本物DJのボイスを「ラジオGPT」が完コピ、世界初のAIラジオパーソナリティが誕生

  • 文:青葉やまと
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※画像はイメージです istock

文章や画像を出力できる、いわゆる生成AI(ジェネレーティブAI)の発展がめざましい。アメリカでは、世界初のAIラジオパーソナリティ「AIアシュリー」が誕生した。

西海岸・オレゴン州のFM局「KBFFライブ・95.5FM」では6月13日から毎日、局の女性パーソナリティであるアシュリー・エルジンガさんの声を学習したAIアシュリーが、放送の一部を担当している。午前10時から午後3時までの平日の日中時間帯、5時間の放送枠を人間のパーソナリティの代わりにAIが担当する。

「AIのDJ(パーソナリティ)を採用する世界初のラジオ局として、我々は歴史の1ページを刻みました!」と同局はTwitterで発表し、AIの採用を積極的にアピールしている。

アシュリーさんもびっくりの完成度

局が公開している動画では、バーチャル・パーソナリティの「AIアシュリー」の高い完成度を確認できる。動画は、アシュリーさん本人がAIの出来映えを初めて確認するシーンを捉えている。

「ライブ・95.5では今日、いつものアシュリーからAIアシュリーに切り替わります。さて、AIが果たしてどれだけ私そっくりに聞こえるか、試してみましょう」と本物のアシュリーさんが視聴者に説明し、興味津々といった表情で手元の機器を操作する。

するとスピーカーからは、まさにアシュリーさんがしゃべった内容が一語一句違わずに、AIボイスで再生された。その印象は、本人がマイク越しにしゃべっているのとほぼ同じだ。

アシュリーさんはカメラに向かって思わず目を丸くし、「これはありえない!」と笑いが止まらなくなる。「そうね。私の声に聞こえるわね」と認め、「休みが取れそう。ワォ」と笑顔で動画を締めくくった。

パーソナリティに特化した「RadioGPT」 

米テックメディアのテック・クランチによると、この試みは、オハイオ州のソフトウェア企業であるフューチャーリ社が開発した技術「RadioGPT」によって実現した。

会話を理解するチャットボットと、特定の人物の声を学習しそっくりに発話する機能を組み合わせたものだ。アシュリーさんのボイスを学習し、本人そっくりの声を使った自然な発話が可能となった。

AIアシュリーは既に、番組の放送本番を担当している。曲紹介などの定型的な発話をこなすだけでなく、リスナーとのリアルタイムの通話にも対応する。

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「AIアシュリーがお送りしています」

ある日の放送では曲のフェードアウトにタイミングを合わせ、「AIアシュリーがお送りしています。テイラー・スウィフト(の懸賞チケット)を獲得した、最初のリスナーに電話してみましょう」と番組を進行。リスナーが電話に出ると、ライブで会話を展開した。

リスナー女性「もしもし」

 ——こんにちは!

「どなた?」

——ライブ・95.5のAIアシュリーです。お名前は?

「リサです」

——はじめまして、リサ! どちらにお住まい?

……など、スムーズにコーナーを進行している。

AIと人間があっという間に打ち解ける

はじめは怪訝そうに電話に出たリスナーだが、みるみるうちにAIアシュリーの会話術に引き込まれ、次第に感情豊かに会話を交わすようになっている。

賞品の獲得をAIアシュリーが告げると、リサさんはまるで人間と対話しているかのような興奮した声色へと変化。その後も、身内でテイラーのファンはいるかと問うAIアシュリーに対し、リサさんは孫娘が大ファンだと応じるなど、自然な会話でコーナーは盛り上がった。

AIアシュリーはトーンを切り替えながら、感情豊かにリスナーへのインタビューをこなしている。ラジオ番組特有の味わい深い空気感も、よく再現されているようだ。若干堅い口調からAIであることは分かるものの、よくある合成音声のイメージを覆すクオリティとなっている。

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パーソナリティのあり方は変わってゆく?

AIアシュリーを紹介するこの投稿は44万回以上再生され、注目を集めている。一方で、プロのパーソナリティの声をコピーすることは失礼に当たるのではないかと指摘する声もなかにはある。また、AIによる失職の一例になるのではないかとの懸念も聞かれた。

局の運営会社、アルファ・メディアは、アシュリーさんには従来と同様の給料が支払われると説明している。同社のコンテンツ担当副社長、フィル・ベッカー氏は、アシュリーさんが引き続き別の時間帯を担当すると述べ、番組別に人間またはAIを登用するハイブリッド体制で運営していく計画であると明かした。

米ビジネス誌のアントレプレナーは同副社長のコメントを引用し、人間のアシュリーはソーシャルメディア対応など、AIによって生まれる空き時間を利用して別のタスクに取り組むことができるとの見解を紹介している。

ラジオ各局はコスト削減に迫られており、この動きは他局にも波及するかもしれない。パーソナリティが「声を盗まれた」だけの状態にならないよう、AI導入後のポジションの確保が求められている。

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