〈大分県玖珠郡〉
寒の地獄旅館
大分に「寒の地獄」と名乗る温泉宿がある。名に違わず湧出温度は13〜14℃。つまり冷泉である。江戸末期に源泉が発見され、開湯186年。薪で冷泉を温める昔ながらの仕組みで、源泉掛け流しの湯を提供してきた。4代目の武石真澄さんにとって薪割りは当然の日課。年間100トン以上の薪を使うというから驚きだ。
しかし今回の目的はこの源泉、つまり冷泉である。あまりに冷た過ぎることから、冷泉には7〜9月の3カ月間しか入浴できなかったが、この夏から通年に変わった。理由はサウナを設置したから。その名も「暖の地獄サウナ」! 夏限定だった冷泉が、究極の水風呂として(なにも変わることなく)生まれ変わったのだ。プロサウナーの松尾大氏がプロデュースしたというサウナで十分に身体を温め、いざ、寒の地獄へ! 硫黄成分の影響で実際の温度よりもずっと冷たく感じる。体感的には10℃前後といったところか。正面に鎮座する薬師如来像は、冷泉に浸かって病を治癒したという湯治客から贈られたもの。寒の地獄で救いを求めようと仏像に手を合わせたら、不思議なことに寒さが和らいだ。両手を冷泉から出すだけで、まったく感じ方が変わるのだ。震えていたのは最初の3分だけ。サウナと冷泉の交互浴を重ねるたび、冷泉が身体の隅々まで沁み込んでいくのがわかる。ただ冷たいだけの水風呂とは明らかに違う、まさに霊泉である。
最初は修行に感じられた「寒の地獄」は、いつの間にか「寒の天国」に変わっていた。
寒の地獄旅館
住所:大分県玖珠郡九重町田野257番地
TEL:0973-79-2124
料金:一般¥2,500(日帰り冷泉サウナ)
定休日:水曜日
http://kannojigoku.jp
※宿泊は¥16,500~(1泊2食付ひとり料金、冷泉サウナと入湯税は別)
※この記事はPen 2023年11月号より再編集した記事です。