お金をなくした悲しみは2.25倍? 投資をしたいと思うのも損失回避だ

  • 文:川畑明美

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人は無意識に、得することよりも損することを避けようとする。利益の嬉しさと、損失の悲しみをあらわした価値関数によると、同じ1万円でも、もらった喜びを1とすると、なくした悲しみは2.25に感じるというのだ。なくした方が2倍以上印象に残る。


不思議なことだが、株価が上昇している時は「投資を教えて欲しい!」という、問い合わせが多くなる。ほとんど価値が増えない現金を持っていると多くのリターンを逃して「損」してしまうと考えてしまうからだ。株価が上昇していると価値が上がる株に投資したいというのは、理解できる。定期預金の金利が0.002%なのに、株を保有していたら10%増えるのならば、「今、投資しないと損してしまう」と考えてしまうのだ。人間は「損」することに意識が向くのでそのように考えてしまう。


ところが今のように株価が低迷している時には「投資を教えてください」という問い合わせは少なくなる。理論的に考えれば、株価が下がって安くなっている時に投資をしたら、景気が循環して次の株価上昇時には、大きなリターンを得られる可能性が高い。理論的に考えればわかるのに、「株価が下がった」というニュースが流れる時には「損をしてしまうのではないか」と思ってしまい、投資にチャレンジしたいという考えにならないのだ。

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下落相場に備えて預貯金も必要


また、株価が上昇している時ほどすべての資産を投資に回そうとしてしまう人もいる。しかし株価が上がれば、必ず下落する時もくるのだ。そして「上昇100日下げ3日」という格言があるように株価は上昇よりも下落の方が急激になりやすい。急落する時、心情的には想像を絶する地獄絵図を見ているかのようになってしまう。


そして「損失がある」場面では、損失の全面回避を最優先にしてしまうのでマイナスを見ていられなくなり、損を確定して売却してしまうのだ。特にお金に執着が強い人は、投資したことを後悔して「これ以上損をするのは嫌だからもう投資はやめよう」と思ってしまう。マイナスの時に売却してしまっては「損の確定」となってしまうので、その投資は失敗に終わってしまう。


一方、株価上昇時に下げ相場のことも意識して、すべての資産を投資に回さずに預貯金に残しておけば、マイナスにならない資産が残っているのだ。怖くなって「損の確定」をすることも避けられる。下落相場に備えて預貯金もある程度備えておくことが必要なのだ。

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たった400円でもマイナスは嫌!


投資を教えていると、本当に「損」が気になる人が多いと感じる。先日、こんなご質問をいただいた。「投資を始めて1年、安全資産だと思っていたファンドがマイナスを続けている。。。これは投資を始めたばかりの者にとっては不安でした」。銘柄と内容を伺うとマイナスの銘柄は、2%くらいのマイナスだった。2万円の投資額で400円程度だ。一方リスク資産のファンドは10%くらいマイナスになることがあっても逆に5%くらいプラスになることもあるので不安ではないのだそうだ。たった400円でも評価損が長く続くと気になってしまうのだ。


しかし、それは理論的ではない。プラス5%からマイナス10%と15%も値動きがあるファンドと2%程度の値動きしかないファンドを比較したら2%の値動きしかない方が安全性が高いといえるのだ。

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ニュースが自分のお金の値動きに関係


「安全資産=マイナスにならない」ということではない。安全性が高いということは、値動きの幅が小さいということを指す。そして経済状況によっては、小幅なマイナスが1年くらい続くこともありえるのだ。安全資産でも値動きの幅が小さいが、1年間ずっとマイナスになることもある。


たった2%のマイナスでも「損」に耐えられないのだ。この損失が耐えられないことを「リスク容認度が低い」という。マイナスになった時に恐怖を感じてしまう度合いが強い人だ。そもそもリスク容認度が低い人は、リスクが必ずある投資はしない方が良い。リスクのある商品にはリターンを得られる可能性もあるが、必ずリターンが得られるという保証はない。


ご質問いただいた方には、なぜ現在マイナスが続いているのかを説明して、そういう経済状況が一変したらプラスになることをお伝えしたところ、ご理解いただけた。経済状況とは、私達がよくニュースで耳にするものだ。よく耳にする経済ニュースが自分のお金の値動きに関係しているのだ。そういうお金の構造を知らないと、上手にお金を増やすことができない。

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お金を増やす必要性を十分に考える


働いて得るお金だけで、マイホームや教育費、老後資金まで十分に足りるのならばリスクを取って投資する必要はない。筆者は社会人になってすぐの頃、証券口座を開設して年利2~3%くらいの運用をしていた。子ども2人が中学まで公立で高校・大学で私立に通う予定だったら年利3%の運用で教育費も老後資金も足りると試算していた。


ところが子どもが中学受験をしたいというので再度試算をしてみたところ、年利3%ではとても足りないことがわかったのだ。子ども2人分の学費だけならば足りるが、進学塾や大学受験の予備校費まで計算すると資金不足になる。毎月14万円くらい貯蓄したとして試算して50万円ほどマイナスになる。教育費だけで資金が尽きてしまい、老後資金なんてまったく貯められないという試算結果だった。


月に14万円貯蓄というのは、かなり頑張っている方だと思っていたのだが、まったく足りなかったのだ。そして、それ以上の貯蓄額を増やすとなると、家族での楽しみも我慢することになってしまう。少なくとも3%の倍、6%のリターンが必要だという試算結果だった。本格的に投資を勉強しなければならないと思ったのだ。

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お金を守りつつ増やすのは本当に難しい


ところが当時は、教育費を投資で増やしたいとファイナンシャルプランナーに相談するとこっぴどく怒られるばかりだった。2000年代初頭のころは、教育費を投資で増やすことはタブーだったのだ。使う時期まで10年くらいの期間があるのだから、十分増やせると思ってFP事務所に伺うと、叱られるばかりで口惜しさと絶望感しかなかった。なのでしかたなく独学で投資の勉強を始めたのだ。


最も気を付けたのが、お金を「守りつつ、増やす」ことだ。運用に失敗して受験ができなくなることは避けなければならなかった。無理な運用をして「減らしてしてしまった」場合、子どもの夢を叶えることができなくなってしまう。この「守りつつ、増やす」というのは、なかなか難しい。


株や投資信託の価格が急落すると脳の中の「扁桃核」という部分が反応するそうだ。扁桃核とは、快や不快を感じる部分で、うつ病の人はこの扁桃核が過剰に反応するようだ。そして、投資で損をした時に扁桃核は「死の恐怖」を感じた時に反応するのと同じくらいの強さなのだそうだ。動物が食べ物を失うことは死に繋がるのと同様に、お金が減るのは恐怖なのだ。


なので失うことに対して、ものすごく敏感に脳は反応してしまうのだ。恐怖を感じたら、理論的に考えるクセを付けることで損の恐怖は和らぐことはできる。投資するのならば、お金の構造を勉強して欲しい。自分の感情の通りに行動してしまうと必ずといっていいほど、投資は失敗してしまいう。脳に振り回されるのではなく「理論的」に考えることが重要だ。ピンチだと思っていた株価の下落はチャンスにつながるケースもあるのだから。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/