"フレンチトラッド"を体現する、オールドイングランドのネイビーブレザー

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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ウール100%、3ボタン段返りのトラディショナルなデザインながら、どこかフランスを感じさせるオールド イングランドらしいネイビーブレザー。ダーツを入れたウエストは身体に沿って程よく絞られ、着る人に気品を与えてくれる。¥82,500/オールド イングランド

「大人の名品図鑑」ブレザー編 #5

正統な味わいとスポーティさを兼ね備えたトラッドアイテムの代表がブレザーだ。英国に出自を持ち、やがてアメリカに渡り、アメリカントラッドを象徴としての地位を確立する。日本にはアイビーブームのころに紹介され、何度かの流行を経て、いま再び注目を浴びている。今回は、世界各国から集めたブレザーの名品をお届けする。

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プレッピーファッションの後、日本でブレザーに再びスポットライトが浴びたのが、80年代後半から90年代前半にかけてのいわゆる「渋カジ」の流行に違いない。渋カジとは渋谷カジュアルの略で、それまで大流行した「DCブランド」に代わって、アメリカンカジュアル=アメカジが一挙にブームの中心になったのがこの頃。その担い手は1971〜74年生まれで世代人口800万人を超える団塊のジュニアたちで、渋谷や港区などの山手線沿線の有名私立高校に通う高校生たちが流行の源だった。

特にブーム後半の「キレカジ(キレイ目カジュアルの略)」では、ブレザーは象徴的なアイテムとして人気を集めた。『渋カジが、私を作った。』(増田海治郎著 講談社 17年)には「キレカジといえば何はさておき紺ブレ(ネイビー・ブレザー)である。それ以前もインポートショップのスタッフが着ていたのは間違いないが、89年頃からファッションリーダーが着はじめ、90年春には先端層に浸透、秋を迎える頃には、持っていないと恥ずかしいくらいの存在となり、インポートショップでは熾烈な争奪戦が繰り広がられた」とある。その章には綿谷寛が描いたイラストも添えられているが、ポロ ラルフ ローレンのダブルブレストのブレザーに同じブランドのボタンダウンシャツ、ブラックウォッチのパンツ、足元はティンバーランドのモカシンが描かれている。

ジーンズを中心にした渋カジ前期と違って、全身アメリカブランドだが、トラッド風でまとめているところがこのキレカジの特徴だろう。この時代、こんなブレザーの着こなしを楽しんだ人も多いはずだ。

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フランスにおける「BCBG」とは?

この頃、フランスで一冊の本が出版されている。ティエリ・マントゥが書いた『フランス上流階級 BCBG』(伊藤緋紗子訳 講談社 初版は90年)だ。「BCBG」とはフランス語で「BON CHIC BON GENRE」の略で「ベーセー・ベージェー」と読む。「上品で育ちの良い」という意味だと書かれている。同書の副題に「フランス人のおしゃれ・趣味・生き方のバイブル」とあり、そうした嗜好を持つ人について解説した本だ。

では「BCBG」とはどんなファッションを指すのであろうか。同書のプロローグでは「流行とBCBGはお互い相容れないもの。流行は通過するもので、BCBG族とそのスタイルは永遠に残るものなのです」とある。さらに「BCBG族は、スローンレンジャーや、少しニュアンスがちがいますがアメリカのプレッピーたちのように誕生しました」と書く。

ちなみにスローンレンジャーとは、ロンドンのチェルシー地区の一角にあるスローンスクエアという高級住宅地を中心にした人たちが好むスタイルで、その象徴が故ダイアナ妃。82年には『The official Slone Ranger Handbook』がイギリスで出版され、ヒットとなった。英国のスローンレンジャー同様に、BCBGとは、モノが先行するような単純な流行ではなく、ヨーロッパの社会やライフスタイルを反映したファッション、あるいはムーブメントと見るべきかもしれない。

第1章の「BCBGの条件」で彼らのスタイルについて解説されている。

「BCBDルックは、一目瞭然のものですが、はっきり定義できません」

「持ち物以上にモノを言う『ルック』を持ち合わせていなくてはいけないのです」

「BCBGルックは、目に見えるものを超えたBCBGイズムのエッセンスそのもので、これは生まれたときからもっているか否かの問題です」

こうした記述をまとめてみると、正直、日本人にはまだまだわからないところも多い。概念的で、フランスに根ざした階級文化さえ感じられるが、ともあれ、こうしたファッション本にも注目が集まり、フランス人の感性で自由に着こなすトラッドなスタイルが90年代には日本でも注目を集めるようになったのは事実である。

こうしたフランス流のスタイルを日本では「フレンチトラッド」とか「フレンチアイビー」と呼ばれることも多かったと記憶している。アイビーやトラッドのようにわかりやすい定型のスタイルはなく、フランスブランドの服でまとめてもそのスタイルは完成するわけではない。着る人が身に着けているセンスがものをいう、そんな流行現象だったように思う。

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世界中の伊達男たちが通った老舗、オールド イングランド

そんな90年に絶好のタイミングで日本に上陸を果たしたのが、フランス随一の老舗であるオールド イングランドだ。1867年、モードの都、パリの中心地、オペラ座の近くのキャプシーヌ通りとヴォルネイ通りの角地にオールド イングランド1号店が生まれた。フレンチトラッドをイメージできるジャケットやシャツなどに加え、その店名の通り、英国からも老舗級のトラッドアイテムを一堂に揃え、ファッションに限らず、ライフスタイル全般を扱う百貨店のような巨大なショップだった。ウィンザー公、ジャン・コクトー、オスカー・ワイルドなど、世界中の伊達男たちがこぞって通った老舗でもある。

そんなオールド イングランドにあってダッフルコート同様に、世代を超えて愛用される「百年定番」に挙げられているのが、ネイビーのブレザーだ。着丈をやや短くし、芯地などを抑えて軽快なシルエットに仕上げたモデル。肩はナチュラルショルダーで、ラペルはやや太く、上襟と下襟の継ぎ目がフィッシュマウス(魚の口)の形状に似ているところはフランス流のテーラードスタイルの特徴だろう。

クラシカルな中にも現代的なエッセンスが加えられているのがフランス流であり、オールド イングランドのブレザーの奥深さではないだろうか。今回紹介するブレザーでは、メタルボタンはシルバーが選ばれ、胸ポケットはウエルトタイプ。脇ポケットはフラップのみで、ネイビーのジャケットと同じような気分で着られる。あとはこのフランス流のブレザーをどのように料理するかが肝心だ。前述のBCBGの本を参考にすれば、ブレザーをお洒落に着こなすことはそうとう年季がいることらしい。しかしそれもフランス流のスタイルの真髄。挑戦しがいがある。

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ネイビーブレザーにきれいな色のストライプシャツを合わせるのがフランス流か。白のコットンパンツで、カジュアルさとシックさを表現。ブレザー¥82,500、シャツ¥31,900、パンツ¥42,900/すべてオールド イングランド、靴¥71,500/パラブーツ

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お台場仕上げを施し、丁寧に仕上げられたオールド イングランドのブレザー。赤のステッチにもセンスを感じる。裏地にもクレストが入っている。紋章にはQualityFirst(品質第一)とSincerity and Confidence(誠実と信頼)の文字が刻まれれている。

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クレストが刻印されたシルバーのメタルボタン。ブランドの歴史を感じさせるアクセントになっている。

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シングルのブレザーと同様の素材を使ったダブルブレストモデル。ボタンの数は6個で、シルバーのメタルボタン。袖ボタンが重ねて付けられているところもクラシック。¥85,800/オールド イングランド

問い合わせ先/オールド イングランド 丸の内店 TEL:03-3217-2850

http://oldengland.jp

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