仕事を引退したアメリカの夫婦が、22mの大型トレーラーのカスタマイズに情熱を燃やしている。気の向くままに全米を走りながら余生を送れるよう、快適な住居兼クルマを完成させた。
トレーラーとは一般に運搬車両であり、トラックに似ているが運転台のある「トラクター」と、荷車部分である「セミトレーラー」を連結して運行する。バラバノフさんとデイヴィスさんの夫婦は、巨大なコンテナ型のセミトレーラーを徹底的にカスタマイズし、まるで高級住宅のように仕上げた。
夫婦がプロジェクトを完成させるまでには5年の歳月がかかった。USAトゥデイ紙が取り上げた記事によれば、バラバノフさんとデイヴィスさんは30年以上にわたり、一緒に旅する生活を夢見てきたという。そしてその夢を、実際のトラクター・トレーラーサイズの移動住居に具現化したのだ。
外はどう見てもトレーラー、中は温もりのマイホーム
この夫婦が「ノマド・モンスター」と名付けたトレーラーは、外観からは一般的なアメリカのトレーラーと区別がつかない。頑丈かつ素朴なデザインを採用している。
真っ赤に塗られた大型のトラクターが、ブルーグレーの布地で覆われたセミトレーラーを牽引している。この外観からは、工業用の資材が積まれていると誰もが思い込むだろう。
しかし、その内部に一歩足を踏み入れると、全ての予想は覆される。中に広がるのは、温かなマイホームだ。トレーラーの改装経験を持つバラバノフさんが設計と制作を担当し、デイヴィスさんが資材の調達を手掛けた。
2階建ての「マイホーム」に、充実の設備
内部は2層構造となっており、螺旋階段が上下の階を結んでいる。上下に仕切ってなお、大人が立って生活できるゆとりある造りだ。
入り口は車体側方の中央部に設けられている。内部に足を踏み入れると、暖炉と木目調の床が特徴的な美しいリビングが広がる。この団らんスペースには大きなピクチャーウインドウが設けられ、移りゆく景色を窓越しに楽しむことが可能だ。
このほか内部には、モダンかつ機能的なキッチン、作業用のガレージ、寝室、書斎、そしてバスルームを完備した。
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妥協ない本格派
各部屋の完成度は高い。特に夫婦がこだわったバスルームには、シャワーに加えてジャグジー付きの浴槽も備わっている。キッチンも同様に高いクオリティとなっており、二層式の立派なシンク、2口のIHコンロ、そして電子レンジが設置された。さらに大型の冷蔵庫も導入されており、快適なスペース作りに余念がない。
内装はダークな木目調の床とホワイトの壁を基調とし、アクセントカラーの赤を使ったソファーなどが温もりを加えている。一般的なトレーラーのイメージを離れ、もはや家そのものだ。
外からの視線を気にする必要がない2階部分には、全方位が水平方向に連続した窓、いわゆるリボンウインドウを設けた。明るく開放的な室内が実現している。
加えて、簡素ながらもオフィスとミニシアターが装備されている点も注目だ。全米を旅する中で快適な生活を諦めたくないという夫婦の強いこだわりが、このトレーラーの各部に反映されている。
お値段2,700万円…住宅としては許容範囲?
夫婦はかつてタクシー会社とレストランを経営していたが、ビジネスを引退。長年にわたり夢見てきた、旅人としての生活をスタートした。
快適な移動生活のためとはいえ、プロジェクトに5年を費やしたのは凝り過ぎだとの意見も聞かれる。夫のバラバノフさんは、「完璧主義者には終わりがないんです」と笑う。これまでに推定18万1,100ドル(約2,700万円)が投じられた。かなりの額だが、都市部での住宅購入と比較するとリーズナブルとも言えるだろう。
一方、夢のトレーラー生活とはいえ、現実的な問題に襲われることもあるという。ときおり雨漏りが発生するほか、屋根にソーラーパネルを装備しているとはいえ、電力供給に苦労する状況があるようだ。
秋の出発を心待ちに
だが、不便も楽しみのうちなのだろう。7月から友人の家で車体の修理を進めてきた夫妻は、 秋になればまた出発しようと心待ちにしている。
制作過程はYouTubeチャンネル「ノマド・モンスター」で公開されており、多くの視聴者からのエールが送られている。コメントには「なんて美しい家だ」「素晴らしい仕事だ。気をつけて行ってらっしゃい」といった声も見られる。
資金の制約で若いころには旅立てなかったという夫のバラバノフさんは、USAトゥデイ紙の読者に向けて、夢を先送りにしないようアドバイスしている。「適したタイミングを待つのはやめたほうがいい。そんなものは永遠にやってこないのだから。やりたいなら、今行動するべきだ」。ひと味違った暮らしには不便が付きものだが、夫婦の冒険はこれからも続くようだ。
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