逆転の発想でサステナブルなものづくり。ファンタジーな魅力あふれる「エルメスのpetit h―プティ アッシュ」を、大阪で体験せよ!

  • 文:小長谷奈都子

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舞台美術のような書割や動物たちの巨大な張り子で、美術館のソリッドな空間に、ハッピーでユーモアがあるプティ アッシュの世界観を作り上げた。 ⒸNacása & Partners Inc.

エルメスによる「エルメスのpetit h―プティ アッシュ」が大阪中之島美術館で開催中だ。プティ アッシュは2010年にエルメス家の6代目であるパスカル・ミュサールが設立したメチエ(部門)。レザー、シルク、クリスタル、陶器、金属パーツなど、ほかのメチエで使われなくなった素材に、卓越した職人技と自由で柔軟な発想で新しい生命を吹き込み、まったく違ったオブジェに生まれ変わらせる。昨今、サステナブルな取り組みが幅広く浸透しているが、素材を大切にするエルメスでは、サステナブルなものづくりが行われていたのだ。

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独創的で遊び心あふれるオブジェのコレクションを携えて、旅するように各国を巡るプティ アッシュが、2011年の銀座、2015年の京都に続いて、3回目の日本上陸を果たした。会場は2022年にオープンしたばかりの明るく開放的な大阪中之島美術館。空間デザインを手がけたのは、 長年にわたってプティ アッシュの活動に関わってきたアーティストの河原シンスケだ。

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セノグラフィーのストーリーは、日本ではポピュラーだがヨーロッパにはほとんど生息していないサルが、フランスからプティ アッシュの世界を運んできたウサギとカエル、エルメスを象徴する馬を迎えるというもの。 ⒸNacása & Partners Inc.
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家具、ファッション・アクセサリー、チャーム、スモールレザーグッズなど、1階の販売エリアには遊び心あふれるコレクションが並ぶ。1階販売エリアは要予約。 ⒸNacása & Partners Inc.

2フロアにわかれ、自然光がたっぷりと差す2階には、パリ郊外のパンタンにあるアトリエを再現。鯉のぼりの形をした大きなトンネルの中は、壁いっぱいに多種多様な素材が並べられた棚のイメージ。実際にシルクやレザーなどの切れ端に触れるようになっている。その周りでは、さまざまな異素材を組み合わせたプティ アッシュのオブジェと、その制作プロセスを紹介している。

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2階の展示エリアの目玉は鯉のぼりのトンネル内につくられた、アトリエの素材庫を再現した棚。実際にシルクやレザーに触れることができ、アトリエのクリエイションを疑似体験できる。 ⒸNacása & Partners Inc.
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鯉のぼりの周りでは、素材を再利用して新しいオブジェを生み出す制作プロセスを紹介。 ⒸNacása & Partners Inc.

1階に下りると、そこはまるでプティ アッシュの森に迷い込んだようなファンタジックな空間。案内役は鳥獣戯画に出てくるようなサルとウサギ、カエル、そしてエルメスを象徴する馬といった動物たち。舞台美術のような書割で、ポエティックでストーリーを感じさせるスペースに仕上げている。楽しげに展示されたオブジェの数々は、ピンチやマスキングテープ、アイピロウといった小さいものから、ギター、クッション、シーソー、テーブルといった大きなものまで、実にユニークでバラエティに富んだラインナップ。中には阪神タイガースのトラや新世界にあったふぐ店「づぼらや」のフグなどをモチーフにし、大阪へのオマージュを表現したものも。一角ではプティ アッシュのアトリエから届いた端材を使ってオリジナルのノートブックを作るという子ども向けのワークショップ(予約制)を開催している。

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1階の販売エリア。さまざまなメチエから届いた素材が組み合わされ、新しい生命が吹き込まれたユニークなオブジェたち。丸いオブジェはバランスボールで、大阪・新世界にあったふぐ店からのインスピレーション。 ⒸNacása & Partners Inc.
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販売エリアの一角で開催される子ども向けのワークショップ。アトリエから届いたシルクやレザーなどの端材を使って、デザインを考えたり、手を動かす楽しさを体験しながら、オリジナルのノートブックがつくれる。 ⒸNacása & Partners Inc.

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プティ アッシュの世界観を楽しく見て、知って、感じることができる本展。そのものづくりの背景や本展の魅力について、2018年よりクリエイティブ・ディレクターを務めるアーティストのコドフロワ・ドゥ・ヴィリユーに聞いた。

——エルメスが考えるサステナビリティとは。

すばらしい素材がメゾンの基礎であり、そこからつくり出すオブジェは、できるだけ長く使えるもの、壊れても修理できるものです。プティ アッシュも同じ考えで、修理しながら長く使えるものをつくっています。日常生活の中で生かされ、楽しんで使ってもらえるようなもの、オブジェと使う人との関係性が築けるようなものです。プティ アッシュは、メゾンのサステナビリティな取り組みの方向性を示しているといえるのではないでしょうか。

——困難に感じることや今後取り組みたいことはありますか。

困難なことこそ、チャンスを生んでくれる機会になると思っています。日々パンタンのアトリエで職人たちと意見交換して開発に取り組んでいますが、いろいろな場所を旅することも好きです。知らなかった職人技やノウハウ、新しい人々との出会いに興味津々で、プティ アッシュのアトリエも定住式ではないノマドなアトリエにしたら、もっと出会いが広がったり、経験を共有できたりして面白くなるのではと思っています。

——チーム作りで大切にしていることはなんですか。

人間関係です。チームは職人10人を含む30人で構成され、小さいチームだからこそ、みんなで話し合いながら一緒になってものづくりしています。協同するアーティストの方々とも、きちんとコミュニケーションが取れて、アトリエの取り組みを理解してもらい、職人ともうまく仕事ができれば、よりいい仕事ができると思っています。

——今回の会場を大阪中之島美術館に決めた理由は。

プティ アッシュが美術館で展覧会を開くのは、世界でも初めてのことなんです。端材から新しいものを作り出すプロセスや我々独自の取り組みを、なるべく多くの人に知ってもらうのに絶好の場所だと思っています。

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プティ アッシュに10年近く関わっているアーティストの河原シンスケ(左)と、クリエイティブ・ディレクターのゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユー(右)。 ⒸHiroaki Kishima

——セノグラフィーを河原シンスケさんにお願いした経緯は。

プティ アッシュは人間関係をとても大切に考えていて、出会い、共有すること、意見交換などを大事にしています。早い段階からプティ アッシュの一緒に仕事をしていて、私たちが大好きなシンスケに今回セノグラフィーをお願いしたのはとても自然なことでした。シンスケが持ってきた動物たちが登場するストーリーを聞いて、どんな空間デザインになるかはわからなかったけれど、全幅の信頼をおいてお願いしました。

——本展で特に注目のオブジェがあれば教えてください。

1年前に来日してたくさんのインスピレーションを受けて、いっぱい新しいものを作りました。フグのバランスボールや弁当箱、鯉のぼり、テラゾータイルの技術を使ったコーヒーテーブルなど、本当にすべての自慢のコレクションですが、京都の伝統工芸の老舗、開化堂とのコラボレーションは、ローカルの職人技とつながった初の試みなので注目してほしいですね。ローカルの職人技やノウハウとのつながりは、これからも積極的に取り組んでいきたいです。

——エルメスの企画展にはいつも楽しいワークショップが付随していますが、その意図は。

モノを売ることが大切ではなくて、私たちみんなが楽しめることを大切にしているからです。子どももおじいちゃんもおばあちゃんもいいなとわかってくれて、楽しいとか、びっくりとか、やりたいとか、ほしいとか、いろんなことを巻き起こして、子ども心をくすぐるような仕掛けを考えています。私たちが日頃素材との関わりの中でクリエイションしているというのを皆さんとシェアできるように、今回は普段は触ることのない素材に触ってもらえるようなワークショップや展示になっています。

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すべての素材に価値があるとするエルメスと、すべてのモノに魂が宿るという発想のもとモノを大切にする日本人の心。共通する精神が響き合うような本展では、素材の真の価値に思いを馳せたり、逆転の発想から生まれるものづくりや常識にとらわれないクリエイションを楽しく体験できるだろう。

「エルメスのpetit h―プティ アッシュ」

開催期間:4月29日(土・祝)~5月18日(木)
開催場所:大阪中之島美術館 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
定休日:5月8日(月)、5月15日(月)

https://www.hermes.com/jp/ja/story/192546-petit-h-event/