かつて流行した「クラシコイタリア」とは? イタリアの職人技が漂う、ダブルブレストのブレザー

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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着丈が短めで、脇ポケットもパッチタイプで、カジュアルなブレザースタイルに絶好のモデル。肩パッドが入っていないアンコン仕様で、着心地も快適。素材がメッシュタイプで、通気性も高いので、高温多湿な日本に絶好な一着だ。¥107,800 /タリアトーレ(トレメッツォ)

「大人の名品図鑑」ブレザー編 #6

正統な味わいとスポーティさを兼ね備えたトラッドアイテムの代表がブレザーだ。英国に出自を持ち、やがてアメリカに渡り、アメリカントラッドを象徴としての地位を確立する。日本にはアイビーブームのころに紹介され、何度かの流行を経て、いま再び注目を浴びている。今回は、世界各国から集めたブレザーの名品をお届けする。

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いまでは、洒落たセレクトショップや百貨店に行けばイタリアで仕立てられたクラシック調のジャケットやスーツを容易に手に入れることができるが、それが普通になったのはまだまだ最近、たぶん90年代後半からではないだろうか。

実は、その前にもメンズファッションでイタリアが日本で席巻した時期があった。70年代終わりから80年代初頭にかけての、ジョルジオ アルマーニに代表されるイタリアのデザイナーブランドの流行だ。当時日本はバブル経済まっさかり。スーツからカジュアルまで誰もがイタリア、イタリアと言いはじめ、「イタカジ(イタリアン・カジュアルの略)」という言葉さえも生まれた。しかしこの流行で注目されたのはデザイナーであり、イタリアの「新しさ、斬新さ」だったに違いない。

イタリアでつくられたテーラードアイテムが脚光を浴びるようになったのは、90年代後半から2000年中頃までのいわゆる「クラシコイタリア」のブームからだろう。日本のスーツ業界にまで多大なる影響を与えて、多くのスーツブランドがイタリア的なテーラードスタイルやテクニック、ディテールを指向するようになった。2022年7月の「MEN’S EX ONLINE」で、ビームスのクリエイティブディレクター中村達也は「“イタリアにクラシックスタイルが存在する”ということが何より衝撃でした」と書いている。それまでは日本ではイタリアはモードの国、デザイナーの国という認識だったのだ。

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「クラシコイタリア」ブームのきっかけ

そもそも「クラシコイタリア」のブームは、1986年にイタリアのフィレンツェで設立された「クラシコイタリア協会」に端を発する。メイド・イン・イタリアを旗印に自国のファッション産業の育成と世界進出を目指して設立されたもので、キートン、イザイアなどがメンバーになり、世界最大のメンズ見本市であるピッティ・ウオモにも彼ら専用のブースがつくられ注目を浴びた。ファッション評論家の遠山周平はその著書『背広のプライド』(亀鑑書房、00年)の中で「クラシコイタリアというのは、20世紀前半に英国で完成させた紳士服のスタイルを、現代のニーズに合わせてイタリア人が再デザインしたもの」と断言する。

そして「クラシコイタリアの製造者には『クラシックなスタイルのもつ質の良いスーツは、機械だけでは到底つくりきれない』という強い信念があって、背広づくりの重要な部分はいまだにハンドメイドされている」と記している。つまり機械とハンド=手作業の融合こそ「クラシコイタリア」のテーラードの特徴。

考えてみれば、このブームが到来するまでメンズファッション、特にスーツやジャケットなどのテーラードアイテムで常に話題になったのはデザインだった。それはトラッドアイテムについても同じ。ボタンがいくつあるとか、シルエットが変わったとか、デザインを語るだけで、縫製や職人的なテクニックなどがファッション誌で語れることはほとんどなかった。そういう意味では「クラシコイタリア」が果たした日本のメンズファッションへの影響は大きく、貢献度も高い。

ではこのブームの中で、ブレザーはどういうポジションになったのだろうか。99年に発行された『エスクァイア日本版 5月号別冊 クラシコ イタリア読本』を再読してみた。クラシコイタリアのマストアイテムとしてスーツ、シャツ、ネクタイ、靴などは紹介されているが、ブレザーやジャケットは一枚も登場しない。97年に発行された『クラシコ・イタリア礼賛』(落合正勝著 世界文化社)でもそれは同じで、一切ブレザーについて触れられていない。

しかし、イタリア語で青やネイビーを意味する「アズーロ」はイタリアの男性のドレススタイルの基本となるもので、多くのブランドがネイビーのジャケットを製作しているはず。現地のショップなどで見た記憶があるし、購入した覚えもある。しかし多くのイタリア人が愛用していたのは金ボタンのブレザーではなく、ネイビージャケットだったかもしれない。当時、日本でもネイビーの上着を選ぶならば、ジャケットタイプを選んだ人も多いはずだ。その方が着る場面を選ばす、スーツ風にも着られるからだ。そもそもイタリアやフランスではジャケットとブレザーの違いも曖昧だったように思う。

しかし、ここ数年、前述のピッティ・ウオモに集まった業界関係者のスナップ写真をみると、流行に敏感なイタリアらしく、多くの人がブレザーを着ている。しかもダブルブレストが主流で、細身のパンツやジーンズを合わせ、足元はクラシックな革靴かシンプルなスニーカーを合わせる。ボタンを留めずに、ブルゾン感覚でラフに着ている人もたくさんいる。こうした“ハズし”のテクニックはイタリア人にやらせると、本当に上手だと痛感する。

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個性の異なる2つのイタリア・ブランド 

今回紹介するのもダブルブレストのブレザー。ブランドはタリアトーレとボリオリだ。

タリアトーレはイタリアの最南ブーリア州で創業したブランドで、2代目オーナーでこのブランドのクリエイティブディレクターを務めるピノ・レラリオがつくるジャケットは、クラシックでありながらも次世代の紳士像を表現するもので、日本でも人気が高い。ちなみにブランド名はイタリア語で「裁断士」という意味をもつ。

一方、ボリオリはイタリア北部ロンバルディア州で創業。「クラシック&モダン」をコンセプトに「ドーヴァー」「Kジャケット」などの次々とニューモデルを開発し、日本での知名度も高いブランドだ。いずれも柔らかで身体を包み込んでくれる仕立てにイタリアの職人技を感じ取ることができる。また素材選びにもイタリアらしいセンスが感じられ、イタリア人好みの「アズーロ」と言っても、さまざまな表現があることがわかる。ブレザーそものものデザインも英国流のクラシックなダブルブレストとは明らかに違う。

カジュアルなイメージでもエレガントにブレザーを着たいという人は、イタリアで生まれたこれらのダブルブレストモデルを選んでみてはどうだろうか。

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イタリア人好みのブレザースタイル。カジュアルな感じをどこかに演出し、パンツはくるぶしが見えるくらいの丈で。ブレザー¥107,800、靴¥77,000/ともにタリアトーレ、ベルト¥41,800/イル ミーチョ(すべてトレメッツォ TEL:03-6418-6039) シャツ¥25,300/ギ ローバー、スカーフ¥31,900/ステファノ カウ(ともにバインド PR TEL:03-6416-0441) ジーンズ¥46,200/PT トリノ デニム/PT  JAPAN TEL:03-5485-0058

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着ている感じがしないような薄手のメッシュ素材を採用。素材づかいにも定評あるブランドらしいセレクトだ。

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アンコン仕立てながら、上着の内側にポケットが用意されている。そのポケットに「タリアトーレ」の織りネームが縫い付けられている。

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ボリオリを代表する「ドーヴァー」のダブルブレストブレザー。素材はリネン100%で、爽やかな着心地が楽しめる。軽やかなアンコンの仕立てで、袖まくりして着ても洒落ている。ラペルにハンドステッチにクラフツマンシップが香る。¥160,060/ボリオリ(アマン)

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ボリオリは1890年に創業し、創業当時からの伝統に現代的な要素を加えて、現代のニーズに合わせたイタリアンテーラードを表現するブランドとして人気が高い。

 

問い合わせ先/トレメッツォ TEL:03-5464-1158

http://tremezzo.jp

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