世界一上司の目が行き届く!? あらゆるフロアと直通のEV式昇降オフィスがすごい

  • 文:青葉やまと

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オフィスを訪問したスコット氏。

中央ヨーロッパのチェコ東部、緑豊かな丘陵地帯に広がるズリーンの街は、靴メーカーのバチャ社とともに発展してきた。 20世紀初頭に人口わずか3000人ほどだったこの街は、会社の急速な発展に後押しされて拡大。現在では8万人ほどの規模になっている。

1923年には創業者のトマーシュ・バチャ氏が、自ら市長に就任。著名建築家たちと協業し、理想都市の実現を追求した。そんなバチャ社の「21号棟」として知られるビルには、トマーシュ・バチャ氏の弟であり、氏の死後に会社の指揮を執ったジャン・アントニン・バチャ氏が使用した、めずらしい構造の執務室が備わる。

16階建てのビルのどのフロアとでもコミュニケーションを取れるよう、部屋全体がエレベーター式となっているのだ。広い執務室が上下に移動し、扉を開けばどのフロアのオフィスともシームレスにつながる。

靴会社の司令塔となる本部施設

イギリスの著名YouTuberであるトム・スコット氏(登録者611万人)は8月、このオフィスを訪問。執務室が実際に移動する様子を動画でレポートしている。ビルは1939年に竣工し、本部施設のひとつとして使われたという。 小さな靴工場から一大企業へと変革を遂げるバチャ社に、このビルから采配を振う計画だった。

建物の一部は現在、バチャ社の歴史を紐解く博物館として開放されている。ホールを抜けながら、社の発展を駆け足で振り返ったスコット氏は、通路終端に構える執務室の前に到着。

普段は興味深いテクノロジーを淡々と紹介しているスコット氏だが、心持ち興奮した表情となり、「そしてボスは、 どの階にも執務室を持っていたのです」と語る。「なぜならこのボスの部屋は……エレベーターになっているのです!」

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広く立派な執務室が、上昇する

スコット氏とカメラが執務室に入室すると、部屋の広さが浮き彫りになる。仮にホテルだったならば、ベッドを2台並べてツインルームにできそうなほどの余裕が感じられる。奥の壁面はほぼ全面がガラスとなっており、第二次大戦前に建てられた古い建物としては比較的明るい光が降り注ぐ。

さすがは靴メーカーといったところだろうか、入り口を除く部屋の三方は、作業台やショーケースなど実務的な造作で囲まれている。中央に構えるのは、片側を壁面に接したペニンシュラ・デスクだ。対面する位置にチェアが1台ずつ置かれている。バチャ氏はここで従業員の話に耳を傾けようとしたのだろう。

どう見てもどっしりとした立派な役員室といった風格だが、この執務室は昇降する。操作のボタンは、デスクの脇に据えられている。残念ながらスコット氏ら来館者は操作を許されていないようだが、博物館のスタッフがパネルに並ぶ黒いボタンのひとつを押し込むと、部屋はスムーズに上昇を始めた。

ぐんぐんと変わる窓からの景色

執務室は2階とみられる低層階に停まった状態だったが、スタッフが最上階の16階のボタンを押すと、廊下につながっていた入り口を2枚の扉が左右から閉ざす。

壁面とマッチする木目調の扉となっており、エレベーターのドアというよりは、通常の住宅の扉のような自然な印象だ。扉の上には階数を示すパネルが設けられており、かろうじてエレベーターであることがわかる。パネルの表示によると、2階から16階の好みの階に停止できるようだ。

ひとたび移動が始まると、執務室内から望む景色がぐんぐんと変化。部屋全体がみるみる上昇していることが感じられる。揺れはほとんどなく、非常にスムーズな印象だ。米オーティス社により設計された、とスコット氏は紹介している。

90秒ほど上昇を続けたエレベーターは、16階に到着。ガチャンという音を立てて再び扉が開くと、そこは屋外となっている。一歩踏み出すと、最上階の一角に設けられた明るいテラスが広がる。その他の階ではオフィスと直接つながっているようだ。

電力・水道も抜かりなし

エレベーターとはいえ、役員が一日を過ごすよう想定された空間であり、快適さには抜かりない。移動する造りにもかかわらずエアコンが完備され、もちろん壁のコンセントからは電力を得ることができる。

部屋の一角には洗面のシンクも用意され、完成当時は温水と冷水が供給されていた。部屋の上部にタンクを据え、下部のタンクで使用済の水を回収するしくみだ。

執務室内からは階数ボタンで行き先を指示すればよいが、役員が別のフロアに徒歩で移動し、そこから入室したい場合も想定されている。通常のエレベーターと同様、カゴを呼ぶボタンが各階の入り口脇に設けられており、現在地の階まで部屋を移動することが可能だ。

ただし、部屋での執務中、外にいる従業員から勝手に動かされてはたまらない。そこで、ボタン下にキーの差し込み口が用意され、専用のキーを持つ者だけが操作できるようになっている。

活躍の機会はあまりなかったが…

実際のところは戦争の影響を受け、バチャ氏はほとんどこの執務室を使用することはなかったという。また、博物館のスタッフは、実際にはこの部屋からフロアの隅々にまで目が届くことはないと説明している。

とはいえ、役員と同じフロアで働いているというだけでも、従業員としてはひときわ身が引き締まることだろう。世にも珍しい昇降式の執務室は、会社の成長を追求したバチャ氏のこだわりを象徴しているかのようだ。

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訪問したスコット氏を乗せ、執務室はスムーズに上昇する。

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オフィスの外観。