スーパーカーの次はラリーマシンしかない? ランボルギーニの「ウラカン・ステラート」が楽しすぎる

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Automobili Lamborghini SpA
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スーパースポーツカーの世界にあたらしい指標を打ち立てたい。ランボルギーニのウラカン・ステラートは、そんな目標でつくられたモデルだ。

 

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マイアミビーチでのお披露目風景(左端がモアCT0、隣りがデザイン統括のボルカート氏、クルマを挟んでその隣りがビンケルマンCEO)

 

2022年11月にマイアミビーチでの「アートバーゼル」でお披露目。開発者の言葉を借りて特徴をひとことでいうと「ラリーマシンの楽しさをもったモデル」となる。

「スーパースポーツっていうと、いまはどれも、同じ方向を向いてしまっています。なのであえて、そこから外して、ラリーマシンの楽しさを追求してみました」

開発を総指揮したランボルギーニ社のチーフテクニカルオフィサー、ロウベン・モア氏は、コンセプトをそう説明してくれた。

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「コンクリート(舗装路面)を越えて」がウラカン・ステラートのスローガン(アートバーゼル会場にて)

 

ウラカンといえば、地をはうような低い車高のボディに、パワフルなV10エンジンを搭載したスポーツカー。それにオフロード的な要素を加えたのがウラカン・ステラートなのだ。

かつて1980年代までは、ラリーでの勝利をめざして開発されたモデルが多々あった。読者のかたも、ランチア・ストラトス、ルノー・アルピンA110、アウディ・クワトロなどご存知では?

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従来のウラカンのAWDモデルより前輪へのトルク配分を増やしてオフロードでの走破性を高めたという

 

ウラカン・ステラートは、当時「グループBマシン」と呼ばれた上記のようなラリーカーをイメージして開発されたモデルだという。ひとことでいうと、どこでも走れるスーパースポーツ。ラリークロスという競技用車両ともイメージが通じる。

ステラートとは、イタリア語でグラベル(砂利)の意。車高を持ち上げるとともに、ボディ側面のエアインテークを、土ぼこりを吸い込まないようルーフに移すなどしている。

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車高がすこし持ち上げられ、ホイールハウスまわりには、わざと、急ごしらえで取り付けたようなクラディング(合成樹脂のプロテクション)が設けられて雰囲気をだしている

 

私がホンモノに初対面したのは、23年5月中旬のカリフォルニア州パームスプリングス。なんでここ?という理由は、ほどなく判明。

試乗のためにランボルギーニが用意してくれたコースは、砂漠のような土と砂利の平地のなかに設けられたサーキットだった。

チャクワラバリー・レースウェイという、市街地から1時間ほどの”なーんもない”ところにあるサーキットだ。

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アンダーボディのプロテクションが視覚上のハイライトのひとつで、ラリーマシンの雰囲気を盛り上げている

 

サーキットでの試乗はランボルーニの常なので、そこは想像がついたが、心底驚かされたのは、ダートロードを組み合わせていたこと。

サーキットを走って、そのあとタイヤを履き替えるなど準備して、さあ今度はダートですよ、っていうんじゃない。舗装路面と土と砂利の路面が切れ目なく続いているコースが用意されていたのだ。

ウラカン・ステラートは、デザインも同時に目をひく。

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通常は車体側面からキャビン背後のエンジンルームに冷却用外気を導入するが、オフロード走行を考えてエアスクープはルーフ後端に移された

 

「一目見ただけで鳥肌がたつような、感情をぱっと喚起するデザイン。ねらったのはそこです」

ヘッドオブデザインのミチャ・ボルカート氏も、このサーキットに姿を見せ、デザインの背景にあった考えを披露してくれた。

「ステファン・ウィンケルマンが、(2020年12月に)CEOに就任したとき、初日のプレゼンで見せたのが、ウラカン・ステラートでした。お披露目して、すぐプロジェクトにゴーが出ました」

ボルカート氏によると、現代のグループBを作りたいというモア氏のコンセプトに従って、デザインを手がけていったのは、たいへん楽しい体験だったという。

「ラリー競技車って魅力的なんですね。じつは、(2023年11月に発表された)ポルシェ911ダカールも、私がポルシェのスタイリングセンターにいたときのプロジェクトです」

私はまさに、ウラカン・ステラートと、911ダカールがほとんど同じタイミングで発表されたのをみて、スポーツカーの世界でもある種のクロスオーバーがトレンドになるのか、と思っていた。

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かつてのグループBマシン「953」(1984)をイメージしたポルシェ911ダカール

 

従来とはちがう舞台を走るためのデザインという点では、2台には共通点があるものの、しかしじっさいには「911ダカールはオフロード、ウラカン・ステラートはラリークロスマシンという違い」があるとボルカート氏は指摘。

「(舗装路も未舗装路も走る)ラリークロスのイメージでデザインしていますから、従来のウラカンとはちがって、車体が汚れれば汚れるほどクールなんです」

はたして、じっさいに土まみれになるのが、テストコースでの走行だった。

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ウラカン・ステラートはナチュラルな操縦性のために後輪操舵システムは採用されていない

 

驚くほどオフロードでの走りが楽しい。これがウラカン・ステラートをドライブしての感想だ。

土と砂利の道は起伏に満ち、90度ターンのような鋭角に近い曲がり角がいくつもある。そこを「(アクセルペダルを)踏め踏め」と励まされながら、走るのだ。

強めに加速してみるといかにすごいクルマかわかるはずです、というモア氏の言葉を念頭に、私は、最初は多少おっかなびっくり、そのあとは多少大胆にアクセルペダルを踏み込んでみた。

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LDVIというトルク制御システムとブレーキで車体の向きを調整するトルクベクタリング・バイ・ブレーキが車体のコントロール性に大きく寄与

 

強めにパワーを与えると、摩擦係数の低い路面でタイヤが滑って、車体のリアの部分が流れ出す。いわゆるドリフトだ。

お!流れた!と思っても、ステアリングホイールをあたふたと右や左に動かさず、ごくわずかにアクセルペダルに載せた足の力をゆるめると、後輪もグリップを回復。車体は直進位置に戻る。

この制御がすばらしいのだ。前後左右の車輪への駆動力を制御するシステムと、ブレーキを使って車体の姿勢を立て直すシステムが、すばらしい”仕事”をしてくれる。

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機能性の高いコクピットで、センターコンソールでは走行シーンを録画できるドライブレコーダーや自分の運転の診断ができるテレメトリも操作できる

 

サスペンションも、このクルマのキャラクターに合わせて専用のチューニングが施してあるせいで、神経質な動きはない。それはサーキットの舗装路面でも同じだった。

つまり、ウラカン・ステラートは、キワモノ的な、SUVとスポーツカーとの合体コンセプトでなく、理想主義的なクルマづくりのコンセプトに裏打ちされたモデルなのだ。

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外板色と内装の仕上げはじつに豊富で、このような人工スウェードを部分的に使った機能とデザインが一体化したシートも選べる

 

「ウラカンのオーナーに乗ってもらったところ、90パーセントのひとが(ウラカン・ステラートが)ベストのウラカンと言いました」

モア氏は、わが意を得たばかりの笑顔とともに、そう語る。BEV前夜ともいえるいま、すごいクルマが出たもんだ。

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ジェントルにもスポーティにも気分の向くままに運転を楽しめるが、ウラカン・ステラートの魅力だった

 


Specifications
Lamborghini Huracan Sterrato
全長×全幅×全高 4525x1956x1248mm
ホイールベース 2629mm
車重 1476kg
5204cc V型10気筒ミドシップ フルタイム4輪駆動
最高出力 449kW@8000rpm
最大トルク 560Nm@6000rpm
変速機 7段ツインクラッチ
価格 3116万5367円