なぜ起こった? 疲弊するハリウッド…ストライキの発端と現状をわかりやすく解説

  • 文:中川真知子
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写真はイメージ(iStock-Rudy Salgado)

ストライキは日々、熾烈さを増すばかりだ。 ハリウッド俳優らが加入している映画俳優組合/アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(WGA)が、映画会社やテレビ局、Netflix、アマゾン、ディズニーなどが所属する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に対して賃上げと労働環境の改善、AIの規制を求めてストライキをしている。

これにより、SAG-AFTRAの組合員は、現在進行形の撮影だけでなく、映画の宣伝やインタビューで映画について語ることができなくなった。そんな中、ディズニーが映画『ホーンテッドマンション』のプレミアを敢行。不参加の俳優に代わってディズニーのキャラクターを登場させた。

レッドカーペットに現れたのは、ミッキーとミニー、『白雪姫』の継母マレフィセント、『101匹わんちゃん』のクルエラ・ド・ビルなど。映画の関係者で唯一参加したジャスティン・シミエン監督は、報道陣のインタビューには一切応えないと事前通達されていたが、「出演者が共にカーペットを歩けなかったことは悲しい。(中略)彼らがここで語れないのなら、自分が代弁しなくてはならない。彼らがこの場にいない理由を全面的に支持します。そして自分がこの場所で警笛を鳴らせることを幸せに思っています」と語った。

ディズニー映画のプレミアにディズニーキャラクターが駆けつけたことは、美談のように感じられるかもしれない。だが、SAG-AFTRAとWGAが戦っているのは、ディズニーを含むAMPTPであり、このストライキをめぐってディズニーのCEOボブ・アイガーが「業界がコロナ禍から完全に回復できていないタイミングでのストライキはさらなる混乱を招く」と不快感をあらわにした発言をしたのは忘れてはならない。今回、ディズニーキャラクターを代打で起用したことは、SAG-AFTRAに対する挑発と受け止められても仕方がないだろう。現にSNSには、「ミッキーがスト破り(scabbing)をした」といった書き込みも散見される。

ここでは、SAG-AFTRAとWGAが何を勝ち取りたくてAMPTPと戦っているのか、改めておさらいしたい。キャラクターの代打出場が、俳優らにどのような心理的影響を与えた可能性があるのかにも触れる。

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動画配信サービスの拡大に伴う、賃上げとAI規制の要求

動画配信サービスが拡大し、作品の二次使用料(レジデュアル)が大きく変化した。これまでは、映画公開後のテレビ放送時やディスク化の際に二次使用料が支払われてきた。それは次の仕事まで食いつなぐための貴重な資金だったのだが、動画配信サービスが拡大し、ディスクの売り上げが減少。ケーブルテレビの契約も減って、レジデュアルは右肩下がりとなった。一方、動画配信サービスは再生回数を公表しておらず、二次使用料は恐ろしく少ない。

@goconstance #greenscreen Sadly, the negotiations with #AMPTP have not gone well. They are unwilling to adjust our antiquated contracts to the new business model of streaming. Here is an example of how my show ##SwitchedAtBirthcontinues to make money for the studio, but for me? Not so much! If they’re making money off my likeness, my work, so should! WE ARE NOW ON STRIKE! ##FairIsFair##ActorsStrike##ActorLife##Actor@@SAG-AFTRA##payafairwage ♬ original sound - Constance Marie

アメリカのテレビドラマシリーズ『スイッチ 〜運命のいたずら〜(Switched at Birth)』の出演俳優は、「この作品は今でもお金を生み、スタジオを儲けさせている。なのに私が受け取っているのは1ドルにも満たない。これでは生活できない」と訴えている。

@heathermatarazz Replying to @Derek Scheller #greenscreen ♬ original sound - HeatherMatarazzo

ゴアホラー映画『ホステル2』のローナ役で知られるヘザー・マタラッツォも、10セントに満たないレジデュアルを前に「マジで? プロの俳優なのに?」と呆れる。

これは、決して極端な例ではない。金額の差はあれど、「Aリスト」と呼ばれるようなスター俳優でもない限り、余裕のある生活が送れるとは言い難い二次使用料しか得られていない。

脚本家と俳優をさらに苦しめているのがAIだ。脚本家は、映画会社側に自分たちの脚本をAIに学習させるのをやめ、規制を設けるように訴えている。俳優は、AMPTPの“エキストラの俳優をAIスキャンして、データを末長く、許可なく無料で使用可能にする画期的な提案”を考え直すように声をあげている。エキストラにはスキャン料として10万円ほどの報酬が支払われるそうだが、それは俳優としての未来を売り渡すことを意味している。

他界した俳優を銀幕に復活させたり、年齢を重ねた俳優を若返らせたりするAI技術はすでに使用されており、広く受け入れられている。だがそれは、あくまで演出の一部であり、俳優の存在を脅かすものではなかった。エキストラのAIスキャンは、AIがエキストラに取って代わる行為であり、それに対する恐怖心や不安がストライキにつながっている。俳優らが出席しないことを知った上で、ディズニー側が「イベントは開催できる」と発言したのは、この不安を更に煽ることとなった。

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組合員のルール、禁止事項と許されていること

SAG-AFTRAとWGAは、このタイミングで時代に即した契約にアップデートしなければ業界の未来はないと考えている。そのため、組合員に対しても強い姿勢で一致団結を求めており、以下のルールを徹底するように伝えている。

【禁止事項】
・俳優らは自身のプロジェクトについて話せない(作品の宣伝になってしまうため)
・作品の宣伝になりかねないコスプレはするべきではない

【許されていること】
・SAG-AFTRAの組合員はCM、トークショー、リアリティショー、ゲームショーに参加できる
・映画の宣伝はできないが、インタビューでストライキに参加している理由について語れる

ミッキーがスト破りした可能性があると前述したが、組合員のスト破りには厳しい処分が課せられる。SAG-AFTRAは「問責、訓告、罰金、停止もしくは除籍」に処せる。組合員でなくても、ストライキの対象となっている企業の仕事をした場合、将来的にSAG-AFTRAに加入できなくなる。

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AMPTPの強弁な態度と長引くストライキ

ストライキが始まったときから、AMPTPは強固な態度を貫いている。ある幹部は「組合員が家を失い家族が飢えるまでストライキを長引かせる」といった発言をしていた。

そんな中、ユニバーサル・ピクチャーズは、街路樹を伐採したらしい。ユニバーサル・ピクチャーズ側の意図は明かされていないが、酷暑の中でストライキする人たちから日陰を奪い、体力を消耗させることが目的ではないか、と囁かれている。

今回のストライキで発生する損害は4000億円を下らないと言われており、AMPTP側としても一刻も早く(自分たちに有利な条件での)解決を望んでいる。しかし、SAG-AFTRAもWGAも、ここで引いては業界の未来がなくなると考えており、ストライキは長引くだろう。とはいえ、AMPTPの兵糧攻めは組合員たちに強いダメージを与えている。

インフラの変化に応じて契約やシステムを見直す必要性や、AIの規制を求めるこのストライキは、我々にとっても対岸の火事で済ませることはできない。

SAG-AFTRAやWGAを支持したい人も少なくないだろう。SNSなどを駆使して映画や番組の宣伝、紹介をしたり、寄付や募金をすることは、彼らの応援につながるはずだ。一方で、動画配信サービスを利用しないという形での支持は意味をなさないと、SAG-AFTRAとWGAは発表している。

このストライキは年末まで解決しない可能性が高い。果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。

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レッドカーペットに登場したディズニーキャラクター