ハットメーカー「キジマ タカユキ」が10周年のコラボアイテムをリリース。デザイナー本人が語るこれまでとこれから。

  • 写真・文:石川博也

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“Thanks and then.”で制作したコラボアイテムの一部。

感度の高い人たちから絶大なる支持を集めている帽子ブランドが「キジマ タカユキ」だ。これまでに「アンダーカバー」や「タカヒロミヤシタザソロイスト.」など数々の人気ブランドとコラボを行ってきたことからも、その実力が伺えるだろう。

今年はブランド設立から10周年。それを記念して現在“Thanks and then.”と題した10のブランドやコンテンツとのコラボレーションアイテムを10ヶ月連続で展開中。新たなアイテムが発売されるたびに話題を集めている。

なぜ数ある帽子ブランドの中で「キジマ タカユキ」は特別な存在になれたのか? そして、唯一無二のブランドであり続けられるのか? デザイナーの木島隆幸さんにこれまでの歩みを伺った。

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「キジマ タカユキ」デザイナーの木島隆幸さん。

帽子デザイナーとして約30年のキャリアをもつ木島さん。洋服を好きになったのは中学生の頃だった。高校卒業後は仕事としてファッションに携わりたいと思っていたが、その道に進む決断がなかなかできずにいた。

「日々変装する感覚でモッズやヒップホップなどさまざまなコーディネートを楽しんでいたので、したい格好がありすぎたんですね。例えば、モッズの服をつくったり販売したりする仕事に就いた場合、日々の服装に制約が課されると思うんです。そうなった時に自分の中で柱となるスタイルはなんなのか? ひとつに絞ることができなかったんです」 

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アトリエの様子。「キジマ タカユキ」の名作帽子の数々はここから生み出されている。

木島さんは考えた末に、小物類に携わる仕事であれば洋服は毎日好きなものを着られると思い、たどり着いたのが帽子づくりだった。

「1980年代前半はロンドンファッションを意識していたので、帽子は気になるアイテムでした。世界的なセレブリティを顧客に抱える帽子ブランドとして知られるスティーブンジョーンズはすでに存在していましたし、ヴィヴィアン・ウエストウッドもコレクションごとに特徴的な帽子を発表していたんです」

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11月17日にリリース予定の「アンサー イット」フェルトハット。

そして、日本における帽子デザイナーの第一人者である平田暁夫さんの教室を卒業すると、そのまま平田さんのアトリエに就職した。そこから日々の修練が始まると、木島さんは帽子づくりと自分の性格との相性の良さを感じていく。

「服づくりはいわば分業制で、パーツごとに専門の職人がいて、専用の道具が必要な工程も多いのですが、帽子づくりは多くの場合、糸とミシン以外の道具が必要なく、全工程をひとりで担えます。つまり自分の想像したものを自らの力でパーフェクトに表現できる。それが僕には合っていたんだと思います」

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「マドエレン」とコラボしたハット スタンド ポット ポプリ ケース(写真前列中央)は12月2日にリリース予定だ。

加えて、平田さんとの相性もよかったと木島さんは話す。

「平田先生は手取り足取り教えるタイプの方ではなかったんですが、自分にとってはそれが心地よかったんです。職人を育てるという言葉がありますが、職人は教えられてなれるものではなく、自分からつかみにいかないとなれないと思うんです。教えられたことをこなしていくだけなら誰でもできますし、モノマネの範囲で終わってしまいます。自分で考えて行動し、教えられたものよりもさらに上のレベルを目指さないと職人とはいえないと思うんです」

木島さんは、帽子づくりに関して独自の道を歩み始める。

帽子をつくる前は、市販の帽子(ハット)に対して不満がいくつかあったと木島さんは話す。「例えば、夏用の白い帽子なのに洗えなかったり、雰囲気が堅くてコーディネートの中で帽子だけ浮いてしまうことがあったりして、この課題をどう解消したらいいのか考えました」

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工房に並ぶ木型。右下は「アンダーカバー」とのコラボハットのもの。

木島さんは帽子づくりの常識にとらわれず、芯の使い方、縫製の仕方、パターンのつくり方を自分なりに考え、芯地を抜くことでカジュアルに被ることができて、洗うこともできるハンチングキャップを生み出した。そして、量産するためにサンプルを持って帽子の縫製工場を回るが、そこで思いがけない壁にぶつかる。熟練の職人たちに縫製のやり方が違うとかこのやり方では縫えないなどと言われ、どの工場でも門前払いになったのだ。

「しばらく工場回りを続けましたが、このままでは埒が開かないと思い、帽子専門の職人さんではなく、通常の縫製工場への営業を始めました。すると何軒か声をかけたうちのひとつが、帽子づくりはしたことがないけど、チャレンジしてみると言ってくれたんです。当時は日本のアパレルメーカーが生産の拠点を海外に移し始めていた頃だったので、工場側に新たな仕事を引き受ける余裕があったことも幸いでした」

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2024年2月3日リリース予定の「カーニー」とコラボしたセルロイド ウェリントンのサングラス。

木島さんはアパレルの縫製工場で働く服づくりの職人に対して帽子づくりの講習会を行い、縫製作業をお願いした。服づくりの職人に縫ってもらったことが結果として良い方向に転がったと木島さんは話す。

「帽子屋で縫う帽子は帽子になってしまいますが、アパレル工場で縫うとファッションアイテムになるんです。ファッションは年々変化しているので、昔ながらの作り方では最新のコーディネートに合う帽子になりにくいんですね」 

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指先で微妙な加減をつけながらミシンを使って紐をハットの形に縫い上げていく。

現在は、店の地下に工房を構え、複数の職人とともに帽子づくりを行っている木島さん。例えば、紐をミシンでぐるぐると縫ってつくるペーパーブレードと呼ばれる定番の帽子は仕上がりがやわらかく、くしゃっと丸めてバッグに入れたりしても型崩れしにくい。秘密は熟練の縫製技術にある。

「通常このタイプの帽子は、誤差の範囲内で縫い上げたものを木型にはめてプレスすることで同じ形に整えていくのですが、うちの場合は、指先で微妙な調整を行いながら木型通りに誤差なく縫い上げていくため、プレスを行う必要がないんです。それによって使っているうちにプレスをする前の状態に戻ってしまう、いわゆる型崩れの心配がいりません」

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木型通りに縫い上げられたペーパーブレードのハット。

これができるようになるまで平均で20年の歳月を要すると木島さんは話す。こうした長年にわたる作業の積み重ねによって培ってきた技術がさまざまな帽子づくりに用いられ、ほかのブランドがマネしたくてもできない、その時代の空気感をまとった才色兼備の帽子ができあがるのである。

「ファッションにおいて帽子は最後のまとめ役だと思っています。コーディネートに帽子を合わせて、トータルでカッコいい人はかなりハイセンスですよね。合わせるのが難しいアイテムですが、ハマったら最強です」

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「アーツ&サイエンス」とコラボしたハットラバーズバッグ。2024年1月6日リリース予定。

アトリエ設立から28年。ブランド名を「クール」から「キジマ タカユキ」に刷新して10年になる。今回はそれを記念して、10のブランドやコンテンツとのコラボレーションアイテムを制作。帽子以外にもTシャツやスカーフ、バッグ、サンダルなど特別なアイテムをリリースしている。

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「フット・ザ・コーチャー」「ビューティフル・シューズ」とのコラボサンダルは2024年4月13日リリース予定。

「いつもは先方からこういう帽子をつくってほしいとオファーをいただく側なのですが、今回は逆にアプローチさせていただき、わがままを言って僕がつくりたいもの、つくりたかったものを形にすることができました。コラボレートはお互いの持ついいものを引き出すことが重要で、そのためには先方が思い描いているものが想像できないとうまくいきません。今回参加していただいたブランドは、気心の知れたオーナーやデザイナーの方々ばかりなので、きっとお互いに想像した通りのものができているはずです」

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「たくさんの人たちのおかげでここまで来ることができました」

この先の目標について世界一の帽子屋になりたいと話す木島さん。「高価な帽子ではなく、かぶってもらえる帽子をつくりたい。ほかの帽子屋から見て、手法やデザインなどに対して、そういう手があったかと一目置かれるような存在になりたいですね」

自ら理想とする職人の姿を体現し、現状に満足することなく、さらなる高みを目指す木島さん。「キジマ タカユキ」の今後の進化や展開が楽しみだ。

キジマ タカユキ 10th アニバーサリー

“Thanks and then.”