ジャケ写のセンスに惹かれる音楽アルバムたち<ロック、ポップ、ジャズ、現代音楽>

  • 写真・文:一史
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音楽アルバムのジャケット写真は、写真に興味を持った原点のようなもの。
撮影を仕事にするにつれ、過去の記憶を辿るようになりました。
自分の好きな世界をクリアにするプロセスです。
今回はその流れで再認識した、素晴らしいジャケット写真を選びました。
写真芸術とは別の見方の、ジャケ写としての魅力です。

ただ今回改めて調べた結果、好きなジャケットは大半がグラフィックデザイン(アートディレクション)の優秀さによるものと気づきました。
写真自体にはさほど特徴がなく。
さらに、音楽や演奏家が好きでジャケ写をカッコよく感じてた盲信も多々あり。

そんな調子でしたから、冷静に眺めるとかなり淘汰される結果に。
ここでのセレクト基準には、撮り手目線が入ってます。
「こんなジャケ写撮れたら幸せだな」という。

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デクスター・ゴードン 「バラッズ」(1961-78年)

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わたしが知る限り、ジャズ写真の最高峰がこの一枚。
アルバム自体はサキソフォン奏者のデクスター・ゴードンのリーダーアルバムから抜き出してまとめたコンピレーション。
制作するにあたり、有名な写真をジャケ写に利用したのでしょう。

モダンジャズレーベルである「ブルーノート」の50〜60年代は、誰もが認めるジャケ写の歴史の王者。
ですがその凄さはほとんどが、卓越したグラフィックデザインの力。
素材として使われた写真自体に特筆すべき点はあまり見られないと感じています。
この「バラッズ」は逆に、タイポグラフィー(文字デザイン)はいたって現代的で、写真に頼り切ったアルバム。
写真集の表紙のようですね。

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ヴァンシー「V」(2008年)

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ダンスロック流行りの時代にリリースされた、オーストラリア出身4人組み男性のデビュー・アルバム。
ストリート&モードなこの写真が好きで好きで。
「撮りてぇ〜!」と思っちゃいます。
(パクる気はありませんが)
人物ふたりはバンドのメンバーでない若者。
舌ピアスなし、タトゥーなしなのも不良アピールじゃなくて好印象。

指のVサインがバンド名の頭文字&アルバムタイトルの「V」で、ジャケ写に使う目的で撮られたのでしょう。
なにげないスナップ風ながら、ストロボ照明による撮影。
ただこの構図は推察するに、より広く撮られた写真の部分トリミングな気がします。
絵コンテ通りの撮影でない限り、ハイアングルにカメラ構えてのこの切り取りは難しいです。
(フォトグラファーが長身&ハイセンスなだけか!?)

ちなみに音楽も良質です。
いま再び気になる2000年代のポップなダンスロック。
捨て曲が一曲もない隠れた名盤。

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フィッシュボーン「フィッシュボーン」(1985年)

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スカとロックを融合させたカリスマバンドのデビューミニアルバム。
要は売れる前のアルバムです。

もうこのジャケ写は……ロック史頂点の一枚!!(私的に)
撮りたくて仕方がないです、この感じ。
イケメン、イカれた者、弾けた者、知的な者、シャイな者……。
同じバンドでこれほどの個性とは。
狭い部屋にメンバーを押し込め、この動きをやらせたフォトグラファーを尊敬します。
(皆がノリノリだった可能性大とはいえ←フィッシュボーンですから)

中身の音楽も聴けば納得の出来栄え。
ジャケ写の期待値を裏切りません、決して。

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スティーヴ・ライヒ「ディファレント・トレインズ/エレクトリック・カウンターポイント」(1988年)

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ミニマル・ミュージックの帝王である作曲家が、弦楽四重奏集団クロノス・カルテット及びジャズギタリストのパット・メセニーと組んだ、その道の超有名盤。
エレクトロ、クラブミュージック、ヒップホップ、R&B、民族音楽、ジャズ、クラシック、宗教音楽らにノンジャンルで夢中だった若かりし日に、タワーレコードで初めて出会ったライヒの音楽です。
ライヒアルバムのジャケ写ではこれがもっとも卓越していると思います。
汽車の汽笛音から始まり、列車が走り出していく曲の世界と完全にリンク。
頭に浮かぶ映像を補完するのにこれ以上ない写真でしょう。
写真の縦横の線を活かす、上下の端に配置したタイポグラフィーデザインも見事。

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マックス・リヒター「メモリーハウス」(2002年)

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もしもいまお偉いさんに(誰?)、「どの音楽家でも好きに撮っていい」と言われたら、すかさず「マックス・リヒターを!」と答える敬愛する作曲家のソロ・デビューアルバム。
「リヒターはヨーロッパの田舎に別荘持ってそうだしなー。その土地で彼の日常をパシャリと……」。
妄想はともかく、ジャズのECMレーベルのごとく洗練されたモノクロ風景のジャケ写です。

静かで単調に感じやすい曲が多いのはリヒターのアルバムに共通する特徴。
精神的にかなり調子がいいときしか聴けません、わたしは。
遠くの川のせせらぎのごとく録音されたごく小さな音が重要な役割を持ち、しっかり聴くことで感動が生まれる厄介な(?)音楽。
その緊張感を裏から支えるのが、中心線を左にずらして十字形に分離させた4分割構図のモノクロジャケ写。
別バージョンのジャケ写(モチーフが電線だけ)もありますが、こちらの駅のほうに心惹かれます。

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ヴァンパイア・ウィークエンド「コントラ」(2010年)

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ヴァンパイア・ウィークエンド「ヴァンパイア・ウィークエンド」(2008年)

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一流大学出のインテリ歌詞を超ポップな曲に載せる、現代版パンクのヴァンパイア・ウィークエンド。
レトロな人物写真をジャケ写に流用する発想は、80年代のザ・スミス以来では??
この頭のよさにややイラつくものの(笑)、ほかの誰もやらない独自路線がカッコいいです。
バツグンの批評家ウケも音楽性だけの話でないことがよくわかる、初期2作品のジャケ写です。

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ザ・クラッシュ「コンバット・ロック」(1982年)

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「クラッシュのジャケ写なら『ロンドン・コーリング』でしょ!? 『白い暴動』もあるし」
とのご意見に反対する気は毛頭ないのですが、こっちのほうが好きなんですよ。
撮影時のムードまで漂ってくるジャケ写。
メインボーカルで、もっとも過激に思えるジョー・ストラマーだけが真面目に撮影と向き合ってます。
片目に手を当ててポーズとってくれてる。
撮ってるフォトグラファーは助かったはず。
ほかの3人はもう飽きちゃたんでしょうね(笑)。
ロケ国がタイで暑かったでしょうし。

というのは勝手な想像で(ロケ国は本当)、たくさん撮られたと推察されるなかでこのカットが選ばれたことがハイセンス。
アートディレクターが決めたのか、メンバー自身が関わったのか。
普通はこんなユルいのを重要なアルバムのジャケ写にしないでしょう。
のちにザ・クラッシュ最大の売上げを記録したほど内容がいいアルバムなんですから。

捨て曲一切なしの密度の濃さは、バンドの頂点にふさわしいと思います。
もはやパンク音楽でなく、しかし強烈に反戦を物語り社会風刺する姿勢は健全。
近頃再びMP3データをスマホに入れ、仕事に向かう途中にイヤホンでよく聴くアルバム。
無骨でポップでローテクで男っぽく、夏が似合う音楽。
とても新鮮です。

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今回は以上です
忘れてる素敵なジャケ写を思い出そうとしましたが、かつての「CD」はもう部屋の奥にしまい込んでます。
ザ・クラッシュはレコードも持ってましたがどこへ行ったやら……(たぶん実家で捨てられた)。
MP3のデジタル音源でしか音楽を聴かなくなると、ジャケ写の存在感が希薄になりがちです。
それでも仕事移動のスマホ操作で音楽アプリを操作したとき、画面で小さく主張するアルバムジャケットに心がなごむことも。
デジタル・ネイティブな現代の子供〜若者は、ジャケ写をどう捉えているのでしょう??

All photos&text©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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