50年以上前に定めた法律が、教師をいまも苦しめている現実

  • 文:印南敦史(作家/書評家)
Share:

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『先生がいなくなる』

01.jpg
内田 良/小室淑恵/田川拓麿/西村祐二 著 PHP研究所 ¥1,078

数年前、中学校時代の恩師から届いた年賀状に、「現役を退いた70歳の私が非常勤として働かなければならないほど、教師不足は深刻です」と書かれていた。本書を読んだ結果、その訴えの意味を深く理解できるようになった気がする。

本書では、長年にわたって「教師の多忙問題」に取り組んできた現役高校教諭の西村祐二がまとめ役を担い、現場で働く人の思いや教員過労死などの悲惨な現実、現場からの視点に基づく働き方改革に言及。深刻化する教師不足にまつわるさまざまな現実と弊害を明らかにしていく。さらには、教育コンサルタントや大学教授など各領域のプロフェッショナル陣が、法改正のあり方、学校改革の具体事例なども示す。

注目すべきは、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の問題である。「公立教員には基本的に残業を命じない代わりに残業代は支払わない」とし、そうした特殊扱いに対して月給4%の「教職調整額」を支払うというもので、1971年に制定され、現在は公立学校にのみ適用されている。「4%」の根拠は、66年時点での教師の平均残業時間が月8時間程度だったから。だが現在、小学校教員の1カ月の平均残業時間は97時間50分。中学校教員は114時間7分。50年以上が経過する中で、教職員の負担が大きく膨れ上がり、彼らは「定額働かせ放題」の状態に陥っているのである。つまり、相次ぐうつ病による休職や自死などの原因はここにあるのだ。

子をもつ親であるか否かにかかわらず、これは多くの人が自分ごととして受け止める必要のある問題ではないだろうか。教師不足とその弊害は、将来的に間違いなく教育界全体に、ひいては経済にまで大きな影響を与えるに違いないからだ。

※この記事はPen 2023年10月号より再編集した記事です。