「大人の名品図鑑」英国靴 #1
靴はファッションの“要”とよく言われるが、ここ十数年続いたスニーカーブームも落ち着きを見せ、次に履く靴を探している人も多いはず。時代のムード考えると、何年も流行に関係なく履ける本格的な革靴を手に入れたいと考えている人もいるだろう。そんな革靴の代表として、英国で生まれ、今も英国で製作され続ける名靴を取り上げる。
靴だけではないだろうが、ものづくりにはつくられる“場所”が重要だ。工場や機械、靴ならば職人的な技術をもった人たちもものづくりには欠かせない。今回紹介する多くの革靴の本社、あるいは工場があるのが、英国にあるノーサンプトン(古い日本の雑誌等の多くはノーザンプトンと表記していたが、今回は発音に忠実にノーサンプトンに統一した)という場所だ。
ロンドンの北西約100kmに位置するノーサンプトンシャーの州都で、英国靴産業の中心地。本格靴好きからは“靴の聖地”とも言われる。往時には200以上のメーカーがあったが、現在でも英国を代表する高級革靴の多くが、この場所に本社や工場を構えている。
ノーサンプトンにおける靴産業の発祥は17世紀ごろと言われている。清教徒革命で知られるオリバー・クロムウェルがアイルランドとの戦いに向かう兵士のために、ノーサンプトンの13人の靴職人たちに600足のブーツと4000足の短靴を依頼したのがその始まりだ。早くから畜産業に栄えたこの地域にはそれだけの需要を満たす素材=皮があり、皮をなめすのに不可欠なタンニンの元となる樫の木も自生していた。つまり靴の産地となる要素が、ノーサンプトンという場所そのものにあったわけである。
19世紀にアメリカ人のチャールズ・グッドイヤーJr.の手で「グッドイヤーウェルト製法」の機械が発明されると、生産性を上げようとノーサンプトンの靴メーカーも早くからこの機械を導入する。それまではアッパーとソールを縫うことは職人の手で行っていたが、これを機械化することで、より多くの革靴を生産できるようになった。第一次世界大戦では、ノーサンプトンでつくられた軍用ブーツが、2300万足も前線の兵士に届けられたと聞く。ノーサンプトンはこうして靴産業の基盤がつくられ、現在でも“聖地”と呼ばれるほどの場所になっているわけだ。
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ウィンザー公も愛用した名靴
今回、最初に紹介するのがこのノーサンプトンで最高峰の呼び声が高い、エドワード グリーン。1890年、ブランド名にもなっているエドワード・グリーン氏がこの地で開いたハンドメイドシューズの工房がブランドの始まり。彼が社是に掲げたのは「でき得る限りの上質を求めること」だ。
創業者のグリーン氏は高い志を持った靴職人として瞬く間に名声を獲得する。ウィンザー公からアーネスト・ヘミングウェイなどの有名人も愛用する靴となるが、1970年代に入ると経営が悪化、一時、アメリカに会社が売却されるが、80年代初頭にシューデザイナーだったジョン・フルティックが会社を買い取り、この老舗の再建に着手する。彼は新しい木型を開発し、洗練されたデザインの英国靴を考案。世界中の靴好き、ファッション好きから絶賛され、ノーサンプトンを代表する靴メーカーとなる。
今回取り上げるのは、「チェルシー」と呼ばれる内羽根式のストレートチップ、英国式には「キャップトゥ(オックスフォード)」と呼ばれるモデルだ。最高級のカーフスキンが使われ、デザイン上の特徴は、シューレース周辺に入った「白鳥の首=スワンネック」と呼ばれる鋭角にカーブさせた縫い目。これだけで「チェルシー」と一眼でわかるアイコン的な意匠だ。
加えて、「インサイドストレート&アウトサイドカーブ」と呼ばれる特徴的なシルエットは、足形に適った形状を備えて絶妙なフィット感をもたらす。靴全体の印象はエレガントなのだが、とても快適で履きやすい。これも「チェルシー」の最大の魅力だろう。黒の「チェルシー」を入手できれば、ビジネスから冠婚葬祭まで、どんな場面でもオールマイティに活用でき、流行に左右されることもない、まさに一生もの。次なる靴にエドワード グリーンを狙っている人に、まずはこの「チェルシー」を推薦したい。
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