6月5日からU-NEXTで配信スタートした、米HBO制作ドラマ『THE IDOL /ジ・アイドル』。主演にリリー・ローズ=デップとザ・ウィークエンドを迎え、カンヌ国際映画祭でのプレミア上映後は「リリー・ローズが脱ぎまくっていて、まるでソフトポルノ」と評された、スキャンダラスな内容が早くも話題だ。
リリー・ローズ演じるポップアイドルのジョスリンと、ザ・ウィークエンド（本作ではエイベル・テスファイ名義）演じる、ミステリアスなクラブオーナーが惹かれ合っていくこのドラマ。Z世代の闇を描いた人気ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』のクリエイターが監督とあって、セクシュアルでダークなムードに満ちあふれている。当初、女性監督が８割方撮り終えていたのに、プロデューサーでもあるザ・ウィークエンドが「女性目線すぎる」と言って取り直したという曰く付きだ。
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「性的搾取した内容」という批判も…
配信されるや否や、ネットでは「女性を差別し、性的搾取した内容」だという批判コメントが相次いでいる。全５話中、まだ１話目のみの配信だけれど、冒頭から、バストがはだけそうな真っ赤なガウンを羽織ったリリー・ローズが新作アルバムのジャケットを撮影し、インティマシー・コーディネイターに向かって「横乳や下乳よりも、もっと肌を露出すべき。これは私のオッパイよ！」と主張したり。裸に近い衣装を着たジョスリンが、首を絞めながらのマスターベーションから、氷プレイまで。これでもかというくらいに性的なシーンが繰り出されていく。氷を使ったシーンでは思わず『ナインハーフ』か！、と心の中で突っ込んでしまった。
しかしこれは製作サイドによれば、アメリカにおける、Z世代へのポルノが及ぼす影響の大きさを反映しているものだという。言われてみれば、バストトップが丸見えのドレスでクラブで踊るジョスリンの姿はエムラタやベラ・ハディッドのネイキッドドレスを彷彿とさせるし、セックス動画の流出で有名になったセレブはハリウッドに山ほど居る。そして怖いのが、マネージャーが口にした、「彼女は田舎では出会えない高嶺の花の存在。だけどメンタルが壊れていたら、自分と寝るかもしれないと思わせる。だから情緒不安定はセクシーなの」というセリフ。そのためにマネージャーは彼女に依存症治療のクリニックでつけさせられるリストバンドを装着させて、ジャケット撮影に挑ませる。
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ブリトニー・スピアーズなどモデルは実在のアイドル
メンタルヘルスの病さえも、消費のための道具に使われるハリウッドという世界。昨今ではヤングセレブたちがメンタルヘルスに問題を抱えていることを次々に打ち明けて若者たちの共感を呼んでいるけれど、それすらも大人たちに利用されているとしたら、怖すぎる。だけどあり得ない話ではない。
ブリトニー・スピアーズやジャネット・ジャクソンなど実在のアイドルをモデルにしたと言われるこの問題作だが、国内外のメディアでこれだけ注目されていること自体、もしかすると、ザ・ウィークエンドの思惑通りなのかもしれない。
現在のところ、アメリカでは「このドラマの救いは、BLACKPINKのジェニーの存在のみ」という意見も聞かれる。K-POPスターのジェニーはヒロインの親友ダンサー役として出演しており、かなり扇情的なダンスシーンを披露しているが、毎話セリフは３つくらいしかないとのことで、「ジェニーにもっとセリフを与えるべき」との声も少なくない。たしかにジェニーのナチュラルな演技は賞賛すべきではあるけれど、私はこの作品、そんなに酷いとは思わない。むしろ、最初のリリー・ローズがフォトグラファーの要求によって次々に表情を変えて撮影していく長回しのシーンでは、彼女の演技力の高さに驚かされた。
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Z世代に漂う“あきらめ”の気分を表現
エロティックで刹那的で脆くて壊れそうなジョスリンは、リリー・ローズそのものに見えて、当たり役ではないかと思わせられる。全編に満ちている退廃的な空気は恐らく、3.11前後に生まれ、リーマンショックの不景気の中で育ったZ世代に漂う、“あきらめ”の気分をかなりリアルに表しているのではないか。
そういった視点から眺めると、昭和生まれには理解できない現代のヤングセレブたちの世界を社会勉強するような気持ちで観られる。少なくとも、私は。
カンヌのプレミア上映では５分間のスタンディングオベーションで賞賛されてもいた、賛否両論のこのドラマ。それだけ、人を夢中にさせる魔力があるということ。ハリウッドという虚構の世界の現実をシニカルに描いた、興味深い作品だ。
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