愛犬とともに洋上を3ヶ月漂流した男性が、奇跡的な生還を果たした。救出されたのはオーストラリアの船乗りであるティム・シャードック氏と、その愛犬のベラだ。54歳のシャードック氏は太平洋を3ヶ月漂流した末、広い海原で奇跡的にも発見され救助に至った。発見したのは付近を航行していた遠洋マグロ漁のトロール船と、それに同行していたヘリだった。
シャードック氏は3ヶ月前、2つの小舟の上にデッキを架けた双胴船のアロハ・トア号に乗り込み、メキシコ東部のラパスを出発。南太平洋に浮かぶフランス領ポリネシアへ向け、約6400キロの航海に出た。海が好きだったことから、この旅を決意したという。
嵐で無線を失った
ところが出発から数週間後、シャードック氏は猛烈な嵐に見舞われた。オーストラリアのナイン・ニュースは、すべての電子機器が波に洗い流されと報じている。船舶無線による救助要請は不可能となった。
船体にも致命的なダメージを受け、以降は陸地が視界に入る機会さえほとんどないまま、潮目に流されるままに太平洋をさまよっていた。救助時、ボートから最も近い陸地までは1200マイル(約1900km)の距離があった。
幸運にも付近でマグロの群れを探していたヘリコプターが、ひどく損傷し漂流していたシャードック氏のボートを発見。母船のトロール船に連絡を取り、乗員が救助に駆けつけた。
生魚と雨水で生き延びる
ニューヨーク・タイムズ紙によると、シャードック氏とベラは漂流中、マグロを釣って生で食べたり、雨水を飲んだりして生き延びていたという。シャードック氏は同紙に対し、苦難を次のように振り返っている。
「(救助に)とても感謝しています。しばらくは健康状態がかなり悪く、ひどくお腹が空いていました。嵐を乗り越えられるとは思わなかったけれど、今は本当に元気です」
「たくさん釣りをしましたね。物資もたくさん持ち込んでいましたので、備蓄の食料もありました。とはいえ途中で油をなくしてしまったので、マグロとか寿司とかでした。でも、それで十分です」
漂流中は、疲労や絶望との戦いであったという。マグロだけでは強い空腹感を覚えることもあったようだ。
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救助に感無量、消え入る声で紡いだ「ありがとう」
救助の瞬間を捉えた動画を、米NBCニュースなどが公開している。
小型艇に乗り救助に駆けつけたチームがシャードック氏のボートに近づくと、シャードック氏は立ち上がって胸に手を当てながら歩み寄り、安堵した様子を見せる。
チームの男性が「こんにちは。英語はしゃべれますか? 具合は大丈夫ですか?」と呼びかけながらボートに横付けすると、シャードック氏は質問には答えず、消え入りそうな震える声でただ「ありがとう…」と3度繰り返した。
氏の髭は伸び放題で、洋上の強い日差しを受けていたためか目を細める様子を終始見せている。それ以外では、長い漂流生活にかかわらず、体調に致命的な異状はないようだ。揺れる船上でしっかりと立ち、救助に訪れた人々の質問に的確な受け答えを行う様子を見せた。
犬のベラは久しぶりに見たシャードック氏以外の人間に心が躍ったのか、おとなしくシャードック氏に寄り添いながらも激しく尻尾を振っている。
「想像もできない…」幸運な救出劇として話題に
多くの人々が男性と愛犬の生還の報を喜んだ。オーストラリアやアメリカのメディアが本件を報じると、動画には多くのコメントが寄せられた。
「奇跡だ!」
「彼と犬が救助され、今は安全に過ごしていることがとても嬉しい。自分が海原に閉ざされるなんて想像もできない。寄り添ってくれる犬がいたのは幸運だった」
「犬も十分に健康そうで、尻尾を振っている。飼い主はまぎれもなくサバイバル・スキルがあり、食料を用意していたのだろう」
見渡す限り陸地が見えない環境で長期間生活することで、絶望を覚える危険がある。米CBSニュースは、英ポーツマス大学のマイク・ティプトン教授(人間生理学・応用生理学)によるコメントを取り上げている。愛犬が寄り添っていたことが希望をつなぐ糧になった可能性がある、と教授は指摘している。
生還に導いたのは、適切な対処と奇跡的な発見
漂流中にシャードック氏は、備蓄の食料を節減すると同時にボートの屋根の下に極力身を隠し、日焼けによる損耗を避けていたという。ナイン・ニュースが報じる救助直後の氏はやせこけて見えるが、意識ははっきりしている。
救助後に診断に当たった医師は、シャードック氏の体調が「しばらくはかなり悪かった」と述べている。投薬を受けるなどで現在までにかなり回復しており、特に大きなケガもないという。
この医師はまた、トム・ハンクス主演の2000年のサバイバル映画『キャスト・アウェイ』を彷彿とする奇跡的な生還だとコメントした。同映画では配送会社・フェデックスの従業員が孤島に墜落し、漂着する物資で命をつなぐ。
海が大好きだというシャードック氏だが、近いうちにまた航海に出たいかと尋ねるニューヨーク・タイムズ紙に対し、「多分行かないでしょう」と笑ったという。
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