遊覧船で巡る「水の都」富山の芸術祭、『北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023』が開催中!

  • 文・写真:はろるど

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増田セバスチャン『Polychromatic Skin -Gender Tower- #北陸』(2023年) ファッションやエンタメを横断してつなぐアーティストとして活動する増田。打ち捨てられたおもちゃなどを一度溶かし、接着剤で貼ってタワーを築いている。周囲の木材は富山産の杉材を利用した。

富山、石川、福井の北陸3県を舞台に、今日的な観点から工芸の魅力を発信するため、2020年からはじまった『北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI』。過去2回の展覧会では、北陸3県を代表する寺社仏閣に分散して展示が行われ、延べ3万人来場したが、今年は会場を富山市内に集約。市の中心部から富山湾に続く約5キロの富岩(ふがん)運河沿いの環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリアの3つのエリアにて作品を展開している。各エリアをつなぐ富岩水上ラインの遊覧船にてのんびり行き来しながら、工芸、現代アート、アール・ブリュットを跨ぐアーティスト26名の作品を楽しめる、「水の都」富山ならではの新しい感覚の芸術祭だ。

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定村瑤子 展示風景 まず紙粘土や小枝、インターネットで見つけた画像を組み合わせて部屋の模型を作り、その後、模型を描いて絵画を制作する定村。「電タク」の室内空間を活かし、絵画の中に入り込むようなインスタレーションを展開している。なお定村は参加アーティストの中で、唯一の富山県出身だ。

環水公園から遊覧船に乗り、富岩運河の中間地点に進むと、パナマ運河方式で約2.5メートルの水位差を調整する中島閘門がすがたを見せる。このエリアでは、元タクシー会社の社屋、通称「電タク」における7名のアーティストの展示が充実。まず駐車場では、増田セバスチャンによるおもちゃを素材にしたポップで色鮮やかなタワーが来場者を迎え入れてくれる。そして屋内では、黒部ダムの風景をシュールで量感あふれた絵画で表現した横野明日香や、自ら模型を作り、それを元にして絵を描く定村瑤子の作品が見どころだ。定村はコロナ禍において会社が存続できなくなり、突如閉鎖された社長室を展示場としているが、この空間から受けたイメージを取り込んだ絵画を並べつつ、かつての備品をそのまま置いておくなど、現実と空想が入り混じるような世界も魅力といえる。

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葉山有樹の『双竜』(2023年)が桝田酒造店の酒蔵の扉を飾っている。陶芸家である葉山は、伝統的な紋様をアニメや漫画の視点から独自の美意識にてアレンジし、細密な描写を伴う作品で人気を集めてきた。

 

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コムロタカヒロ 展示風景 木(桂)に彩色を加えた『Dog dragon』(2023)年などが蔵の中に並んでいる。アメコミやフィギュアの影響を受けたというコムロは、まるでソフビのように軽いイメージを伴った木彫のコミカルなドラゴンを作り出した。

江戸時代には北前船の寄港地として栄え、いまも酒蔵などの古い街並みを残す岩瀬エリアが富岩運河の終着地だ。ここでは北前船の北陸五大船主であった馬場家や、酒蔵 桝田酒造店といった8ヶ所の歴史的建造物などにて作品が公開されている。そのうち陶芸家の葉山有樹は、自らの描いた磁器の模様をプリンターで拡大、さらにアルミ板に転写するという方法にて、龍を祀る桝田酒造の酒蔵の大きな扉をダイナミックに装飾。そして日本酒の醸造を行う仕込みの蔵では、コムロタカヒロの木製のドラゴンが空間を占有している。また酒蕎楽くちいわ 青蔵の古い2つの蔵では、村山悟郎が麻紐からカンバスを折り上げ、下地を加え、ドローイングを施す織物絵画などを並べている。いずれもサイトスペシフィックな展示といえ、富山の歴史や文化と、工芸やアートが響き合う光景を目の当たりにできる。

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近藤高弘 展示風景 東日本大震災の被害を目の当たりにし、造形を作るために自然をコントロールしようとしてきた思いの浅ましさを感じた近藤。「坐像」は亡くなった方への鎮魂であり、また現世に生きている人、そして時代を映す「現世身」であるという。

富山駅に最も近い環水公園エリアでは、環水公園のほかに樂翠亭美術館と富山県美術館にて展示が行われている。そのうち主会場のひとつが、美しい日本庭園を有し、昭和初期の邸宅を活用した樂翠亭美術館だ。エントランスには辻村塊の信楽壺がひしめき合い、和室では自らを象ったという近藤高弘の坐像が静謐な佇まいを見せている。そして庭園では土地と人の営みの関係をテーマに活動する野村由香が土を押し出し、暗い蔵の中では金理有による一つ目のオブジェが妖しく不穏な眼差しを覗かせている。すべて土を素材とした作品だ。工芸は伝統や熟練した作り手の技に裏打ちされながらも、例えば茶の湯において利休のプロデュースした茶碗が前衛と見なされたように、時に革新的ともいえる新たな美意識を生み出してきた。豊かな自然や文化を受け継いできた北陸の地ならではの『北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023』にて、旧来の工芸の枠を超えた表現者の制作の物語を見つめていきたい。

『北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023 物質的想像力と物語の縁起―マテリアル、データ、ファンタジー』

開催期間:2023年9月15日(金)〜10月29日(日)
開催場所:富山県富山市 富岩運河沿い(環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリア)
https://goforkogei.com/