スポーツカーのデザインにとって大事なものはなんだろう。ひとつは審美性。1970年代までのモデルは、車体の抑揚が女性のラインにたとえられてきた。
上記はあまりおおっぴらに書けないけれど、スポーツカーを得意としたイタリアのデザイナーたちが、当時はそう語っていたのだから、ここではあえて事実として、紹介してしまいます。
いっぽう、機能も、スポーツカーのデザインにとって、たいへん重要だ。スポーツカーの代名詞的な企業であるフェラーリが、2023年6月29日に公開した新型車「フェラーリSF90XX(エックスエックス)」はまさに好例。
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SF90XXは、フェラーリに詳しいひとが車名を”解読”すると、ふたつの車両コンセプトを発見できるかもしれない。
ひとつは、SF90。2019年に「SF90ストラダーレ」として発表されたプラグインハイブリッドの全輪駆動のスポーツモデルだ。
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もうひとつは、XX。フェラーリが2004年に上顧客むけに始めた特別なプログラムだ。
ふたケタの台数しか限定生産されないXXプログラム用の車両を購入できた(購入した、というより、購入できた)顧客は、レースでも走れるよう、フェラーリのインストラクターとプロドライバーのサポートを受けて訓練を積む。
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2006年の「FXX」にはじまり、「599XX」(09年)や「FXX-Kエボ」(14年)といった、サーキット専用モデルが送り出されてきた。
これらのモデルは高価であり、かつ、誰でも買える代物でない。フェラーリへの貢献度が高く(ありていにいうと、たくさん買っている)、同時に、サーキットでの走行経験もそれなりに豊富であることが求められる。
XXモデルを買って、XXプログラムに参加した顧客は、クルマの走行データをフェラーリに提供。フェラーリはそれを次世代モデルの開発に援用する。
フェラーリと顧客の結びつきを強くするという意味でも、彼らにとって重要なプログラムなのだ。
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「SF90XXは、公道を走れる初めてのXXモデルです」
フェラーリがこのモデルをジャーナリストに公開したのは、ピスタ・ディ・フィオラノという、フェラーリファンというか自動車好きにはよく知られた、自社のテストコース内。
そこに作られた特設会場において、フェラーリのマーケティング担当重役、エンリコ・ガリエラ氏が、上記のように要約して説明してくれた。
ボローニャ空港から1時間ほどのドライブであるフィオラノという小さな街にある。隣町はフェラーリが本社を置くマラネロ。こちらも大きな町ではないけれど、街中はフェラーリだらけだ。フェラーリのレンタカーとかもある。
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SF90XXは、公道も走れるというけれど、スタイリング的には、かなりレースカーに近い。もっとも目を惹くのは、ボディから高くそびえたったリアウイング。
車体はかなり低く、前後のフェンダーをはじめ、ボディ各所にはスロット(孔)が開けられているのも特徴的だ。
ハマーヘッド(シュモクザメ)とフェラーリが呼ぶT字モチーフのノーズも、まさにレースカーのように空力的な処理が各所にほどこされている。
というわけで、これが、フェラーリによる最新のスポーツカーデザインなのだ。
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「(SF90ストラダーレに対して)リアは完全に設計しなおし、先進的な技術をフルに活かしつつ、ボディは流麗さと力強さをバランスさせることを心がけました」
デザイン統括のフラビオ・マンツォーニ氏は、記者会見でそう語った。
たしかに、SF90ストラダーレに対して、SF90XXのリアは、大きなリアウイングをはじめ、円モチーフの4灯式テールランプを廃したし、リアには大きな空気排出用のグリルが開いている。
デザインコンセプトについて、マンツォーニ氏は「トリマラン」として、ヨットの形状を思わせるのだと示唆。
前者は優美さを強く感じさせたが、レースカーのようにボディ各所にルーバーを切られたSF90XXは、機能を強く優先してデザインされた印象が強い。
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「いってみれば、アート・アンド・サイエンス」。芸術と科学とが結びついて生まれたデザインだと、マンツォーニ氏は言うのだった。
巨大なリアウイングは”公道用”フェラーリとしては、かなりめずらしい。というのも、フェラーリはこれまで、レースカーのようなウイングは審美性を損ねるとしてきたからだ。
「今回あえてリアウイングを大きくしたのは、ダウンフォース(空気を流れを使って車体が浮かないようにする効果)でサーキットでのタイムを縮めるという機能的理由がひとつです」
記者会見の席上で「どうなってるんでしょう?」という質問が出た際、前出のマーケティング担当重役ガリエラ氏はそう説明。
「もうひとつの理由は、顧客の声です。F40(1987年)やF50(95年)といったかつて人気を集めた限定モデルをなつかしがり、サーキットのタイムを重視するフェラーリなら、あえて大きなリアウイングをつけてもいいじゃないか、というのを参考にしました」
もちろん、ここで書いてきたように、SF90XXのデザインはほとんど機能のためでもある。
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4リッターV8ツインターボエンジンに電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムは、さらにパワーアップ。加えて、コーナリング性能をあげるための制御技術も、さまざま盛り込まれている。
ユニークなのは、電気モーター(モーター走行だけで25キロは走れるそう)を燃費改善のためだけに使うのでなく、というか、むしろパワーアップのために積極的に使っているところ。
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「エクストラブースト」なる機能がそれ。ドライブモードで「クオリファイ」(サーキット周回のタイムを競うモード)を選んだとき、作動する。
コーナーの出口でアクセルペダルを思いきり踏み込むと、電気モーターが一瞬トルクを積み増す。それでタイムを向上させるのだ。
このあたりが、フェラーリの面目躍如だなあと思う。
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SF90XXストラダーレ(クーペ)は、イタリアで77万ユーロと発表された。24年の第2四半期にデリバリーが始まる。限定799台。SF90XXスパイダーは、やはりイタリアでは85万ユーロ。こちらは限定599台。デリバリーは24年第4四半期という。
ただし「どちらのクルマも(すべて)売約ずみ」とマーケティング担当役員のガリレア氏。まさに”夢の”スポーツカーである。
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Ferrari SF90XX Stradale
全長×全幅×全高 4850x2014x1225mm
ホイールベース 2650mm
車重 1560kg
3990cc V型8気筒ツインターボ+電気モーター プラグインハイブリッド 4WD
出力 586kW(エンジン)+171kW(モーター)
トルク 804Nm(エンジン)
変速機 8段ツインクラッチ
モーターによる巡航距離 25km