着陸)機がデモ飛行に臨んだ。
離陸時にはローターがいっせいに回転し、機体がふわりと浮き上がり素早く上昇する。デモ飛行では、数メートルの上昇後にすぐに水平飛行に移り、空港敷地内を低空で安定して飛行する様子を披露した。
現段階では着陸時に、若干の衝撃があるようだ。滑走路から数十センチ上方でローターを停止し、ストンと落下する形になっている。デモ飛行は、ロングビーチ空港の創設100周年を祝うイベントの一環として実施された。
ロス市長が歓迎「フライトの未来が現実に」
同機はウィスク社の第5世代機(愛称:コーラ、Cora)で、目下開発中の第6世代機を除く最新機となる。後方に備える1基の大型ローターで推力を得るほか、主翼上に並ぶ12基の小型ローターで垂直離着陸と機敏な上昇を可能にしている。
VTOL関連のニュースを報じるエレクトリック・VTOL・ニュースによると、同機はパイロットなしの自律飛行を行い、最大乗客は2名。巡航速度は約180km/hで、航続距離は100km、飛行時間は19分(ほか予備電力10分相当)となっている。
EVニュースサイトのエレクトレックによると、ロングビーチ市長のレックス・リチャードソン氏はデモ飛行の成功を受け、「フライトの未来がロングビーチで現実になりつつあることを誇りに思います」と述べた。「ウィスク社とボーイング社とのパートナーシップは、良好な雇用を創出し、ロングビーチに安全で静か、そして環境に配慮された交通手段をもたらすでしょう」とも話し、地元への良い影響に期待を示している。
ウィスク社のブライアン・ユトコCEOは、「自律飛行はすでに可能となっており、まさに今、ロサンゼルスで起きています」と誇らしげに語る。また、「ロサンゼルスは私たちの業界の多くにとって立ち上げに適した都市です。私たちはロサンゼルスで初めて自律型航空機の飛行に成功したエアタクシー会社となれたことを非常に誇りに思います」と述べ、競争の激しいロサンゼルスで先陣を切った成果を強調した。
---fadeinPager---
競合ひしめくロサンゼルス上空
ロサンゼルスは2028年のオリンピック開催を控えている。米連邦航空局(FAA)は、全米エリアを対象とした広域の先進航空移動(AAM)の実現を目指しており、ロサンゼルスにもオリンピック開催までにその一翼を担うことが期待されている。
こうした背景もあり、ロサンゼルス地域には、ジョビー・アビエーション、アーチャー、独ベロコプターなど、EVエアタクシー市場をねらう各社がひしめく。
一方でウィスク社は、研究開発から飛行テストや認証に至るまで、専門知識を持つボーイングから全面的なサポートを受けられる優位性がある。また、米航空雑誌のフライング誌は、競合他社が有人飛行によるエアタクシーから着手しているのに対し、ウィスク社はもっぱら無人飛行機を開発している点で野心的だと評価している。
4人乗りの次世代機を開発中
ウィスク社は2010年、ジー・エアロ社の名で創業した。その後、超軽量EV航空機を製造していたキティーホーク社と合併。さらに第5世代のEV飛行タクシーの開発するにあたり、ボーイング社の出資を受け、ウィスク社としてスピンアウトした。現在ではボーイングの完全子会社となっている。
同社は既に、第6世代の航空機の開発を進めている。こちらは第5世代と同じくフルEV仕様で自律飛行を行うが、乗客数を2人から4人に拡大する。座席のほかにラゲッジスペースを備え、航続距離は40km拡大の約140km、充電時間はわずか15分とのスペックが発表されている。
eVTOL(電気垂直離着陸航空機)とエアタクシーの市場は急速に成長しており、各社は機体の開発とビジネスモデルの開拓でしのぎを削っている。ロサンゼルス地域ではウィスク社が先陣を切ったが、後を追う競合他社は多い。
無人飛行の安全性が確認され、さらには現実的な料金設定を実現できれば、都市部の新たな移動手段として重宝されそうだ。
---fadeinPager---